第12話:雨宿りと、不意打ちの体温 ――文化祭の夜、二人の約束
いつも応援ありがとうございます。
第12話は、文化祭編のグランドフィナーレです。
お化け屋敷での劇的な告白を終えた二人を待っていたのは、すべてを優しく包み込むような雨でした。
「完璧」という鎧を脱ぎ捨てたほむらが、悠真の体温に触れ、本当の意味で「自分」を取り戻す時間。
祭りの終わりと、二人の始まり。
少しだけ切なくて、けれど最高に熱い雨宿りのひとときをお楽しみください。
お化け屋敷の「告白部屋」を出た後、私たちは一言も交わさないまま後夜祭の喧騒を避けるように校舎裏へと向かった。
グラウンドからはキャンプファイヤーの炎が夜空を焦がし、楽しげなフォークダンスの音楽が遠くに聞こえる。
「……降ってきちゃったわね」
ポツリ、と頬に冷たい感覚。
予報になかった雨が、文化祭の熱を冷ますように降り始めた。私たちは慌てて、古い渡り廊下の軒下へと飛び込む。
「……ほむら、寒くないか?」
悠真が自分の執事服のジャケットを脱ぎ、私の肩にかける。
「……大丈夫よ。それより、悠真が濡れちゃうわ」
ジャケットから伝わる、彼の体温。
数分前、暗闇の中で「俺が好きなのは、完璧じゃないほむらだ」と言った彼の声が、雨音に混じって何度も頭の中で再生される。
「……ねえ、悠真。さっきの言葉、……本気にしていいの?」
私は震える声で、彼の袖を掴んだ。
「……もし私が、明日からちっとも完璧じゃなくなって、ただの嫉妬深くて面倒な女の子になっても、本当に隣にいてくれる?」
悠真は少し困ったように笑い、雨に濡れた髪をかき上げた。
「……お前、自分のことわかってなさすぎ。……完璧だろうが、ボロボロだろうが、俺がずっと見てきたのは『ほむら』だけだって言ってるんだよ」
*
その頃、校舎の3階窓際。
「……あーあ、いい雰囲気。雨まで降らせるなんて、天候まで味方につけたね、ほむら姉さま」
あおばがスマホの超望遠レンズ越しに、二人のシルエットを追いかけている。
「……ねえ、あおば。これ、シャッターチャンスじゃない?」
みもりが『デリデリ』でテイクアウトした温かいココアをすすりながら、隣でモニターを覗き込む。
「作戦名:『アフターフェスティバル・レイニー・ブルー』。結果:……あ、お兄ちゃんがほむら姉さまの肩を抱いた! 記録、記録!」
「……ふふ、ようやくね。でもさ、あおば。これで付き合い始めたら、私たちの『反省会』、ネタがなくなっちゃうんじゃない?」
「まさか。付き合ってからのほむら姉さまは、もっと執念深くなるよ。独占欲全開の『彼女・近衛ほむら』をプロデュースする方が、きっと大変なんだから」
二人の策士は、雨に濡れる夜景を見つめながら、勝利の祝杯を交わした。
*
「……約束よ、悠真」
私は彼の胸に顔を埋め、雨の匂いと彼の匂いを同時に吸い込んだ。
「……明日からは、他の誰にも、あんな笑顔を見せないで。……私だけを見て。私だけに、あなたの不器用な優しさをちょうだい」
「……わかったよ。独占欲、強いな」
悠真が苦笑しながらも、私の背中を優しく叩く。
文化祭の魔法は解けたかもしれない。
けれど、降り続く雨の中で交わしたこの約束だけは、どんな完璧な魔法よりも、私の心を強く、そして熱く縛り付けていた。
(第12話・完)
第12話をお読みいただきありがとうございました!
ついに、二人の関係に確定的な名前がつきました。
悠真の「ずっと見てきたのはほむらだけだ」という言葉、不器用な彼なりの精一杯の愛が伝わっていたら嬉しいです。
ほむらの独占欲も、「明日からは私だけに笑って」と、以前よりさらに素直(?)で強烈なものになっていますね。
そして、やっぱり最後はこの二人……あおばとみもり。
ココアを飲みながら「付き合ってからの方が大変」と語るあおばの予感は、きっと的中することでしょう(笑)。
次回からは新章突入!
第13話、「初めての登校、カップルとしての初日 ――周囲の視線と、ほむらの暴走」。
「完璧な美少女」が「独占欲全開の彼女」になった時、学園はどう揺れるのか!?
引き続き、更新をお楽しみに!




