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第七人類絶滅報告書  作者: ななめハンバーグカルパス
第四部 デルタは目を瞑る
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目撃者

 泥の中に転がったまま、しばらく、どちらも動かなかった。


 川の方から、まだ水しぶきの余韻が届いている。サキは、ゆっくりと身を起こした。

 腕に走る感覚——もう、知っている感触だった。

 鈍い痛みの奥で、何かが疼きながら、自分の輪郭を編み直そうとしている。


 裂けた皮膚から、血が滲んでいた。


「見せろ」


 ヴァディムが、這うようにして近づいてくる。職業的な、傷の確認の仕草だった。野盗にでもやられ慣れているのだろう、その手つきには迷いがない。

 隠す理由を、サキは見つけられなかった。隠したところで、いずれわかることだ。


 腕を、黙って差し出す。

 差し出した瞬間にも、傷の縁では、すでに修復が始まっていた。糸のような金色の光が、裂けた皮膚の両端から滲み出し、互いに手を伸ばすように絡み合っていく。


 サキにとっては、もう何度目かわからない光景だった。痛みより先に、ただ「ああ、またこれか」という感覚が来る。


 ヴァディムの指が、傷口に触れる寸前で止まった。

 肉が音もなく閉じていく。

 その間、サキはヴァディムの顔を見ていた。


 光が傷を縫い合わせていく様子よりも、彼の表情が変わっていく様子の方が、よほど目新しかった。

 瞬きを忘れた目、半分開いたまま動かない口。値踏みではなく、理解そのものが追いついていない顔だった。


「……今、何を見た」


 声は、震えてはいなかった。けれど、いつもより低く、慎重だった。


「見たままだと思う」


 サキは、皮膚の上にうっすらと残った金色の縫い跡を、指でなぞった。

 痛みは、もうどこにもない。

 ヴァディムは、距離をわずかに取った。


 獣を前にしたときのような、計算された後退だった。


「前に、腹が減らないって言ったな」


「言った」


「冗談だと思ってた」


「冗談じゃない」


 サキは、自分の腕を見下ろしたまま続けた。


「ホモ・ロゴス化、っていうらしい。何度か、こうなった。だんだん人間だった部分が、削れていく」


 説明する声は、平らだった。驚きはもう、その言葉のどこにも残っていなかった。

 驚く段階は、とっくに通り過ぎている。


「お前は、それを——」


 ヴァディムが、言葉を探す。


「平気なのか」


「平気、なのかな。分からない」


 サキは、初めて彼の目を真っ直ぐに見た。


「ただ、慣れた」


 しばらく、川の音だけが、二人の間を流れた。

 ヴァディムは、サキの腕をもう一度だけ見つめてから、立ち上がった。


「化け物だとは言わない」


 彼が、手を差し出した。


「だが、人間とは呼ばない」


 サキは、その手を取った。


「それでいい」

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