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第七人類絶滅報告書  作者: ななめハンバーグカルパス
第四部 デルタは目を瞑る
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崩れる橋

 川幅は、思っていたよりずっと広かった。


 唯一架かっている鉄橋は、半分が錆びて朽ち落ち、骨組みだけが川面に影を落としている。

 ヴァディムが先に足をかけ、軋む音を確かめながら進んでいった。


「一人ずつだ。重さを分散させろ」


 サキは頷き、橋桁の隙間から見える川面に、一瞬目をやった。


 水が、揺れていた。風のせいではない。等間隔の波紋が、何かの規則に従うように、水面の上に文字のような形を結んでは、崩れていく。


 ワタシハ。ココニ。イル。

 読み取れた瞬間、首筋の毛が逆立った。


「進んで」


 自分の声が、思ったより硬かった。


 橋の中央に差しかかったところで、軋みが変わった。木材ではなく、金属が軋む音。橋脚に絡みついていたケーブルの束が、見えない力に引かれて、するすると持ち上がっていく。


「来るぞ」


 ヴァディムが、鉄パイプを構え直した。


 水面から、細長い影が躍り出た。錆びたワイヤーと割れたガラスが縒り合わさり、蛇のような輪郭を作っている。グリッチ・ハウンドの変種。


 橋が軋んだ。

 サキは身を低くした。鞭のように振られたワイヤーの束が、頭上をかすめる。


 足場が傾いた。

 ヴァディムの鉄パイプが、振り下ろされる。金属同士がぶつかる音。火花が散る。けれど怪物の輪郭は、崩れない。


「物理は効かない」


 ヴァディムが、舌打ちした。

 サキは、橋の継ぎ目——ボルトの緩んだ箇所を、視界の端に捉えていた。考える前に、足が動く。


 橋桁を蹴り、怪物の頭部目がけて飛んだ。

 着地と同時に、橋全体が悲鳴のような音を立てて傾く。

 怪物の輪郭が、サキの重みで一瞬たわんだ。


 その隙に、腕を、ガラス片の集合体の中心へ突き込む。

 冷たい。次に、熱い。腕の皮膚が裂ける感触。けれど止まらなかった。

 怪物の「核」——歪んだ波形を放つ、小さな金属片を握りつぶす。


 輪郭が、一斉に崩れ落ちた。錆とガラスが、川面に降り注ぐ音。

 それと同時に、橋桁を支えていたボルトが限界を迎えた。


「跳べ!」


 ヴァディムの声と同時に、足場が崩落する。サキは岸へ向かって跳んだ。空中で、腕の傷から金色の糸が編まれていく感触があった。


 水しぶきと、鉄の崩れ落ちる轟音が同時に響いた。

 泥の岸に転がり込む。すぐ隣に、ヴァディムが同じように倒れ込んでいた。


 二人で、しばらく動かなかった。

 振り返ると、橋はもう跡形もなかった。川面には、いつもの波紋だけが、何事もなかったように揺れている。


 戻る道は、もうない。

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