↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ケモ耳少女が惚れた勇者は、自己肯定感ゼロでした  作者: 遠崎カヲル
新人冒険者と勇者様

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/44

発情期と、認めるニャンと、なんで二人で!?

 アッチムは、自室のベッドで、布団にくるまってゴロゴロしていた。


「師匠……最低っす……」


 先ほどのやり取りを思い出して、ぎゅっと枕を抱える。


「エロ陰キャっす……不潔っす……」


 寝室での、あの光景が頭から離れない。ニャリエナに腕を抱え込まれて、だらしなく眠りこけていた師匠。思い出すと、ムカムカする。

 

 それなのに。


 気づけば、まったく別の横顔を思い浮かべていた。眼鏡を外し、真剣な目で考え込んでいた、あのときの師匠を。


「……だからっ、思い出さなくていいっす!」


 アッチムは、枕に顔を埋めて、足をばたつかせた。その時だった。


 ばあん!!


 部屋の扉が、勢いよく開け放たれた。


「し、師匠!?」


 飛び込んできたのは、当のアルファスだった。顔は真っ青で、息も切れている。そのまま後ろ手に扉を閉め、震える手で鍵をかけた。さらに、近くにあった机を、ずるずると引きずって扉に押し付ける。


「ちょっと! 師匠なにしてるん……うぐ」


 アルファスは、とっさにアッチムの口を、手で塞いだ。


「し、静かにしてください……!」


「ん……っ!?」


 アッチムは目を見開いた。

 口を塞ぐ師匠の手が、やけに熱い。顔も、息がかかるほどすぐ近くにある。

 鍵をかけた部屋で、男と二人きり。その状況を意識した瞬間、アッチムの心臓が、痛いくらいに跳ねはじめた。


(し、師匠!?)


 アッチムの顔が、みるみる赤くなっていく。


(な、なにする気っすか!?)


 塞がれた口の下で、息が荒くなる。


(こ、心の準備が、できてないっす……!)


 ぐるぐると、よからぬ想像が頭を駆けめぐる。


(ていうか、アホ猫だけじゃなくて、うちまで!?)


 だが、アルファスは扉の方をうかがったまま外の気配に集中していた。アッチムの様子など、まるで目に入っていない。


 やがて、外の気配が遠ざかったのを確かめて、アルファスは、ようやく手を離した。


「……あ、あの」


 アッチムが、赤い顔のまま、声を絞り出した。


「わっ! アッチムさん、すみません……」


 アルファスはとっさに身体を離した。


「ど、どうしたんすか? なんか、様子がおかしいっす」

 

 アルファスは返事をする代わりに、扉へ視線を向けたままごくりと唾を飲み込んだ。


「は、発情期です」


「……は?」


 アッチムは一瞬、何を言われたのか理解できなかった。


「ニャリエナさんの、獣人の発情期です……」


「はあ!?」


 アルファスは、半泣きで振り返った。


「に、女医さんに、周期が安定しないと言われてたんですけど……まさか、こんなに早く来るなんて……っ」


「な、何の話してるんすか!?」


「と、とにかく、助けてください……! ぼ、僕じゃ、抑えきれなくて……!」


 その、必死の懇願の直後だった。ガタガタガタ、と窓が鳴った。

 二人同時に振り返る。


「……見つけたニャン」


 窓の外に、ニャリエナがいた。


「ぎゃああああ!」


 アッチムが、悲鳴をあげる。


「ひいいいい!」


 アルファスも、同じだった。


 窓を乗り越えて、ニャリエナが部屋へと侵入してくる。その目は、完全に据わっていた。耳がぴくぴくと震え、尻尾は限界まで膨らんでいる。とろんとした瞳が、まっすぐにアルファスを捉えていた。


