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第34話:GPSの愛。――あなたの居場所は私の掌の上

大学の広いキャンパス。高校時代とは違い、講義ごとに移動があり、空き時間の過ごし方も人それぞれ。そんな「自由」という名の不透明さが、私の神経を逆撫でしていた。


(……悠真。今、あなたはどこで、誰と、どんな空気を吸っているの?)


私は自分のスマホを開く。画面には、地図上に浮かぶ一つの赤いドット。

悠真の現在地。


これは、彼が「一人暮らしを始めるなら防犯のために」とあおばに勧められ、何の疑いもなくインストールした家族用見守りアプリの成れの果て。……もちろん、私の端末は管理者権限で紐付けられている。


「……あ、ほむら! ちょうど今、講義が終わったところだよ」


学食の裏、人通りの少ないベンチで休んでいた悠真が、私を見て驚いたように顔を上げた。


「お疲れ様、悠真。3号館の201教室からここまで、徒歩で4分32秒。少し寄り道をしたのかしら?」


「えっ……。いや、自販機でコーヒー買っただけだけど。……なんで場所わかったんだ?」


「愛しているもの。あなたの歩幅も、歩くリズムも、すべて私には聞こえているわ」


私は微笑みながら、彼のスマホを手に取った。


「悠真。バッテリーが15%まで減っているわよ。……私との連絡が途絶えるなんて、万死に値するわ。はい、モバイルバッテリー。常に繋がっていなさい」


その頃、大学近くの『デリデリ(Deli-Deli)』。


「……きたよ、ほむら姉さまの『リアルタイム・トラッキング』。お兄ちゃん、もう地球上のどこにいても逃げられないね」


あおばがタブレットで、ほむらが構築した『悠真専用監視ログ』をチェックしながら、みもりと通信を繋ぐ。


「……GPSだけじゃないわ。ほむらは学内のWi-Fi接続履歴まで解析しようとしてる。……あおば、これはもう『見守り』の域を超えて、一種の『衛星測位システムによる統治』よ」


みもりは『デリデリ』のポテトをケチャップで真っ赤に染めながら、手元のノートに『ほむら・全知全能計画』と書き加えた。


「作戦名:『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』。……あおば、次は学内の防犯カメラの死角をリストアップして。ほむらが『空白の1分』さえも許さないようにね」


「……ほむら。お前、たまに本当に怖いこと言うよな」


悠真は渡されたバッテリーを繋ぎながら、苦笑いを浮かべた。


「怖い? ……心外だわ。私はただ、迷子にならないように、あなたの居場所を私の掌の中に収めておきたいだけ。……あなたがどこにいても、私がすぐに見つけ出してあげる。これ以上の安心があるかしら?」


私は彼の隣に座り、その腕に自分の端末を重ねた。


画面の中、二つのドットが完全に重なり合っている。


情報の支配。それは、肉体の拘束よりも深く、逃げ場のない愛の形。


「……約束して、悠真。この信号を、決して絶やさないで。……もしこれが消えたら、私は狂って、この大学を焼き払ってしまうかもしれないから」


「……わかったよ。……俺の居場所は、いつだってお前のスマホの中、ってことだな」


完璧な彼女。


それは、愛する人の座標を24時間監視し、世界という名の檻の中で、彼が決して迷い出さないように導く(システム)


(次回予告)

次は第35話、「悠真の大学の友人が絡む波乱」

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