第22話:揺らぐ信頼。――エリカが仕掛けた巧妙な罠
エリカに言い放った宣戦布告。その勝利の余韻に浸っていた私は、自分の油断を呪うことになる。
完璧な彼女。完璧な関係。それを維持しようとすればするほど、わずかな「ノイズ」が私の心をかき乱す。
きっかけは、放課後の何気ない光景だった。
悠真が、私に内緒でエリカと二人、中庭のベンチで話し込んでいたのだ。
(……どうして? 悠真、あなたは私に「もうエリカとは関わらない」って言ったはずなのに)
柱の影から見つめる私の瞳が、黒く濁っていく。
悠真の手には、一枚の古びた写真。二人が中学時代、陸上部の大会で撮ったものだろうか。エリカが何かを囁くと、悠真が困ったように、でもどこか懐かしそうに笑った。
その笑顔は、私に見せる「彼氏としての顔」ではなく、もっと無防備な、ただの「少年」の顔だった。
その頃、いつもの『デリデリ(Deli-Deli)』のドリンクバー前。
「……あちゃー。お兄ちゃん、それ一番やっちゃいけないやつ。ほむら姉さまの『逆鱗センサー』が振り切れてるよ」
あおばがスマホに送られてきた隠し撮り画像(みもり経由)を見て、溜息をついた。
「あおば、これエリカの計算だよ。わざとほむらに見える場所で接触して、二人の間の『信頼』にヒビを入れてる。ほむらの独占欲が強すぎることを、彼女は逆手に取ったんだわ」
みもりが激辛ポテトを齧りながら、冷徹に分析する。
「作戦名:『スプリット・トラスト・スナイパー』。……ほむらが嫉妬に狂って悠真を問い詰めれば、悠真は『重い』と感じる。逆に黙っていれば、ほむら自身の精神が崩壊する。……どっちに転んでも、エリカの勝ち。……さて、ほむら、どう動く?」
その夜、悠真から届いたLINEは、たった一言だった。
『ごめん、今日は部活が長引いたから、先に帰ってくれ』
嘘。
私は彼がエリカと笑っていたのを見た。部活なんて嘘よ。
私の心の中で、どろりとした執念が形を変えていく。
(……悠真。あなたは嘘をついた。私の知らないところで、あの女と「過去」を共有した。……許さない。許せるはずがないわ)
私は暗い部屋で、悠真とのペアキーホルダーを強く握りしめた。
革の感触が指に食い込み、痛みだけが私の存在を証明してくれる。
「……逃がさないわよ、悠真。あなたが私の手からこぼれ落ちそうなら、その指を一本ずつ折ってでも、私に繋ぎ止めてやるんだから」
エリカが仕掛けた罠。それは疑心暗鬼という名の、最も強力な毒。
完璧だった私の世界が、音を立てて軋み始めていた。
(次回予告)
次は第23話、「悠真の本音。完璧な彼女と、懐かしい戦友」




