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第七人類絶滅報告書  作者: ななめハンバーグカルパス
第四部 デルタは目を瞑る
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メビウスの桟橋

 街に足を踏み入れた瞬間、空気の密度が変わった。


 これまで通ってきたどの廃墟とも違う。声、声、声。怒鳴り合う値段交渉、子供の泣き声、何語かもわからない歌——人の出す音が、ここでは生きるための道具として、ひしめき合っていた。


 サキは、無意識に肩を縮めていた。久しく忘れていた感覚だった。人混みは、Hの群れより、ずっと予測がつかない。

 ヴァディムは、慣れた足取りで雑踏を抜けていく。


 露店の隙間、錆びたコンテナの隙間——彼にとっては、何度も歩いた道なのだろう。

 桟橋の手前で、二人組の男が行く手を塞いだ。


「メビウスに用か」


「ナージャに会いたい」


 ヴァディムが、短く答える。

 男たちは、しばらくサキを値踏みするように見てから、道を空けた。


 桟橋の先、錆だらけの貨物船の前に、痩せた女が立っていた。風になびく髪を片手で押さえながら、近づく二人を眺めている。値踏みする目つきは、さっきの男たちより、ずっと鋭かった。


「ヴァディム。生きてたか」


「お前ほどしぶとくはない」


 ナージャの視線が、サキへ移る。

 値踏みの時間が、心なしか長かった。


「その顔」


 彼女が、ぽつりと言った。


「見覚えがある」


 サキの背筋に、冷たいものが走った。


「市場の壁に貼ってある紙。文明復興庁の手配書。顔だけは、わりと鮮明だった」


 ヴァディムの肩が、わずかに強張る。


「金になる」


 ナージャが笑った。表情のない笑い方だった。


「お前を突き出せば、たぶん、船の修理代くらいにはなる」


「やらない方がいい」


 サキは、感情を込めずに言った。それが、かえって効いたのかナージャの片眉が上がる。


「理由は」


「あんたの船員、何人か怪我してる」


 サキは、甲板の方を見やった。包帯を巻いた腕、足を引きずる男。


「数が足りないんでしょう。海の向こうまで」


 ナージャは、しばらく黙ってサキを見つめた。


「戦えるのか」


「F.C.E.U.仕込み」


 風が、桟橋の鎖を鳴らした。

 ナージャは、煙草に似た何かに火をつけ、一口吸ってから、煙を吐いた。


「労働で払え。航海中、何が起きても、お前が前に出ろ」


 彼女が、貨物船を親指で示した。


「出航は三日後だ。それまでに、態度を見て決める」


「決まりだ」


 ヴァディムが、先に頷いた。


 サキは、船体を見上げた。

 錆びた鉄の壁に、自分の進む先がまだ何も描かれていないことに気づく。


 三日後。

 そこから先は、海の上だ。

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