第25話:最後の一戦。――エリカが突きつける究極の選択
昨夜、冷たい雨の降る公園で、私たちは互いの醜さを晒し合った。
「重い」と言われ、突き放され、それでも「お前なしじゃ生きていけない」と抱きしめられた。
私の独占欲は、もはや「完璧」という綺麗な器には収まりきらない。けれど、悠真はその溢れ出したドロドロの愛を、逃げずに受け止めてくれたのだ。
しかし、物語はまだ終わらない。
翌朝、登校した私たちの前に、神崎エリカが立ちはだかった。その瞳には、今までのような余裕はなく、苛立ちと焦燥が混じっていた。
「……悠真、昨日の夜、あの子と会ったんでしょ? 酷い顔してる」
エリカが私の横を通り抜け、悠真の頬に手を伸ばしようとする。私は無言で、その手を叩き落とした。
「触らないで。……彼は昨日、私のすべてを受け入れると誓ってくれたわ。あなたの入る隙間なんて、もう原子一つ分も残っていない」
私の言葉に、エリカは自嘲気味に笑った。
「……へぇ。でも、悠真はまだ『約束』を果たしてない。……ねえ、悠真。今日、放課後のグラウンドで私と勝負して。私が勝ったら、あんたの『一番』を返してもらう。……あんたが勝ったら、私は二度とあんたたちの前に現れない」
「……エリカ。そんな勝負、意味がないよ」
悠真が困惑して答えるが、エリカは譲らない。
「意味はあるわ! 私は海外でどれだけあんたを支えに走ってきたか、あんたにだけは見せる権利があるはずよ!」
その頃、いつもの『デリデリ(Deli-Deli)』。
「……きたよ、スポ根の皮を被った『最終決戦』。エリカさん、やっぱり最後は自分の土俵に引きずり込んできたね」
あおばが、新作の『デリデリ・カツレツバーガー』を噛み締めながら、戦況を予測する。
「……あおば、これ、悠真が勝っても負けても、ほむらの心が試されるわ。悠真が『過去』を振り切る瞬間を、ほむらがどう見守るか。……それがこの物語の本当のゴールよ」
みもりは、いつになく真剣な表情で窓の外を見つめた。
「作戦名:『ラスト・ラン・ラスト・ラバー』。……あおば、記録の準備はいい? 二人の恋路を邪魔した女が、どう散っていくのか。……そして、ほむらがどう『正妻』として君臨するのか。一秒も見逃さないわよ」
放課後。夕闇が迫るグラウンド。
陸上部のウェアに着替えたエリカと、制服のままの悠真がスタートラインに立つ。
私はその光景を、ゴール地点でじっと見つめていた。
「悠真! 忘れないで、あんたを一番近くで支えてたのは、私だったんだから!」
エリカの叫びと共に、二人が走り出す。
エリカの走りは速かった。執念を燃料に、風を切り裂いて進む。
けれど、悠真の走りは、彼女のそれとは違っていた。
必死に、泥臭く、何かを振り払うように。
(……走りなさい、悠真。私のために。……過去の幽霊を、その足で踏み潰して!)
私は拳を握りしめ、心の中で祈った。
エリカの「過去」と、私の「現在」。
二人の女の情念を背負って走る悠真が、ついに私の待つゴールへと飛び込んできた。
僅かな差で、悠真の身体がテープを切り、勢い余って私を抱きしめる。
「……勝ったぞ、ほむら。……俺の『一番』は、今も、これからも、お前だけだ」
息を切らし、私の肩で笑う悠真。
その背後で、エリカがその場に膝をつき、激しく肩を揺らしていた。
勝利の女神は、完璧な彼女――私に微笑んだのだ。
(次回予告)
次は第26話、「別れと門出。エリカが残した最後の言葉」




