#19話 ~はじめての依頼~
「ん~!まだ動くには早いけどまぁいっか!どっかご飯食べ行こ?」
「そ、そうですね…」
朝の日課である運動と風呂を済ませハルと一緒に宿を出る
完全に陽が昇る前のまだ涼しい時間
行動を開始するならこんな時間に限る
「あれ?元気ない?」
言葉を投げかけるハルの顔が心なしかやつれているように見える
昨日は無理に自分の話に付き合わせてしまった
よく眠れなかったのだろうか
「いっいえ!そんなことはないですよ!ただちょっと、朝からすごい体験をしてしまったので…」
「???」
「さっきの『型』のこと?別に普通だよ、毎朝やってるんだから」
「まぁそれはいいんですけど…その他の後が…」
「????」
目線を逸らし中々正直に答えてくれないハル
自分の中に思い当たる節は無い
「そっ!それより師匠、これからの予定は?」
「ん?そうだね。まずはとりあえずご飯を食べて、それからギルドに行って依頼でも見てみようかなって思ってる」
現段階のアイデアをハルに話す
あとは、適当に王都内の探索だろうか
まぁそれはおいおいでも構わない
「なるほど、わかりました。でも、王都の飲食店やギルドが開くにはまだ少し暗いので、少し歩きましょうか。案内したい場所があります」
「うんわかった、よろしくね」
「はい!」
確かに周りにはあまり人が居ない
家では母が早起きだったため不思議な感覚がする
ハルと一緒に王都の中心へ
他愛ないことでも話しながら
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「あっ!コヨリさ~ん!おはようございます!いい朝ですね!」
「どうも」
ギルドに入った途端に名前を呼ばれた
声の主は初めてここに来た時にお世話になったギルドの女の人
こちらに向けて手を大きく振っている、元気な人だ
「さっそく依頼を受けに来ました?やる気ありますね~、一番乗りですよ」
「あはは…まぁね…」
近くに寄ると何やら作業中だったことがわかる
紙の束の仕分けをしていたようだ
「あの、これは?」
ハルも見たことのない作業のようだ
女性はニコニコと会話しながらだが、その手はもの凄い勢いで動いている
「あぁ~これはここに来た依頼書の内容を確認して、難易度によって分けています。依頼内容によって貼る場所が違うので、そこら辺りの人が迷わないようにやっています」
紙を見ると
『文字』や『絵』、『図解』などが書いてある
「えっと、貴女しかやってないように見えるんですけど?」
ハルがそう言う
確かに建物内には沢山の関係者が居るように見えるが、この人のように紙の仕分けをしている人は居ない
皆それぞれが掃除や装飾に精を出している
「あはっ♪そうですねぇ。まぁこれ、ボランティアなんで!本来の私の仕事じゃないですからね~」
「あっ、そうなんですね…」
ボランティア
いわゆるただ働き?お手伝い
とりあえず、自ら率先して動いてやっているようだ
「大体の依頼書って、依頼人さんの手書き、手作りなんですよ。依頼の内容も、それに対する報酬も全て個人でのやり取りになっています。内容にそぐわない報酬だったり、詐欺まがいのトンデモ依頼だったりしたら嫌じゃないですか?」
依頼書は全て手書き…
また1つ新しいことを知れた
「そ、そうだったんですね。まぁ、報酬辺りの統制が上手くいかず、依頼人と受注者の間でのいざこざが多々あるとも聞きますしね。いつもありがとうございます」
「いえいえなにせこの作業、本来は向こうの受付のお姉さんたちがしっかりとやってくれますので!冒険家窓口の私のお仕事じゃありません!」
「うーん、そんな元気よく言われても…」
朝早くから元気に働いてくれている
こんな優しい人に気にかけて貰えて非常に嬉しく思う
「そ・れ・で!コヨリさん、今日はどんなご用事で?」
「ん?今日は普通に依頼を受けに来たの。この王都内もそうだけど、それ以外も知るための勉強も含めて沢山やりたいな。あと、お金も稼がないとね」
依頼が王都内外から来ると言うのは既にハルから聞いている
それらを通して社会勉強をして、いい感じに修行する
適度にお金を稼ぎつつ
「それなら、バァーンと強い力を持つコヨリさんに、ピッタリな依頼をさっき見つけてますよ~?一応、中級なので受注できます!」
紙の束から素早く一枚の依頼書を引き抜き私に見せてくれる
「えっと、魔獣討伐依頼…?」
その依頼の内容はこの王都から少し離れた場所に住んでいる人からのものだった
魔の力で暴走した獣を鎮めて欲しいというもの
「えっと…まだちょっと早くない?私冒険家になったばっかりだし、それに魔獣ってなんか強そう」
正直初回からこれは荷が重い
なんかもっと簡単なやつが良い
「強そうって、それ師匠が言っちゃいけない台詞ですよ…。すみませんこれって、依頼者が中級の条件を満たしてるなら、同伴者の制限は無いんでしたっけ?」
ハルが不思議なことを呟いた後に女性へ質問をする
私はなぜか最初から中級だったが、本来は初級からのスタート
ハルが一緒に来れないなら行く意味もない
「そうですね、その場合同伴はできますよ。ですが、依頼成功の際の報酬の受け渡しは条件達成者のみとなりますので、仲のいい間柄でない場合はただ働きですね」
私のように!あははっ!
