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第33話:深夜の訪問。――ベランダからのサプライズ

大学生活が始まって数週間。悠真は「一人暮らし」という言葉の響きに、ようやく慣れてきたようだった。


……けれど、私は知っている。彼が夜、一人でスマホを眺めている時間や、冷蔵庫を開ける回数、そして、私に会いたいと願う心の隙間を。


午前1時。深夜の静寂がアパートを包み込む。


私は自分の部屋のベランダに出た。隣の302号室――悠真の部屋のカーテンからは、微かな光が漏れている。


「……まだ、起きているのね」


私は迷うことなく、隣のベランダへと足をかけた。ここは3階。普通の人なら恐怖を感じる高さかもしれないけれど、今の私には、彼との距離をゼロにするための単なる段差に過ぎない。


「……うわっ!? ほむら!?」


窓を叩く音に気づいてカーテンを開けた悠真が、腰を抜かさんばかりに驚いた。


私は鍵が開いていた窓をすり抜け、彼の部屋へと滑り込む。


「夜分に失礼するわ、悠真。……鍵、閉めていなかったわよ? 不用心ね」


「いや、用心も何も、3階のベランダから彼女が降ってくるとは思わないだろ……」


悠真は呆然と立ち尽くしている。私は彼に近づき、冷えた指先で彼の頬に触れた。


「……寂しくなかった? 一人で眠る夜は、私の声が恋しくならなかったかしら」


「……そりゃ、まあ……少しは。でも、明日も1限から講義だろ?」


「ええ。だから、一緒に寝ましょう。……その方が、効率的だわ」


その頃、アパートの向かい側に停まった軽自動車の中。


「……出たよ、ほむら姉さまの『ショートカット侵入』。もうドアから入るっていう概念を捨てたね」


あおばが、暗視スコープ代わりのスマホレンズを覗きながら、みもりと通信を繋ぐ。


「……予想通りね。壁があるなら、外を回ればいい。ほむらの辞書に『プライバシー』なんて言葉は存在しないわ。……あおば、センサーの反応は?」


「バッチリ。お兄ちゃんの心拍数、急上昇中だよ。……恐怖か、それとも興奮か。……まあ、両方だろうね」


みもりは『デリデリ』のアイスコーヒーを飲み干し、ノートに『ほむら・ベランダ連絡通路』と書き加えた。


「作戦名:『()()()()()()()()()()()()()()()()()』。……これで悠真は、寝ている間もほむらが現れるかもしれないという、心地よい緊張感の中で一生を過ごすことになるわ」


「……ほむら、お前……本当に俺のことが好きなんだな」


ベッドの端に腰掛けた悠真が、諦めたように、でも愛おしそうに私を抱き寄せた。


「好き? ……そんな生温い言葉で、私の執念を括らないで。……あなたは私の血であり、肉であり、魂の一部なの。……隣の部屋にいるだけで、体の一部がもぎ取られたような痛みが走るのよ」


私は彼の胸に顔を埋め、その鼓動を聴く。


一人暮らしの自由。そんなものは、この部屋の窓を開けた瞬間に、私の愛という名の重力に吸い込まれて消えた。


「……分かったよ。……もう、窓の鍵は開けておくから。……いつでも来いよ、(ほむら)


「……ええ。約束よ、悠真」


完璧な彼女。


それは、物理的な壁さえも執念で透過し、愛する人の安眠を、自分という名の永遠の夢で満たす支配者(イリュージョニスト)


深夜の302号室。二つの孤独が一つに溶け合い、私たちは再び、逃げ場のない愛の深淵(アビス)へと沈んでいった。


(次回予告)

次は第34話、「GPSの愛。あなたの居場所は私の掌の上」

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