第28話:外堀埋め。――完璧な嫁(?)作戦と、逃げ場のない家庭
大学進学という名の「未来の契約」を交わした私は、次のステップへと歩みを進めた。
悠真を完全に独占するには、彼本人を縛るだけでは不十分。彼の帰る場所、彼を育んだ環境――すなわち「家庭」さえも、私の管理下に置く必要がある。
日曜日。私は最高級の菓子折りを携え、藤原家の門を叩いた。
「……失礼いたします。悠真さん、いらっしゃいますか?」
出迎えてくれた悠真の母・佳代子さんは、私の顔を見るなり、花が咲いたような笑顔を浮かべた。
「あら、ほむらちゃん! いらっしゃい。そんなにかしこまらなくていいのに」
(……いいえ、佳代子さん。これは戦略的な挨拶なのです。あなたが私を『最高の嫁』だと確信した瞬間、悠真の自由は永遠に失われるのですから)
「……えっ、ほむら!? なんでリビングで母さんとお茶してるんだよ!」
部活から帰宅した悠真が、驚愕の声を上げた。
茶卓には、私が持参した季節の和菓子。そして、佳代子さんの前には、私が入念に作成した『悠真さんの健康管理と今後のライフプラン案』という名の、可愛らしくデコレーションされた(中身は執念の塊の)ノートが開かれていた。
「悠真、失礼よ。ほむらちゃん、あなたの大学生活のために、こんなに熱心に考えてくれてるのよ。……ああ、もう。悠真にはもったいないくらい、しっかりしたお嫁さん候補ね」
「お、お嫁さん……!?」
悠真が顔を真っ赤にするのを横目に、私は淑やかに微笑んだ。
「いえ、佳代子さん。私はただ、悠真さんのそばで彼を支え続けたいだけなんです。一生、……いえ、来世まで」
その頃、キッチンで聞き耳を立てていたあおば。
「……うわぁ。ほむら姉さま、完全に母さんの心を掌握したね。もう我が家の序列は、ほむら姉さまがトップだよ」
あおばがスマホで、リビングの様子をみもりに実況中継する。
「……計算通りね。外堀を埋める基本は『親を味方につけること』。これで悠真がもし万が一ほむらに逆らおうとしても、佳代子さんが『ほむらちゃんを泣かせるなんて許さない』って断罪する構図ができあがったわ」
みもりは『デリデリ』のポテトを口に運びながら、冷徹に笑った。
「作戦名:『ホーム・スウィート・プリズン』。……あおば、次はお父さんの攻略ね。趣味の釣り道具をほむらにプレゼントさせれば、藤原家は完全に陥落よ」
「……悠真。送ってくれる?」
夕暮れ。玄関先で、私はわざと悠真の隣に寄り添った。
二人の肩が触れ合う。佳代子さんは背後で「あらあら」と嬉そうに手を振っている。
門を出た瞬間、私は悠真の腕を強く抱きしめた。
「……これで分かったかしら、悠真。あなたの帰る場所には、常に私の影がある。……お父様もお母様も、あおばちゃんも。……みんな私を、あなたの『未来の伴侶』として認めてくれたわ」
「……ほむら。お前、いつの間にあんなノート……」
悠真は呆れたように笑いながらも、私の頭を優しく撫でた。
「……でも、まあ。母さんたちがあんなに喜んでるなら、俺も嬉しいよ。……俺の居場所は、結局お前の隣なんだろうな」
(……ええ。隣、というよりは……私の掌の上よ、悠真)
完璧な彼女。
それは、彼を取り巻く世界すべてを味方につけ、彼に「逃げる必要などない」と思わせる究極の支配者。
夜の帳が下りる中、私は彼の腕に頬を寄せ、藤原家という名の聖域を制圧した愉悦に浸っていた。
(次回予告)
次は第29話、「バレンタインの呪い。甘いチョコに込めた『永遠』」




