第10話:文化祭の魔法と、あおばの策士
いつも応援ありがとうございます。
第10話からは、ついに学園生活の華、文化祭編に突入します。
第9話で「境界線」を越えた二人ですが、甘い余韻に浸る暇もなく、周囲の喧騒と「策士」たちの思惑に巻き込まれていきます。
ペンキの匂いと浮ついた空気。
そんな「文化祭の魔法」の中で、ほむらが何を望み、あおばが何を企んでいるのか……。
嵐の前の静けさならぬ、「地獄」の前の煌めきをお楽しみください。
部室でのあの、心臓が止まりそうなほど濃密な時間。
悠真に腰を抱き寄せられた感触が、今も掌に残っている。
結局、最後の一線を越える勇気はまだ私にはなかったけれど、あの瞬間、私たちの間に引かれていた「幼馴染み」という境界線は、確実に消し飛んだ。
「……おはよう、ほむら」
「……ええ。おはよう、悠真」
翌朝、校門で会った時の悠真の顔は、昨日の動揺を引きずったように少しだけ赤かった。
完璧。これよ。私だけを意識して、私だけの言葉で動揺してほしい。
けれど、学校はそれを許してくれない。
「ほらほら二人とも! 登校早々見せつけてないで、準備準備!」
みもりの威勢のいい声が響く。
今日から、高校生活最大のイベント――『清流祭』の準備期間が始まる。
文化祭の準備中、学校は一種の魔法にかかる。
いつもは厳しい先生たちの目が緩み、校内にはペンキと木材の匂いが漂う。そして、何よりも厄介なのが「文化祭マジック」と呼ばれる、浮ついた恋愛の空気だ。
「近衛さん、ちょっといい? ステージの背景デザインなんだけど……」
「近衛部長、文芸部の展示パネル、これでいいっすか?」
私は「パーフェクト・ガール」として、クラスと部活の両方で引っ張りだこだった。
けれど、私の視線は常に、教室の隅で巨大な段ボールを運んでいる悠真を追ってしまう。
すると、隣でペンキを塗っていた白石かれんが、筆を動かしながら私に囁いた。
「近衛さーん、また見てるよ。あ、ちなみに今回の文化祭、後夜祭の『ベスト・カップル投票』、藤原くんの名前書いといてあげたからね」
「……は!? 勝手なことを……」
「いいじゃん。ライバルを公式に排除するチャンスだよ?」
かれんがウインクする。……毒されてる。私も、この空気も。
*
その頃、校庭の模擬店予定地。
「……みもりさん、機は熟したよ。今回の文化祭、お兄ちゃんに『男』を見せてもらう絶好のステージを用意したから」
あおばが、怪しげなパンフレットを広げる。それは、文化祭名物の『お化け屋敷』の運営マニュアルだった。
「お、1組の出し物だね。あおば、何する気?」
「このお化け屋敷、最後の部屋が『密室の告白部屋』になってるの。そこを、私が独断でリフォームする。……ほむら姉さまが絶対に逃げられない、そしてお兄ちゃんが守るしかない状況をね」
みもりは『デリデリ』のテイクアウトコーヒーを飲みながら、あおばのノートに目を通した。
「作戦名:『ゴースト・パニック・プロポーズ(仮)』……。あおば、あんたの演出、どんどん過激になってない?」
「だって、あの二人、あそこまで追い詰めめてもまだ『キス』すらしてないんだよ!? じれったくてスイーツの味が落ちちゃう!」
二人の策士は、段ボールの影で不敵に笑い合う。
彼女たちの「完璧なプロデュース」は、文化祭の喧騒に紛れて、着々と進められていた。
*
「……悠真、これ、一緒に飾ってくれる?」
夕暮れの教室。私はわざと、高いところにある装飾を指さした。
「ああ、いいよ。……ほら、貸せ」
悠真が私の背後から手を伸ばし、装飾を受け取る。
背中に感じる、彼の胸板の厚さと熱。
文化祭の魔法なんていらない。私に必要なのは、ただ、この体温を永遠に独占できるという約束だけ。
「……後夜祭。……一緒に、歩いてくれる?」
私の小さな問いかけに、悠真は少しだけ驚いた後、力強く頷いた。
「ああ。……約束だ、ほむら」
その約束が、あおばとみもりによって「地獄のお化け屋敷ツアー」に変えられているとは、この時の私はまだ知る由もなかった。
(第10話・完)
第10話をお読みいただきありがとうございました!
前半の「背中に感じる悠真の熱」というしっとりしたシーンから、後半の「あおば&みもりによる極悪なリフォーム計画」への落差、いかがでしたでしょうか。
ほむらが「純愛(執念)」を加速させる一方で、妹たちはそれを「演出」という名のアトラクションに変えようとしています。
「じれったくてスイーツの味が落ちちゃう!」というあおばのセリフは、実は読者の皆様の気持ちを代弁している……かもしれません(笑)。
次回、第11話「暗闇の叫び。お化け屋敷は恋の迷宮?」。
あおばの仕掛けたギミックが、ついに二人を「逃げ場のない暗闇」へと誘います。
更新をお楽しみに!




