第4話:夕食は二人で。不器用なエプロンと、加速する鼓動
第3話では、ほむらの「帰りたくない」という爆弾発言への応援ありがとうございました。
第4話は、策士コンビ(あおば&みもり)が仕組んだ、さらなる密室。
完璧なほむらが、あおばの用意した「フリフリエプロン」という最大の難敵(?)に挑みます。
ほむらの料理の腕前と、悠真の「心臓に悪い」反応をぜひお楽しみください。
「……っ、な、何言ってるんだよ、ほむら」
悠真が床に落ちたペンを拾うのも忘れて、顔を真っ赤にしている。
その動揺っぷりに、私の胸の奥でドロリとした優越感が湧き上がった。
「冗談よ。……でも、お母様から連絡があったわ。今日はパートの帰りが遅くなるから、二人で何か食べてって。あおばちゃんも、みもりと一緒に『デリデリ』に行くんですって」
もちろん、これが策士二人の仕組んだ完璧な**【密室作り】**であることは、私と、そしておそらく薄々気づいているであろう悠真だけの秘密だ。
「……そっか。じゃあ、何か作るか。俺、チャーハンくらいなら作れるし」
「いいわ。私が作る。……あなたの好きなもの、全部覚えてるから」
私は立ち上がり、キッチンへと向かう。完璧な私に死角はない。料理だって、悠真に「美味しい」と言わせるためだけに、プロ級の腕前まで磨き上げてあるのだ。
「……ほむら、それ」
キッチンに立った私を見て、悠真が微妙な声を漏らした。
私が身に着けているのは、あおばがわざとらしく置いていった『フリフリのピンクのエプロン』。
(……わかってる。似合わないのは百も承知よ。私みたいなモデル体型に、こんなあざといエプロンは「強そう」に見えるだけ。でも、あおばのメモには『お兄ちゃんはギャップに弱い』って書いてあったんだから……!)
「変かしら?」
「いや……変じゃないけど。なんか、その……心臓に悪い」
悠真は視線を逸らして、冷蔵庫からお茶を取り出した。
その耳が、まだ赤い。
(勝った。……あおば、後でデリデリの新作パフェ奢ってあげるわ)
私は鼻歌を歌いそうになるのを抑え、手際よく包丁を動かす。メニューは悠真の大好物、ハンバーグ。玉ねぎを刻む音だけが、静かなキッチンに響く。
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その頃、いつもの『デリデリ』。
「……で、今頃キッチンで**【エプロン大作戦】**が展開されてるわけだ」
みもりがフライドポテトをケチャップに浸しながら、ニヤニヤと笑う。
「あのエプロン、私が中1の時に買ったやつだからね。ほむら姉さまにはパツパツだと思うけど、それが逆にいいんだよ。お兄ちゃん、絶対直視できてないもん」
あおばはコーラを飲み干し、スマホの進展記録ノートに新たな項目を書き加える。
「作戦名:胃袋と視覚のダブルアタック。……あ、でもさ、ほむら姉さまって料理中、独り言で『悠真、美味しいって言って……私だけを見て……』とか言ってそうで、ちょっと怖いよね」
「それ、あながち間違いじゃないのがほむらなんだよね」
二人はお互いに顔を見合わせ、声を上げて笑った。
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「……美味しい。ほむら、お前、料理まで完璧なのかよ」
ダイニングテーブルを挟んで、悠真がハンバーグを口に運ぶ。
その幸せそうな顔を見た瞬間、私の中の「完璧主義」が、一気に「ただの乙女心」に塗り替えられていく。
「……当たり前でしょ。あなたの好みの味付け、中学の頃からずっと研究してたんだから」
「えっ?」
しまった。……本音が漏れた。
私は慌ててフォークを握りしめたが、悠真は驚いた顔の後、ふっと優しく目を細めた。
「そっか。……ありがとう、ほむら。……俺、お前が幼馴染みで、本当に良かったよ」
**【幼馴染み】**。
その言葉が、私の胸に鋭く突き刺さる。
(……違う。私がなりたいのは、そんな便利な肩書きじゃない。……悠真、あなたを、私のものにしたいだけなのに)
「……悠真」
私は、テーブル越しに彼の手をそっと握った。
(第4話・完)
第4話をお読みいただきありがとうございます!
悠真にとっての『幼馴染み』という言葉。
それは信頼の証でありながら、ほむらにとっては一番壊したい「境界線」でもあります。
テーブル越しに手を握ったほむらの執念が、次回、さらなる波乱を呼びます。
今回の**「フリフリエプロン姿のほむら」**を想像してニヤリとしていただけた方は、ぜひ【★評価】や【感想】で応援していただけると嬉しいです!
次回、第5話。二人の夜はまだ終わりません。




