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第29話:バレンタインの呪い。――甘いチョコに込めた『永遠』

2月14日。世間が浮き足立つバレンタインデー当日。


私、近衛ほむらは、文芸部室で一人、机の上に置かれた小さな箱を見つめていた。


中に入っているのは、一ヶ月前から試作を重ね、私の「執念」を限界まで練り込んだ特製のトリュフ。けれど、真の主役はチョコそのものではない。箱の底、二重底になった秘密のスペースに隠された「あるもの」だった。


(……これを悠真が受け取った瞬間、私たちの運命は、もう法的な拘束力を持ち始めるのよ)


「……ほむら。これ、俺に?」


放課後の部室。呼び出された悠真が、照れくさそうに箱を受け取る。


「ええ。心を込めて作ったわ。……世界で一番重くて、甘いチョコよ」


悠真は箱を開け、一粒口に運んだ。


「……うわ、うまっ! ほむら、お前こんなに料理上手だったっけ?」


「ええ。あなたの胃袋も、これからは私が一生管理してあげるわ」


私が微笑むと、悠真は少しだけ背筋を震わせた。けれど、彼はまだ気づいていない。チョコを食べ終えた後に現れる、本当のプレゼントに。


「……ん? ほむら、箱の底に何か入ってるぞ」


悠真が不審そうに指を差し込む。取り出されたのは、銀色に光る一対のリング。――ペアリングだった。


「指輪……? いや、まだ高校生だぞ!?」


「ただの指輪じゃないわ、悠真。内側を見て」


悠真が目を凝らす。そこには、二人の名前と共に、ある日付が刻まれていた。


――『20XX.02.14 / Eternal Bond』


「……それは、私とあなたの『仮の入籍日』。大学を卒業したその日に、私たちは本物の夫婦になる。……そのための、予約票(リング)よ」


その頃、いつもの『デリデリ(Deli-Deli)』。


「……出たよ、ほむら姉さまの『バレンタイン・プリズン』。指輪を渡すだけじゃ飽き足らず、事実上の婚約内定まで持ち込んだね」


あおばが、新作の『デリデリ・チョコレートサンデー』を掬いながら、モニター越しに悠真の狼狽ぶりを観察する。


「……あおば、あれは指輪じゃないわ。……『首輪(リング)』よ。しかも、ダイヤモンド級に壊れないやつ。……ほむらはもう、悠真が成人した瞬間に、区役所へ連行する準備を整えてるわ」


みもりは、いつになく真剣な表情で、ノートの『ほむら・世界統一計画』に追記した。


「作戦名:『()()()()()()()()()()()()()()』。……あおば、お兄ちゃんが指輪をはめたら、もう私たちの出番は『結婚式の余興』を考えるだけになるわよ」


「……悠真。……左手の薬指を出しなさい」


私は震える彼の指を掴み、問答無用で銀の輪を滑り込ませた。


ぴったり。私の計算通り。


「……これで、あなたはもう逃げられないわ。誰が何と言おうと、あなたのその指は、私の所有物であることを証明しているの」


「……ほむら。……お前、本当に俺のことが好きなんだな」


悠真は呆れたように、でもどこか嬉しそうに、指輪の感触を確かめた。


「……わかったよ。この重さ、一生背負ってやるよ。……どうせ俺も、お前以外の女にこんなことされたら、怖くて逃げ出してるだろうしな」


「……逃げるなんて、許さないわよ。地の果てまで追いかけて、私の愛という名の地獄に連れ戻してあげるから」


冬の夕暮れ、部室に広がる甘いカカオの香り。


それは、愛という名の呪いの香り。


私たちは、銀色の輪で繋がれた手を取り合い、決して解けない「永遠」を、チョコの甘みと共に飲み込んだ。


(次回予告)

第30話:卒業式。――完璧な彼女と、涙の宣戦布告

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