第35話:波乱の兆し。――親友の忠告と、踏み荒らされた聖域
大学生活にも慣れ、私の管理下で平穏に過ごしていた悠真。しかし、私の「全方位監視網」に、招かれざるノイズが混じり始めた。
そのノイズの名は、佐々木。悠真が同じ講義で親しくなったという、お調子者の男よ。
「おい藤原、今日も講義終わったら即帰宅かよ? たまにはサークルの飲み会、顔出せよ。お前の彼女、ちょっと厳しすぎじゃない?」
学食の隅で、佐々木が悠真の肩を組みながら余計な言葉を吹き込んでいる。私は離れた席から、その光景を冷徹な瞳で見つめていた。
(……佐々木くん。あなたが悠真の何を知っているの? 彼の「安全」を守っているのは私よ。不潔な飲み会なんて、彼を汚す毒でしかないわ)
「いや、ほむらが待ってるから……」
困り顔で断る悠真。けれど佐々木は引かなかった。
「お前さ、それ『愛』じゃなくて『支配』だぜ? GPSまで付けられてるんだろ? 異常だって。一回、外の世界を見てこいよ。今日、俺たちの合コン、一人欠員出たんだ。無理矢理にでも連れてくからな!」
その瞬間、私の手の中のプラスチックのスプーンが、パキリと音を立てて折れた。
私の聖域を、私の教育方針を「異常」だと断じたその口、二度と開けないようにしてあげましょうか。
その頃、キャンパス裏のベンチ。
「……うわぁ、佐々木くん、地雷を全力で踏み抜いたね。ほむら姉さまの『排除リスト』の最上位にランクインだよ」
あおばが、学食に仕掛けた集音マイクの音声を聴きながら、みもりと通信を繋ぐ。
「……友情という名の『解放』ね。ほむらにとっては、エリカのような女の敵より、こういう『善意の友人』の方が厄介よ。悠真に『自分は不自由だ』と自覚させてしまうから」
みもりは『デリデリ』のスパイシーチキンを噛み砕きながら、次の作戦を練る。
「作戦名:『ソーシャル・害虫・エミネーション』。……あおば、佐々木くんの過去のSNSを洗って。不適切な投稿の一つや二つ、あるはずよ。それを学内にバラ撒いて、彼を社会的に埋葬する準備をして」
その夜、悠真は約束の時間になってもアパートに帰ってこなかった。
GPSを確認すると、駅前の居酒屋街。ドットが激しく揺れている。……連れ去られたのね、あの男に。
私は、コートを羽織り、玄関の鏡で自分の顔を確認した。
完璧な微笑。けれど、その奥にある瞳は、絶対零度の殺意を宿している。
(……悠真。あなたは、外の空気に触れるとすぐに体調を崩す、繊細な小鳥なの。……悪い友達にそそくされた罰は、後でたっぷり与えてあげるわね)
私はベランダからではなく、正門から堂々と出撃した。
私の愛という名の檻を壊しようとする者には、死よりも深い絶望を。
大学生活という自由な遊び場が、一瞬にして私の「狩場」へと変貌した。
(次回予告)
次は第36話、「深夜の連行。居酒屋で見せた『完璧な彼女』の狂気」




