第23話:悠真の本音。――完璧な彼女と、懐かしい戦友
「……はぁ」
帰り道、俺は暗くなった公園のブランコに一人座り、ため息をついた。
ポケットの中には、エリカから渡された中学時代の写真。そこには、泥だらけで笑う俺と、今より少し幼いエリカが写っていた。
正直に言えば、俺は今、パニックの中にいる。
隣にいるのが当たり前だった「完璧」な幼馴染、ほむら。
彼女が俺を好きだと言ってくれた時、天にも昇る心地だったのは本当だ。でも、付き合い始めてからのほむらは、時々、俺が知っている「ほむら」じゃないみたいに、底知れない熱を帯びていることがある。
俺の行動をすべて把握し、俺の視線を監視し、俺の過去を塗り替えようとする彼女の「愛」。
それが、時々……ほんの少しだけ、息苦しくなることがあるのも事実だった。
「悠真、あんた本当は怖がってるでしょ。あの子の『完璧』に合わせることにさ」
昼間、中庭でエリカに言われた言葉。
エリカは、俺が陸上で挫折して、格好悪い姿で泣いていた頃を知っている。対して、ほむらはいつだって俺を「理想の王子様」のように見つめてくる。
(……俺は、ほむらが望むような『完璧な男』になれているんだろうか)
その頃、いつもの『デリデリ(Deli-Deli)』。
「……お兄ちゃん、完全に迷子だね。ブランコで一人、哀愁漂わせてるよ」
あおばがスマホのGPS信号を確認しながら、複雑な表情を見せた。
「……無理もないわ。ほむらの愛は、ダイヤモンドみたいに硬くて鋭い。受け止める側には相当な覚悟がいるもの。対してエリカは、彼の『弱さ』を肯定して近づいてきた。……これは、男にとっては抗いがたい誘惑よ」
みもりはミルクティーを混ぜながら、静かに分析する。
「作戦名:『メンタル・レスキュー・オペレーション』。あおば、これ以上放置するとお兄ちゃんの心が折れる。……でも、私たちが手を貸す前に、ほむら自身が気づかなきゃダメ。……『完璧』だけじゃ、人は愛せないってことに」
俺は、意を決して立ち上がった。
嘘をついてエリカと会ったことは、ほむらに謝らなきゃいけない。
でも、今のほむらに「本当のこと」を話して、彼女は笑ってくれるだろうか。それとも、あの氷のような瞳で俺を射抜くんだろうか。
(……怖い。でも、俺はほむらが好きなんだ)
カバンに揺れる、お揃いのキーホルダーを見る。
重たい。でも、温かい。
この「重さ」こそが、ほむらが俺に注いでくれている人生そのものなんだと、頭では分かっている。
家に着くと、玄関の前に人影があった。
冬の冷たい夜風の中、震えながら俺を待っていたのは、他でもない、完璧なはずの俺の彼女だった。
「……悠真。……どこに行っていたの?」
その声は震えていた。
完璧な美少女としての余裕など微塵もない、ただの、捨てられた子供のような瞳。
その瞳を見た瞬間、俺の中の迷いは、別の形の感情へと塗り替えられていった。
(次回予告)
次は第24話、「氷解。夜の公園でぶつかり合う本音」




