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第27話:将来設計の罠。――進路希望調査という名の誓約書

エリカがいなくなり、平穏が戻ったはずの教室。


けれど、私の前には新たなる「敵」が立ちはだかっていた。それは、担任から配られた一枚のプリント。――『進路希望調査票』。


(……未来。悠真の、私と離れているかもしれない時間。……そんな不確定な要素、認めるわけにはいかないわ)


私は迷わず、自分の第一志望欄に『〇〇大学 経済学部』と書き込んだ。県内屈指の難関校。そして、悠真の今の成績では、到底手が届かない場所。


けれど、それでいい。彼が届かないなら、私が彼を引き上げればいい。私の隣という名の、唯一の正解の場所へ。


「ええっ!? ほむら、お前と同じ大学!? 無理だよ、俺の偏差値じゃ……」


放課後の図書室。私の隣で、悠真が頭を抱えていた。


「大丈夫よ、悠真。私がついているわ。あなたの弱点も、学習の傾向も、すべて私の脳内にインデックスされているもの。……それとも、大学に行って、私の目の届かないところで他の女の子と出会いたいのかしら?」


私はペンを置き、じっと彼を見つめる。


「……そんなわけないだろ。俺だって、できればずっと一緒にいたいけど」


「なら、決まりね。これからは放課後だけでなく、休日も、長期休みも。……あなたの時間は、すべて私が『進学指導』という名目で管理してあげるわ」


私は彼の進路希望調査票を奪い取り、私の第一志望と同じ大学名を書き込んだ。


それはもはや進路希望ではない。私という名の、逃げ場のない(ケージ)への招待状だった。


その頃、いつもの『デリデリ(Deli-Deli)』の奥の席。


「……出たよ、ほむら姉さまの『人生丸ごとバックアップ作戦』。お兄ちゃんのキャリアプランまで完全に私物化してるね」


あおばが、新作の『デリデリ・厚切りベーコンバーガー』を頬張りながら、悠真のスマホ経由で送られてきた願書の下書き(の画像)をチェックする。


「……あおば、これはもうバックアップじゃないわ。システムの『完全上書き』よ。大学も、その後の就職先も、住む場所も。……ほむらはもう、悠真が『自分なしで呼吸する時間』をゼロにしようとしてる」


みもりは、いつになく真剣な表情で、ノートに『ほむら・政権構想』と書き込んだ。


「作戦名:『()()()()()()()()()()()()()()()()()』。……あおば、これ、お兄ちゃんが就職する頃には、もう近衛家の養子になってる可能性すらあるよ」


「……悠真、約束して」


図書室の窓から差し込む冬の西日。私は、ペアキーホルダーが揺れる彼のカバンの上に、自分の手を重ねた。


「大学に入っても、社会人になっても。……おじいさんになっても。……あなたの隣に立って、あなたのすべてを()()()()のは、私一人だけよ」


「……ああ。……分かってるよ。お前にそう言われると、なんか、もう逃げようなんて思わないよ」


悠真は少しだけ力なく、でも確かな安心感を湛えた笑顔で答えた。


完璧な彼女。


それは、愛する人の未来を、指先ひとつで編み上げる運命の女神(ラケシス)


私は、彼が書き込んだ『同じ大学名』を見つめながら、勝利の確信よりも深い、ドロリとした悦びに浸っていた。


(次回予告)

次は第28話、「外堀埋め。――完璧な嫁(?)作戦と、逃げ場のない家庭」

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