第11話:後夜祭、ダンスは踊れない? ――お化け屋敷は恋の迷宮
いつも応援ありがとうございます。めびうすワークス代表のまりもちゃんです。
連続投稿、第11話をお届けします!
文化祭編のクライマックス。
あおばとみもりが仕掛けた「地獄のお化け屋敷」へと足を踏み入れた二人。
暗闇と赤いライト。そして、あおば特製の「絶対に開かない扉」。
これまで「完璧」という鎧で自分を守ってきたほむらが、ついにその中身――剥き出しの本音を晒します。
二人の関係が、ついに「幼馴染み」を超えて塗り替えられる瞬間を、どうぞ見届けてください。
ついに迎えた文化祭当日。
校内は浮かれた喧騒に包まれ、模擬店のソースの香りが廊下にまで漂っている。
私、近衛ほむらは、文芸部の展示を完璧にこなした後、クラスの出し物である『絶叫・旧校舎の呪い』――いわゆるお化け屋敷の受付に立っていた。
「……ねえ、ほむら。本当にこれ、一緒に入るのか?」
隣で所在なげに立っているのは、執事服を着た悠真だ。
心臓に悪いほど似合っているその姿を、私は努めて冷静に、けれど執拗に網膜に焼き付ける。
「ええ。シフトが交代になったの。あおばちゃんたちが『せっかくだから楽しんでこい』って」
あおばとみもりが、ニヤニヤしながら私たちを入り口へ押し込んだ時の顔。あれは間違いなく、ロクでもないことを企んでいる時の顔だった。けれど、悠真と二人きりで暗闇に入れるなら、その策略に乗ってあげるのも悪くない。
「……っ、うわぁ!?」
「きゃっ……!」
暗い。想像以上に暗い。
あおばたちが担当した後半エリアは、学園祭レベルとは思えないほど不気味な作りになっていた。
不意に背後でガタガタと音が鳴り、私は反射的に悠真の腕に抱きついた。
「……大丈夫よ、悠真。私、これくらい平気……」
「……いや、ほむら。お前、さっきから手がめちゃくちゃ震えてるぞ」
悠真が私の手を包み込むように握り直す。
(……バレた。でも、このまま離したくない)
私はさらに彼の腕に顔を埋める。完璧な「近衛ほむら」なら、お化け屋敷くらい優雅に通り過ぎるべきだろう。けれど、今は無理だ。怖い。……それ以上に、彼に触れていたい。
その時、最後の扉の前に奇妙な看板が立っていた。
『運命の告白部屋――二人の想いが重なるまで、扉は開かない』
「……何よ、この悪趣味な設定」
「あおばの仕業だろうな。……ほら、入るぞ」
*
その頃、お化け屋敷の出口裏。
「みもりさん、カメラの準備いい? モニター越しでも、二人の動揺が伝わってくるね」
あおばがタブレットを手に、ニヤニヤと笑う。
「完璧。……この『告白部屋』、赤外線センサーで『二人の距離が10センチ以内』にならないとロックが解けない仕組みだから。……さあ、ほむら。プライドを捨てるか、一生閉じ込められるか、選びなさい!」
みもりは『デリデリ』で買ったカフェオレを飲みながら、モニターを凝視する。
「作戦名:『ゴースト・パニック・プロポーズ』。……さあ、お兄ちゃん。震えてる女の子を抱きしめるくらいの度胸、見せてよね」
*
「……開かないわ」
ガチャン、と音を立てて扉がロックされた。
狭い、赤いライトに照らされた小部屋。
壁には『本音を言わないと出られません』という、これまたあざとい文字。
「……あおばのやつ、やりすぎだろ」
悠真が困ったように頭を掻く。
けれど、私は逃げなかった。狭い部屋。充満する彼の匂い。
「……悠真」
私は、彼の胸に手を置いた。
「私……本当は、お化けなんて怖くないわ。……怖いのは、あなたが他の子のところへ行ってしまうこと」
「……ほむら?」
「昨日も、かれんさんと楽しそうに話してた。……私、本当は、叫び出したいくらい嫉妬してたのよ。完璧な私じゃ、あなたに嫌われると思って……ずっと隠してたけど」
私の瞳から、一筋の涙がこぼれる。
計算じゃない。かれんに教わったテクニックでもない。
剥き出しの、重くて、汚い、私の本音。
「……馬鹿だな、お前」
悠真の大きな手が、私の頬を包み込む。
「……俺が好きなのは、『完璧な近衛ほむら』じゃない。……こうして俺を困らせるくらい一生懸命な、幼馴染みのほむらなんだよ」
カチリ。
扉のロックが解ける音がした。
けれど、私たちは動けなかった。
外から聞こえる後夜祭のフォークダンスの音楽よりも、目の前の鼓動の方が、ずっと激しく鳴り響いていたから。
(第11話・完)
第11話をお読みいただきありがとうございました!
ついに! ついにほむらが言いました!
かれんに教わったテクニックではなく、自分の言葉で、醜い嫉妬も情けない恐怖も全部さらけ出したほむら。
それに対する悠真の「馬鹿だな、お前」という返し……。
この一言に、彼の包容力のすべてを詰め込んだつもりです。
ラストシーン、扉のロックは解けたけれど、二人の身体は離れない。
あおばの作戦名『ゴースト・パニック・プロポーズ』は、ある意味で大成功だったのかもしれませんね。
次回、第12話「雨宿りと、不意打ちの体温 ――文化祭の夜、二人の約束」。
文化祭の喧騒が去った後、二人は雨の中で何を語るのか。
物語はいよいよ、胸が締め付けられるような純愛の核心へ。
引き続き、更新をお楽しみに!




