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第七人類絶滅報告書  作者: ななめハンバーグカルパス
第四部 デルタは目を瞑る
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焚き火の沈黙

 靴底は、もう紙のように薄くなっていた。

 最初の街を出てから、何度目の野営かは数えるのをやめている。


 森が途切れ、見渡す限りの枯れ草原に変わって、もうずいぶん経つ。

 ヴァディムは、相変わらず無言で先を歩く。

 けれど、夜になると、その口は少しだけ重さを取り戻す。


 焚き火の前で、ヴァディムが、初めて自分から口を開いた。


「俺はあの日、列車の中にいた」


 サキは、火に手をかざしたまま、続きを待った。


「隣に座ってた女が、急に本を読むのをやめた。文字が読めなくなった、って言ってた。次は、車掌のアナウンスが、ただの音にしか聞こえなくなった。最後は——」


 ヴァディムが、火を見つめたまま、言葉を切った。


「自分の名前を、思い出せなくなった奴を見た。何度も、何度も、口の中で同じ音を転がしてた。けど、出てこなかった」


 炎が爆ぜる音だけが、しばらく間を埋めた。


「お前は、どこにいた」


「タクラマカンの地下」


 言ってから、サキは少し驚いた。

 誰にも話したことのない場所の名前が、自分の口から思ったより簡単に出ていった。


「アークっていう施設がある。第七人類の記録を集めた場所。大沈黙の後、ずっとそこにいた」


 ヴァディムは、何も言わずに続きを促す沈黙を作った。その黙り方が上手かった。


「そこで、エレナに会った」


 名前を口にした瞬間、自分の声がわずかに柔らかくなったのが自分でもわかった。


「クラスIVだった。一番危険な分類。でも、彼女がしてたのは、ただ、機械と話すことと、データを整理することだけ」


「機械と話す、ってどういうことだ」


「文字通り。声に出さず、端末越しに。ほとんど、それでしか話さない人だった」


 火が、ぱちりと音を立てた。


「お前をここまで歩かせてる女か」


 サキは、答えなかった。答える必要がないほど、図星だった。

 ヴァディムは、しばらく火を見つめてから、低く言った。


「会ったこともない女に言うのもなんだが」


「なに」


「末恐ろしい女だな」


 サキは、思わず顔を上げた。


「クラスIVに分類されて、機械としか話さなくて、それでもお前に、ここまでの距離を歩かせる理由を作れる女だ。普通の女に、それができるか」


 反論しようとして、できなかった。

 火が、また小さく爆ぜた。風が、草原を渡っていく音だけが、しばらく二人の間を埋めた。


「明日には川に出る」


 ヴァディムが、立ち上がりながら言った。


「そこから先は、地図にない」

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