#18話 ~朝~
「ふっ…ふっ…ふっ…」
(んん…朝…)
カーテンの隙間から陽の光がかすかに差す
外はまだ完全に明るくなってはいない
不思議だ
自分の部屋に人が居る
まぁ、当然なんだけど
こんなのいつ振りだろうか
「師匠、おはようございます…本当に朝お早いんですね…」
「おはよう、ハル。ごめんね、起こしちゃった?」
「いえ、大丈夫です…」
寝ぼけの状態で答える
人の動く気配で起きたのは事実だが、自然に目が覚めた部分もある
「昨日は結構歩いて疲れてたから温かい場所で休めて良かったよ」
「お金もそんな無いしさ、もう1つハルに助けられちゃったね」
師匠はこちらに言葉を投げかけながら、不思議な踊り?をしている
握った拳をゆっくりと前に突き出し、止める
出していた手と脚を同時に引き、右に捻り半身で正面に構える
構えていた右手を今度は顔の左側へ
落としていた右脚を、ゆっくりと膝を曲げながら身体の横に
右脚を正面斜め下へ、一瞬止める
そのまま上へ
頭を僅かに越えた辺りで静止
身体の芯が一切ブレることなく、見事だ
程なくして脚を下ろし立ちの状態へ
「師匠、凄く綺麗な動きですね。一体何を?」
一連の動作を終え、背を向けていた師匠へ問う
「ん?あぁこれはね、『型』だよ。と言っても、オリジナルだから何とも言えないけどね」
「『型』、ですか…」
「一連の動きの流れを正しく行うで、良いのかな?剣士がする素振りみたいな準備運動だね」
準備運動であそこまでの動きを正確に
かつ、時間をかけて
「その、目的とか意味とかあるんですか?」
失礼を承知での質問
師匠のすることだ、意味が無い訳はないが
聞いておきたかった
「・・・。まぁ、練習だよ。相手と実際に立ち会った時の」
実際に立ち会った時…
それって
「戦闘…ですよね?」
「うん、そう」
起きた瞬間から他者との戦いを意識している
自分だって一切考えない訳ではないが
ここまでではない
「なぜ?」
「なぜってそりゃあ、死なないため」
「師匠ほどの人が死を意識しているんですか?しかも起きた瞬間、一日の始まりから…」
若干寝ていた脳に強烈な衝撃を叩き込まれ
少しずつ状況を整理できるようになってくる
「んーそんな生きる死ぬって大げさな話しじゃないよ、どんな相手といつ戦ってもいい様に頭の中で想像するの。相手がどんな体格で、どんな武器を持っていて、どんな構えで、どんな攻撃を仕掛けてくるのか、それを仮想の相手と実際に打ち合ってる、それだけ」
そう師匠は言いながら動きで実際に見せてくれる
相手はこう来たらこう
相手がこんな武器を持ってるんだったら、自分はまずこう
この動きを相手に見せると、こう返してくる可能性が高い
とか、とか
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふぅ…これを朝やるために大体いつも早起きなんだ」
「参考になりました、ありがとうございます」
途中からは僕も剣を持ち『型』に参加していた
剣持ちの相手とはあまり戦ったことがないらしく
新鮮な動きを経験できるととても喜んでいた
「まぁ私はこうしてるってだけだから参考にする必要はないけどね、ハルも素振りとかやってる時には考えてみると良いんじゃない?なんて」
なんか本当に師匠みたいじゃん!
師匠はそう言いながら笑っている
「実際の戦いならいつも想像してますよ…相手は決まってますけどね…」
思わず剣を握る手に力が入る
忘れもしない
血に染まった故郷の村
その中心に立つ
【血染めの剣士】
「どうしたの?暗い顔して。一緒に朝風呂入り行こうよ」
「この剣を振る時は、アイツを殺す時です…」
この小さな言葉が師匠の耳に届いてなくて良かった
復讐のために剣を、力を奮うなんて
まだこの人には知られたくない
「って、え?」
「私たち二人共結構動いて汗かいたんだし、街に出る前に綺麗にしないとねっ」
「いやちょっと無理ですって!本来一緒の部屋に居ること自体マズいんですから!」
「な~にがマズいの?別にいいじゃん」
「別に良くないです~!って力が強い!」
「逃がさないよ、髪洗って?」
「無理いいいいい!!あああああああああああああ!!!!」