「勇者様ー! 交尾するニャン!」


 ニャリエナが、両手を広げて突進した。


「氷結ッ!」


 アッチムが、咄嗟に術式を放った。ニャリエナの足元に、氷が走る。


「師匠を守るっす!」


「邪魔しちゃ、だめニャン!」


 ニャリエナは地面を蹴った。軽々と氷の上を飛び越える。


「そこをどくニャン!」


「だめなものは、だめっす!」


 こうして、弟子と発情期の猫による、師匠を賭けた攻防が始まった。


 宿の一室は、たちまち戦場と化した。

 アルファスが逃げる。ニャリエナが追う。アッチムが、その間に割って入って妨害する。氷柱が立ち、猫が跳ね、家具が倒れる。


「待つニャン、勇者様ー!」


「く……っ、すばしっこいっすね、この猫!」


 アッチムが、ニャリエナの進路を氷で塞ぐ。だが、発情期のニャリエナは、いつも以上に身軽だった。壁を蹴り、天井近くを駆け、的確にアルファスへと迫っていく。

 その、追いかけっこの最中。


「……どうも、最近おかしいと思ってたニャン」


 ニャリエナが、ふいに言った。


「おまえ、勇者様といる時……幸せのにおいが、するニャン」


「は?」


 アッチムの動きが、ぴたりと止まった。


「おまえ、勇者様のことが好きニャン!」


 ニャリエナはアッチムをビシッと指さした。


「……っ、ち、違うっす!」


「好きニャン」


「違うっす!」


「好きニャン」


「だ、だから違うって言ってるっす!」


 アッチムの顔が、また赤くなる。ニャリエナの嗅覚の鋭さを思い出していた。


「認めるニャン! おまえも、勇者様が好きニャン!」


「そ、そりゃ……師匠としては、尊敬してるっす!」


「そうじゃないニャン」


 ニャリエナの目が、すうっと細くなった。


「雄として、好きニャン!」


「はあああああ!?」


 アッチムの声が、裏返った。


「ちょ、何言ってんすか、このアホ猫! うちは、陰キャが大っ嫌いっす! 師匠は、まぎれもない陰キャっす!」


 まくしたてる。否定の言葉を、必死に積み上げる。


「そりゃ、バトルの時とか……考える顔とか……ちょっと、かわいいし――」


 言ってしまってから、アッチムは、固まった。

 自分の口が、何を言ったのか。たっぷり数秒かけて、理解する。


「……っ、い、今のなしっす! なし! 聞かなかったことにするっす!」


 みるみる耳まで真っ赤になって、アッチムは、ぶんぶんと首を振った。


「ほら見ろニャン」


 ニャリエナが、勝ち誇った顔をした。


「うるさいっす! アホ猫!」


「アホ猫じゃないニャン! 勇者様は、渡さないニャン!」


「望むところっす!」


 もはや、アルファスなど眼中になかった。氷結術式と猫パンチが、激しくぶつかり合う。部屋の中が、めきめきと音を立てて、惨憺たる有様になっていく。


 その隙に、アルファスは、そっと窓へ向かっていた。


「い、今のうちに……っ」


 アルファスは音もなく窓枠を越え、外へと滑り出た。




 二人が我に返ったのは、しばらく経ってからだった。


「……はぁ、はぁ、やるっすねこのアホ猫!」


「……はぁ、はぁ、弟子の癖になかなかやるニャン!」


 肩で息をしながら、アッチムとニャリエナが、同時に動きを止める。


「……あれ? 師匠?」


「……勇者様? どこニャン?」


 二人は、きょろきょろと部屋を見回した。

 アルファスの姿が見当たらない。窓が、全開になっている。


「……逃げたっす」


「……逃げたニャン」




 

 月明かりの下、街外れをアルファスが全力で疾走していた。


「ひいい! た、助けてっ!!」


 その後ろから。


「待つニャン!」


「待つっす!」


 ニャリエナとアッチムが、二人そろって追いかけてくる。


「何で二人とも追ってくるんですかー!!」


 アルファスの悲鳴が、夜空に響き渡った。

※ニャリエナの独り言

また追いかけっこして楽しかったニャン!

次回、『またお金を稼ぐお話ニャン』

期待してニャン!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。