と、笑いながら説明してくれる
これは報酬の不当需給と無理な参加を抑えるいいシステムだと思う
「どうします、師匠?」
ハルが私に判断を委ねてくる
ハル本人としては行きたいらしいと何となく雰囲気で察しはつくが…
「ごめんなさい、やっぱり中級の依頼はまた後にします。今はしっかりとした段階を踏んでいきたいので」
せっかく勧めてくれた女性に申し訳ないと思いつつもハッキリと断りを入れる
物事には順序がある、信条を曲げたくはない
「珍しいですね…中級の資格を与えられた人は大体我先にと依頼に飛びつくんですけど…」
「えっ?」
窓口の人がボソボソと早口で独り言を呟いたのが聞こえた
内容はよく理解できなかったが
その顔には先ほどまでの笑顔は無かった
「ん?なにか?」
と思ったのもつかの間
また眩しい笑顔をこちらに向ける
「いえ、何でもないです」
気のせい
だったのだろうか
「師匠、僕は師匠の判断に従いますよ。実際、師匠の強さなら問題ないとは思いますが、やはりそれ相応の装備を整えてからでも遅くないかと」
ハルも私の考えに賛同してくれる
「そうですね、ごめんなさい。私ったら一人で盛り上がっちゃって」
「いや、大丈夫ですよ。色々ありがとうございます、また来ますね」
そろそろ自分でも依頼を見に行こうと女性に別れを告げ歩き出す
初級の依頼が貼ってある掲示板はそう遠くない
「そうだっ!私、『ミコ』って言います!またお願いしますね~!」
去り際に一際大きな声で女性 ー『ミコ』ー は挨拶をくれる
それに私とハルも手を振ることで応え
その場を後にする
「そう言えば、あの人の名前知らなかったね」
「何て言うか不思議な人ですよね、元気一杯で」
「うん、本当に」
いい人に出会えて良かった
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「それで師匠、依頼は何にしますか?初級なので色々ありますよ。採取系、力仕事、失せ物探し、運搬、何にしたって師匠にはちょっと物足りないとは思いますけど」
「ううん、そんなことないよ。種類が沢山あって楽しそう」
一面に貼られた依頼書を流し見しながらハルと話す
依頼書は本当に全て手作りのようで
一枚一枚に個性があり見ているだけで楽しい
「ん~、なるべく簡単そうな…」
あまりの数量に思わず足が止まる
このままだと見るだけで満足してしまいそうなのでなるべく早く決めよう
「う~ん、僕ならここら辺りの報酬が良いやつをやっていきますかね。依頼者の情報も細かく記載されているので、信用しても大丈夫だと思います」
「アドバイスありがとね。うん、決めた。これにする」
「おっ、決まりましたか?何にしたんですか?」
納得の行く一枚の依頼書を掲示板からはがし手に取る
もう一度依頼内容を確認し受付へ
「いらっしゃいませ、今回はどのような?あっ依頼の受注ですね、かしこまりました。はい、では依頼書をこちらへ」
自分で選んだ最初の依頼
頑張ろう
「はい、ありがとうございます。依頼の期日は3日後とご依頼主様から承っております、お気を付けて」
受注承認の印を貰い依頼書が返ってくる
返ってきた依頼書をハルへ手渡し出口へ
私から受け取った依頼書の内容を確認したハルが不思議そうな顔で聞いてくる
「師匠、本当にこれで良いんですか?せっかくならもっと報酬の良いやつでも」
「いいのいいの、一番最初なんだし、気楽に行こうよ」
私の選んだ依頼は薬草の採取
初級も初級
冒険家になった序盤の序盤に受けるような依頼
「こんな隅っこに追いやられちゃうような依頼もさ、する意味だってあると思うんだ」
「意味、ですか…?」
羽織っていたローブのヒモを締め直しいざ出発
「じゃ、行こっか。その意味もいつか説明するね、私の考えは知っておいて欲しいから」
「師匠の意見に僕は従います。初めての依頼、お願いします」
ハルの顔が真剣なものになるのを確認して外へ
長くミコさんと話していたからか陽も昇り
通りには人が増えていた
家を出て初めて【目的】
夜が明けた【初めての世界】




