表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ケモ耳少女が惚れた勇者は、自己肯定感ゼロでした  作者: 遠崎カヲル
ケモ耳少女と勇者様

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/44

第14話 森と、静かな怒りと、最強の雄ニャン

 森へ入ると、ニャリエナが口を開いた。

 その声は、いつもの軽さを少しだけ失っていた。


「勇者様」


「……なんですか……」


「わたしの仲間も、家族も、攫われたニャン」


 アルファスの歩みが、一瞬だけ止まりかけた。それでも前へ進み続ける。


「……そうですか……」


「去年の秋に三人。勇者様と出会うちょっと前にひとり。帰ってきた獣人はいないニャン」


 ニャリエナは淡々と話す。尻尾が少しだけ下がっていた。


「わたしも、攫われかけたニャン。あの日も同じ匂いがしてたニャン。汗と、鉄と、薬品の匂い」


 アルファスは何も言わなかった。


「勇者様が助けてくれなかったら、わたしも帰れなかったニャン」


 それだけ言って、ニャリエナは前を向いた。尻尾がゆっくりと揺れた。

 アルファスはニャリエナの横顔を一瞬だけ見た。それから、また前を向いた。

 眼鏡の奥の目が、少しだけ細くなっていた。




 しばらく進むと、拠点が見えてきた。

 見張りは十人以上。かなりの規模だ。荷車が何台も並んでいて、鉄檻がいくつも積み上げられている。


 ニャリエナが鼻をひくひくさせた。


「攫われた人たち、生きてるニャン。まだいるニャン」


「……何人ですか?」


「たくさんニャン。匂いが混ざってて……でも、生きてるニャン。拠点の奥ニャン」


 アルファスは拠点全体を静かに見渡した。眼鏡を押し上げた。


「……わかりました……」


 それだけ言うと、拠点へ向かって躊躇ためらいもなく歩き出した。




 見張りの一人がアルファスに気づいて叫んだ。


「誰だ! 止まれ!」


 アルファスは足を止めなかった。

 気配が変わり、縮こまっていた背中がスッと伸びた。眼鏡の奥の目が細くなり、拠点全体を静かに見渡す。重心が下がり、足の運びが変わった。

 そして、ゆっくりと剣を抜いた。


「……見張り十二……前衛八……後衛四……魔法使いが二人……前衛の足運びが……揃っていない……連携訓練が不十分だ……」


 最初の一人が踏み込んできた。大剣を振り上げる。


「……振りが……大きい……次の動作に移れない……」


 アルファスは踏み込まずに、半歩だけ横にずれた。大剣が空を切る。その勢いが止まらないうちに、剣が首筋へ走った。


 音がして、血しぶきと共に、男が倒れた。




 二人目が槍を突いてきた。


「……突きは速いが……引きが遅い……」


 アルファスは槍の軌道を手首で逸らしながら、体ごと内側に入った。剣が脇腹を抉る。男が膝をついた。




 三人目と四人目が同時に来た。


「……同時攻撃は……間合いの調整ができていない場合……むしろ邪魔になる……」


 アルファスは三人目の剣を受け流しながら、四人目の腕を切り落とした。叫び声が上がった。三人目が怯んだ隙に、喉を突いた。血が飛んだ。




 後衛の魔術使いが詠唱を始めた。アルファスは振り向かなかった。


「……詠唱速度が……遅い……」


 足元から氷の棘が魔術使いの方向へ走った。詠唱が途切れた。悲鳴が上がった。


「……後衛は……後で処理する……」


 残りの前衛が一斉に飛びかかってきた。

 アルファスは動き続けた。止まらない。半歩ずれて、剣を振る。また半歩ずれて、また振る。感情がない。迷いがない。ただ、順番に処理していく。


「……この角度からは……右肩が先に動く……だから左から入る……」

「……重心が……外に逃げている……足を払えば崩れる……」

「……盾を持っているが……使い方を知らない……ならば意味がない……」


 アルファスの独り言が、静かに響く。

 腕が落ちた。首が落ちた。血が地面を染めた。


 ニャリエナの耳がぺたりと伏せられた。




 増援が洞窟の奥から飛び出してきた。二十人近い。


「なんだこいつ! 囲め!」


「……増援……二十一か……」


 アルファスは剣の血を払いながら、静かに全員を見渡した。


「……しかし……やることは……変わらない……」


 踏み込んだ。

 増援の先頭が剣を構えた。アルファスはその剣ごと腕を落とした。

 次の男が後退しながら魔法を唱えようとした。振り向きざまに剣が走り、腕が宙を舞った。


「……詠唱には……腕が要る……」


 三人目が背後から来た。アルファスは振り向かなかった。足元から氷の壁が背後に展開されて、男が激突した。

 そのまま剣が逆手に握られ、後ろへ突き込まれた。


「……背後からの攻撃は……音でわかる……」


 男が叫び、また血が飛んだ。


 ニャリエナは後ずさりした。

 遠目にアルファスの顔を見た。眼鏡が少し血で汚れている。独り言を続けながら、淡々と剣を振るっている。


 怖かった。

 怖くてたまらないのに、目が離せなかった。


「……逃げようとしている者が……三人……」


 アルファスは振り向かなかった。足元から魔法陣が広がって、逃げようとした三人の足を地面に縫い付けた。


「……逃走は……許可しない……」


 それから、一人ずつ処理した。

 投降しようとした男が一人いた。両手を上げて、膝をついた。

 アルファスは何も言わず剣を振った。男の首が宙を舞った。


「……見逃す理由が……ない……」


 全員処理された。

 拠点の地面は、もとの色を失っていた。




 奥から豪華な服を着た男が現れた。震えながら、両手に金貨の袋を持っていた。


「ま、待ってくれ! 金なら払う! いくらでも払う! 頼む、命だけは――」


 アルファスは歩みを止めなかった。


「お前が……責任者か……」


「そ、そうだ! だから話を聞いてくれ! 取引しよう!」


「獣人を……攫い……売り……痛めつけた……」


「ち、違う! 俺は命令されただけで――」


「……違わない……」


 即答だった。


「……不快だ……」


 奴隷商の周囲に、黒い魔法陣が展開された。


「……崩壊術式……」


 奴隷商が叫んだ。

 しかし、すぐに叫べなくなった。




 アルファスは無表情だった。返り血がローブに、頬に、眼鏡のレンズに付着した。

 しばらく、その場に立っていた。

 静寂があたりを包んだ。


 ニャリエナはアルファスを見つめていた。心臓が、ずっと速く打ち続けている。

 怖かった。本当に怖かった。あれはもう、人間の動きじゃなかった。


 でも、目が離せなかった。

 返り血を浴びながら立つ勇者様は、恐ろしいほど強くて、美しかった。


「……最高のオスニャン……」


 思わず呟いていた。


 アルファスが振り返った。背中が丸く縮こまった。


「……?」


 それから、自分のローブを見下ろした。眼鏡のレンズを指で拭おうとして、余計に汚れた。


「……あわわ……またローブが……これじゃ洗濯が……眼鏡も……どうしよう……」


 戻った。いつもの勇者様だ。


 ニャリエナは両手で顔を覆った。

 やっぱり、最高だと思った。

 

 その時、ニャリエナの耳がぴくりと動いた。

 においがする。攫われた獣人たちのにおいに違いなかった。

※ニャリエナの独り言

勇者様、怖いけど最高にかっこよかったニャン!

次回、『勇者様はわたしのものニャン!』

期待してニャン!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