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第32話:キャンパスの洗礼。――サークル勧誘という名の害虫駆除

大学のキャンパスは、高校とは比較にならないほど自由で、そして不潔だった。


新入生歓迎期間。色とりどりの立て看板が並び、上級生たちが獲物を探す猛禽類のように新入生へ群がっている。


その中心に、私の悠真がいた。


「ねえ君! サッカー部興味ない? マネージャーも可愛い子揃ってるよ!」

「こっちのテニスサークルは飲み会が最高に盛り上がるんだ、行こうよ!」


悠真を取り囲む、派手な服を着た女たちの邪悪な笑み。……不快だわ。私の許可なく彼に触れ、彼の時間を奪おうとするなんて。


(……駆除しなくては。私の聖域に泥靴で踏み込む害虫(むしたち)を)


私は、あおばとみもりから支給された『新歓サークル裏情報リスト』を脳内で展開し、優雅な足取りで人だかりの中へと分け入った。


「……あら、楽しそうね。私も混ぜていただけるかしら?」


完璧な微笑みを湛え、私は悠真の腕を強く、所有権を主張するように抱きしめた。


「げっ、近衛……!?」


「悠真、迷っていたの? このサークル、……確か去年、未成年の飲酒問題で大学から厳重注意を受けていたわよね? 確か代表は、三股をかけて退学寸前だったとか」


「えっ、あ、いや……それは……」


勧誘していた先輩たちの顔が引きつる。私はさらに追い打ちをかけた。


「こちらのテニスサークルも、実態はただの『お持ち帰り』目的の集団だと、SNSの裏アカウントで特定されているわ。……悠真、こんな不潔な場所、あなたの純粋な才能を汚すだけよ。行きましょう?」


私が冷徹な事実と少々の誇張を突きつけるたびに、群がっていた人々が潮が引くように散っていく。


キャンパス中央の時計台の陰。


「……よし、害虫駆除完了。ほむら姉さまの『情報戦』、エグいね。相手の黒歴史をピンポイントで突いてくるもん」


あおばが、ノートパソコンの画面を見ながら、みもりと通信を繋ぐ。


「……あおば、大学は情報の宝庫よ。相手の弱みを握れば、物理的な力を使わなくても排除できる。ほむらはそれを最短距離で学んだわね」


みもりは『デリデリ』のチキンナゲットを齧りながら、モニターに映る「清掃」されたキャンパスを満足げに眺めた。


「作戦名:『()()()()()()()()()()()()()()()()』。……さあ、次は悠真をどこのサークルにも入れさせず、放課後の時間をすべて『ほむら専用』に固定するフェーズよ」


「……ほむら、あそこまで言わなくても……」


人混みから逃れた先、悠真が苦笑いしながら言った。


「いいえ。あなたは優しすぎるから、あおばたちが言うようなハイエナたちに利用されてしまうの。……これからは、私がお勧めの『自己研鑽グループ』を見繕っておくわ。もちろん、私と一緒に活動できるもの限定でね」


「……それって、結局ほむらの監視下ってことだろ?」


「あら、心外だわ。私はただ、あなたが悪い虫に刺されないように、殺虫剤(パージ)を撒いているだけよ」


私は、彼のシャツの襟元を整えながら、その首筋に顔を寄せた。


広大なキャンパス、数千人の学生。

けれど、その中で悠真が触れていいのは、私という名の猛毒だけ。


「……分かったわね、悠真? あなたの自由は、私の手の届く範囲の中にしかないのよ」


完璧な彼女。


それは、彼を外界の汚れから守り、自分だけの無菌室に閉じ込める、美しき独裁者(ディクテイター)


(次回予告)

次は第33話、「深夜の訪問。ベランダからのサプライズ」

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