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第七人類絶滅報告書  作者: ななめハンバーグカルパス
第四部 デルタは目を瞑る
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灯りの番人

 窓へ近づいた瞬間、頬に冷たいものが押し当てられた。

 金属だ。それも、撃鉄の感触まで伝わってくる、本物の銃口。


「動くな」


 低い声が、闇の中から落ちてきた。サキは動かなかった。動けない、のではない。動く必要を感じなかっただけだ。

 この程度の冷たさなら、もう何年も前から知っている。


「武器は持ってない」


 声だけを返す。両手を、ゆっくりと、見える位置まで上げた。

 しばらくの沈黙。値踏みするような視線が、肌の上を這う感触があった。


「……F.C.E.U.か」


 低く呟かれた言葉に、サキの肩がわずかに強張る。匂いでわかるのか、歩き方でわかるのか。どちらにせよ、見破られたことに変わりはない。


「元、よ」


 銃口が、わずかに下がった。

 闇の奥から、男が一歩、灯りの中へ踏み出してくる。肩幅の広い、岩のような体躯。頬から顎にかけて走る古い傷跡が、灯油ランプの光に、一瞬、金色に縁取られた。


 考古学者の目が、勝手に動き出す——これは刃物の傷。こちらは火傷の跡。読み取れるだけの記録が、一人の男の顔に刻まれている。


「ヴァディム」


 それだけ名乗ると、男は銃をホルスターに戻した。


「お前、F.C.E.U.の犬にしちゃ、肝が据わりすぎてる」


「もう犬じゃないから」


 ヴァディムは、小さく鼻を鳴らした。笑ったのか、呆れたのか、判別がつかない。


 部屋の中は、缶詰の山と継ぎ接ぎだらけの毛布、壁に立てかけられた数本の鉄パイプで埋まっていた。生き延びるための道具が、雑に、けれど几帳面に並んでいる。几帳面さの方が、この男の本性なのだろう、とサキは思う。


「ここで何を見張ってるの」


「人間を」


 ヴァディムは窓の外へ顎をしゃくった。


「ウイルスでも、化け物でもない。生き残った人間の中にも、ろくでもないのがいる」


 語る声に、抑揚はなかった。抑揚のなさが、かえって重みを増した。


「H-住民の女に手を出す連中がいる。年若い女ばかり狙って、夜に攫っていく」


 言葉を切り、ヴァディムはランプの芯を少しだけ上げた。光が、彼の目の奥の何かを照らし出す。


「あいつらに意志がないからって、何をしてもいいと思ってる」


 サキの中で、何かが冷たく固まった。死者の朝を覗き見ることに意味を探していた自分が、急に、ひどく小さく思える。


「だから、見張ってる。それだけだ」


 そのとき——

 遠く、ビルの谷間から、悲鳴が裂けた。


 ヴァディムの顔色が変わった。鉄パイプを掴み取る動きに、迷いはなかった。


「来い。話はあとだ」


 サキは、すでに走り出していた。

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