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第38話:永遠の標。――逃げられない刻印と、狂おしいほどの独占欲

婚姻届に署名をさせたことで、悠真の「未来」は事務的に私のものとなった。


けれど、私の心はまだ満たされない。紙の上の契約は、燃やしてしまえば消えてしまう。戸籍の記録だって、書き換えることができてしまう。


(……足りない。あなたの細胞の一つ一つに、私の所有物であることを刻み込みたい)


私は、成人した記念という名目で、悠真を「ある場所」へ連れ出した。

そこは、街の喧騒から離れた、完全予約制のプライベート・サロン。


「……ほむら、ここって……」


「安心なさい、悠真。痛いのは、最初だけよ。……あなたのその、真っ白で無防備な肌に、私が一生消えない『装飾』を施してあげる」


「タ、タトゥー!? ほむら、それは流石に……!」


悠真が顔を青くして後ずさる。けれど、私は彼の逃げ道を塞ぎ、その首筋を愛おしそうになぞった。


「嫌? 私とお揃いの印を刻むことが? ……それとも、私以外の誰かにその肌を触らせる準備でもしているのかしら」


「そんなわけないだろ! でも、一生消えないんだぞ?」


「ええ、一生消えない。……それこそが、私の望みなの。あなたが私を忘れようとしても、鏡を見るたびに、私という名の重圧を思い出す。……素敵だと思わない?」


私は、用意していたデザイン画を差し出した。

二人のイニシャルを複雑に絡め、茨の蔦が心臓を縛り上げるような、美しくも禍々しい紋様。


その頃、サロンの向かい側のカフェ。


「……出たよ、ほむら姉さまの『フィジカル・マーキング(肉体への刻印)』。もう精神や法だけじゃ飽き足らなくなったね」


あおばが、サロンの入り口を監視しながら、みもりと通信を繋ぐ。


「……極まったわね。肉体に消えない印を刻むことで、悠真の『公共性』を完全に奪う気よ。これで悠真は、公共のサウナやプールにすら、ほむらなしでは行けなくなる。……究極の隔離政策ね」


みもりは『デリデリ』のダブルチーズバーガーを咀嚼しながら、ノートの最終ページに『ほむら・永久封印』と書き加えた。


「作戦名:『()()()()()()()()()()()()()()』。……あおば、彫師さんへの報酬は『近衛家の全権』をもって支払っておいたわ。一ミリの狂いもなく、ほむらの執念を刻ませるのよ」


「……うっ、……あ……」


施術台の上で、悠真が微かな声を漏らす。


針が肌を打つたびに、彼の中に私の執念が流し込まれていく。その痛みに耐える彼の歪んだ表情さえも、私にとっては最高の贈り物だった。


数時間後。彼の左胸、心臓の真上に、鮮やかな黒と赤の紋様が浮かび上がった。


私の指先でそこをなぞると、まだ熱を帯びた肌が微かに跳ねる。


「……これで、あなたはもう、私から逃げることはできない。……死んで灰になるまで、あなたは私の持ち物よ、悠真」


「……ああ。……分かったよ。……もう、どこへも行かない。……お前の隣で、一生この痛みを抱えて生きていくよ」


悠真は力なく笑い、私の手を握り返した。

その瞳には、もはや恐怖はなく、狂った愛に身を委ねる者の、甘美な諦念(ディスペア)が宿っていた。


完璧な彼女。


それは、愛する人の肉体さえもキャンバスに変え、自分という名の永遠を刻みつける彫刻家(アーティスト)


残るは、あと一歩。

全39話の終わり、それは私たちの「終わらない日常」の始まり。


枠(次回予告)

いよいよ次が最終回、第39話「完璧な彼女の終着点。――愛という名の永遠の檻」

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