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ケモ耳少女が惚れた勇者は、自己肯定感ゼロでした  作者: 遠崎カヲル


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第3話 冒険者ギルドと、面接と、通る理由

 宿を出てしばらく歩いたところで、ニャリエナが口を開いた。


「今日も宿に泊まるニャン?」


「……す、すごく申し訳ないのですが……」


 アルファスは眼鏡を押し上げた。


「お金が、ないんです……はぁ……」


「稼げばいいニャン」


「それはそうなんですが……その……僕、実は冒険者ギルドに登録してなくて……」


 ニャリエナが耳をぴくりと動かした。


「だ、だから……二人分の宿代を一日で稼ぐのは難しくて……」


 アルファスはそう言って、より一層背中を丸めた。


「なんでギルドに登録しないニャン?」


「……い、いつも面接で落とされちゃうんです……たはは……」


 アルファスは笑おうとして失敗し、口元がひきつった。


 ニャリエナは首を傾げた。


「面接?」


「その……人と話すのが……僕、あまり得意ではなくて……毎回うまく言えなくて……あぅ……」


 ニャリエナは少し考えて、口を開いた。


「じゃあ、わたしが一緒に行くニャン」


「え、いや、ニャリエナ氏が一緒でも……その……」


「行くニャン」


 ニャリエナはすでに歩き出していた。

 アルファスは慌てて後を追いながら、ぶつぶつと独り言を言い続けた。


「僕なんかのために……その……本当に申し訳ないです……はぁ……」




 冒険者ギルドは街の中心にあった。

 扉を開けた瞬間、酒と汗と鉄のにおいが混ざった空気が押し寄せてきた。

 昼間から酒を飲んでいる男たち、依頼の紙を眺めている冒険者たち、怒鳴り声と笑い声が飛び交っている。


 ニャリエナは鼻をひくひくさせた。においを確認している。

 強い、弱い、危険、安全。その順番で周囲を値踏みしていく。


 自然とアルファスに視線が集まった。


「なんだあいつ。陰気な奴だな」

「チビじゃねえか。しかもあの腕、もやしかよ」

「冒険者志望か? 笑わせんな」


 くすくすと笑い声が上がった。

 アルファスは肩を縮めて、眼鏡を押し上げた。そして、また押し上げた。

 ニャリエナには、アルファスに向けられた言葉の意味がわからなかった。


 受付の窓口に座っていたのは、四十がらみの無愛想な男だった。書類を眺めたまま、顔も上げない。

 その手元には小さな水晶玉が置いてあった。


「嘘をつくと光る。わかったな」


 それだけ言って、男は面接を始めた。


「名前」


「……アルファス、です……」


「職業」


「……旅人……です……ぅぐ……」


「無職だな。次、実績」


 沈黙があった。

 アルファスは何か言おうとして、口を開いた。しかし閉じた。また開いた。眼鏡が少し曇った。


「……その……僕なんかの実績を言うのは……おこがましいというか……その……え、と……ないわけでは……ないのですが……どう言えばいいか……」


 受付の男がようやく顔を上げた。値踏みするような目でアルファスを一瞥して、それから書類に視線を落とした。


「……次の方どうぞ」


「ちょ、ちょっと……まだ……」


「登録には実績の申告が必要です。申告できないなら——」


「獣人攫いを瞬殺したニャン」


 ニャリエナが横から割り込んだ。受付台に顎を乗せて、受付の男を真っ直ぐに見ている。


「五人。一瞬だったニャン」


 受付の男はニャリエナを見て、それからアルファスを見た。水晶玉は光らなかった。

 男はしばらく無言だった。


「……嘘ではないな」


「強いニャン」


 ニャリエナは誇らしげに言う。


「すごくいい匂いで、とってもかっこいいニャン」


 受付の男は困った顔をした。アルファスの鼻から赤い物が垂れた。

 受付の男はため息をついた。


「まあ……試験だけ受けろ」




 試験の説明は簡単だった。

 受付の男は書類を差し出しながら、アルファスをちらりと見た。


「通常の試験課題は魔物一体の討伐、制限時間は二刻だ」


「はい……」


「お前の課題は鉄竜の角を三本。制限時間は一刻」


 周囲がざわめいた。


「おい今一刻って言ったか」

「鉄竜だぞ。しかも三本って」

「落とす気満々じゃねえか」


 アルファスは書類を受け取った。鉄竜の生息地、制限時間、必要な角の本数。全部書いてある。


「……あの……これは……その……」


「嫌なら帰っていい」


「……いえ」


 アルファスは眼鏡を押し上げた。


「や、やります……はい……」




 半刻も経たないうちに、アルファスは帰ってきた。


「半刻も経ってねえぞ」

「くくく。諦めたんだな」


 周りから声が聞こえる。


 アルファスは申し訳なさそうに、革袋を受付台に置いた。中から鉄竜の角が三本、転がり出た。

 ギルドの中が、静かになった。


 受付の男は角を一本ずつ確認した。どれも本物で、損傷もなかった。


「……不正探知を」


 別の職員が魔道具をかざした。反応はなかった。

 しばらくの間、みんなが沈黙した。


「……まあ」と誰かが言った。「運がよかっただけだろ」

「そうだな。たまたまだ」

「どうせ抜け道があったんだろ」


 アルファスは何も言わなかった。ただ眼鏡を押し上げて、小さく頷いた。


「……はい……僕なんて……その通りで……うぅ……」


「違うニャン」


 ニャリエナが静かに言ったが、誰もそれには答えなかった。


 受付の男はライセンスと一緒に、小さな袋を差し出した。


「登録完了だ。ランクはE。鉄竜の角三本の買取金だ」


 袋はずしりと重かった。


「……ありがとう……ございます……たはは……」




 ギルドを出ると、夕暮れが近かった。

 アルファスはぶつぶつと独り言を言いながら歩いていた。


「Eランクでも……その……ないよりはましだよね……僕なんかにはちょうどいいというか……」


 ニャリエナは隣を歩きながら、鼻を動かした。

 アルファスから漂う、汗といろんな物が混じった濃いにおい。


「勇者様は、やっぱりいい匂い。かっこいいニャン」


「ふぁ!?」


 アルファスは前かがみになりながら、それでも歩き続けた。


 しばらくして、ニャリエナが口を開いた。


「今日も宿に泊まれるニャン?」


「……泊まれます……はい……」


()()一緒にお風呂入るニャン?」


 ぶしゅっ。


 アルファスの鼻から、赤いものが噴き出した。止まらない。


 鼻を押さえながら、眼鏡を押し上げた。その手は激しく震えていた。

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