第9話:嫉妬の限界。ほむらが仕掛ける、放課後の罠
いつも応援ありがとうございます。
第9話は、ついにほむらが「実力行使」に出るエピソードです。
かれんから教わった「可愛げ」というスパイスを、ほむらという劇薬に混ぜたらどうなるのか。
放課後の静かな部室。閉ざされたドアの向こうで繰り広げられる、二人の濃密な対峙。
「完璧な美少女」がその仮面を脱ぎ捨てたとき、悠真はどう応えるのか――。
少し息苦しいほどの緊張感を楽しんでいただければ幸いです。
白石かれんに教わった、新しいリップ。そして、「あえて隙を見せる」という戦術。
私は鏡の前で、何度もその表情を練習した。
けれど、放課後の教室で悠真がかれんと楽しそうに話しているのを見るたび、私の胸の中では黒い感情が渦を巻く。
(……ダメ。可愛げなんて、私には似合わない。やっぱり、力ずくで私だけを向かせたい。悠真の視界から、私以外のすべてを消し去りたい――)
私は、用意していた『罠』を実行に移すことにした。
「……悠真、ちょっといいかしら」
放課後、誰もいなくなった文芸部室。私は窓の外を眺める背中に声をかけた。
「あ、ほむら。どうしたんだ? 忘れ物か?」
「……ええ。とても大切なものを、この部屋に忘れてしまったみたいなの」
私はゆっくりとドアを閉め、鍵をかけた。
カチリ、という金属音が静かな部室に響く。
悠真が怪訝そうに振り返る。
「……鍵、なんでかけたんだ?」
「……誰にも、邪魔されたくなかったから」
私はかれんに教わった通り、上目遣いで、少しだけ潤んだ瞳を彼に向けた。
そして、一歩、また一歩と距離を詰める。
悠真が戸惑いながら後ずさりし、背中が本棚に当たった。
「……悠真。白石さんと、何の話をしていたの?」
「えっ? ……いや、ただのサッカーの話だよ。あいつ、意外と詳しくてさ」
「……ふうん。私とは、そんな風に笑わないのに」
私は彼を逃がさないように、本棚に両手をついた。
いわゆる『逆壁ドン』。
完璧な美少女としての余裕なんて、もうどこにもない。そこにあるのは、ただの剥き出しの執念だ。
「……ねえ、悠真。私のこと、好きだって言ったわよね。……あれは、どういう意味? 私がこんなに苦しいのに、あなたは笑って他の女の子と話すの?」
「ほ、ほむら……顔、近いよ……」
悠真の呼吸が荒くなる。バニラの香水と、彼の体温が混ざり合う。
私は彼のネクタイを指で弄りながら、耳元で低く囁いた。
「……今夜も、帰りたくないって言ったら……あなた、どうする?」
*
その頃、いつもの『デリデリ(Deli-Deli)』。
「……出た。ほむら姉さまの『密室監禁作戦』。まさか部室の鍵まで持ち出すとはね」
あおばがスマホのGPS画面を眺めながら、ストローを噛みしめる。
みもりは新作の『激辛チョリソー』を頬張りながら、少しだけ心配そうな顔をした。
「作戦名:『放課後のチェックメイト』。……あおば、これ、お兄ちゃんが生きて帰ってこれるレベル?」
「さあね。でも、ほむら姉さまのあんな顔、私でも見たことないよ。……お兄ちゃん、今日こそ覚悟決めるしかないんじゃない?」
二人の策士は、窓の外に広がる夕焼けを見つめる。
そのオレンジ色の光は、部室で対峙する二人の情熱を、より一層赤く染め上げていた。
*
「……ほむら。お前、……本気なのか?」
悠真の手が、私の腰に回る。
拒絶ではない。それは、彼もまた、私と同じ闇に足を踏み入れようとしている証拠だった。
「……本気じゃないことなんて、一度もなかったわよ」
私は彼の胸に顔を埋め、勝利を確信した。
完璧な仮面は、もういらない。
私は、あなたの愛という名の檻に、一生閉じ込められていたいのだから。
(第9話・完)
第9話をお読みいただきありがとうございました。
「逆壁ドン」に「ネクタイ弄り」、そして「密室」。
ほむらにとっての「可愛げ」は、結局のところ、相手を逃がさないための「罠」でしかありませんでした。
ですが、そんな彼女の闇を、悠真もまた受け入れ始めています。二人の関係が、単なる幼馴染から「共犯者」へと変わっていく予感を感じていただけたでしょうか。
一方、その様子をGPSで監視しているあおばとみもり。
彼女たちの策士っぷりも、物語を思わぬ方向へ加速させています。
次回、第10話「文化祭の魔法と、あおばの策士」。
舞台は文化祭へ。ほむらの独占欲は、ついに全校生徒の前で……!?
引き続き、更新をお楽しみに!




