第2話:放課後デリデリ・シンドローム
完璧な美少女、近衛ほむら。
彼女の心臓を止めるには、一言あれば十分だった。
迫りくるライバル(?)の影に、壊滅的な悠真の点数。
最悪のピンチは、彼女にとっての「最高のご褒美」へと変わる。
策士たちが仕掛ける罠。舞台は、逃げ場のない放課後のファミレスへ。
ほむらの暴走する独占欲が、ついに「1mm」の境界線へと手をかけ始めます。
駅前のファミリーレストラン『デリデリ(Deli-Deli)』。
放課後の店内は、近隣の高校生たちの喧騒と、甘いシロップの香りに満ちている。
「……で、結局お兄ちゃん、何て言ったと思う?」
藤原あおばが、期間限定の『いちごマウンテン・パンケーキ』の頂上にあるホイップクリームをフォークで突きながら、呆れたように言った。
向かいに座る佐伯みもりは、ドリンクバーのメロンソーダをストローでかき回しながら身を乗り出す。
「まさか、あのマネージャーの告白、OKしちゃったとか?」
「まさか。お兄ちゃん、なんて言ったと思う? 『部室の鍵、返し忘れてごめん』って。マネージャーが潤んだ瞳で自分を見つめてるのに、それだけ言って逃げるように帰ってきたんだって」
「……あはは! 期待を裏切らないヘタレっぷりだね、悠真も」
みもりはポップな笑声を上げ、自分のスマホを取り出した。
画面には、ほむら、あおば、みもりの三人で撮った写真が待ち受けに設定されている。
「ほむらもほむらだよ。さっきLINEしたらさ、『今日は読書に集中したいから、連絡は控えてください』だって。絶対に部室で『呪』って書いてるって、あの様子じゃ。……まあ、あの子が書くのは呪いじゃなくて、重すぎる愛のポエムだろうけど」
「だよねー。あの二人、放っておいたら卒業までどころか、老後まで『ただの幼馴染み』で終わりそう。お兄ちゃんは鈍感すぎるし、ほむら姉さまはプライドが高すぎて素直になれないし」
あおばはパンケーキを口に放り込み、もぐもぐと咀嚼しながら真剣な目つきになった。
「ねえ、みもりさん。そろそろ『プランB』、行かない?」
「プランB……お勉強会作戦、だね?」
二人の視線が空中で交差し、不敵な火花が散った。
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翌日。学校の渡り廊下。
私は、昨日の動揺を1ミリも引きずっていない(はずの)完璧な微笑みを貼り付けて、悠真を待ち伏せていた。
「あら、悠真。顔色が悪いわね。昨日の『密談』で、魂でも抜かれたのかしら?」
「ほ、ほむら……。いや、それよりさ……。俺、終わった」
悠真が力なく差し出してきたのは、数学の小テストの結果だった。
『12点』。
その衝撃的な数字に、私の完璧な思考回路が一瞬フリーズする。
「……これは、芸術的な点数ね」
「笑えよ……。顧問に『次の定期考査で平均点以下なら、遠征メンバーから外す』って言われたんだ」
悠真の肩が目に見えて落ちる。
《チャンス!!!》
私の内なる執念が、ガッツポーズを決めた。
「仕方ないわね。……私が、教えてあげましょうか?」
「えっ、いいのか!? ほむら、忙しいだろ」
「いいのよ。幼馴染みのあなたが赤点で部活を干されるなんて、私のプライドが許さないわ。場所は……そうね。私の家は母が仕事で騒がしいから、あなたの家でどう?」
「助かる! ほむら、お前マジで『女神』!」
悠真の大きな手が、私の頭をぽん、と叩いた。
たったそれだけ。子供の頃から何度もあったはずの接触。なのに、頭頂部から火花が出るような熱さが全身に駆け巡る。
(女神……。いま、女神って言った……!)
《 悠真の部屋っ!! 二人きり……! 勉強どころじゃない!》
何をすればいいの?
(どんな服を着ていけば「偶然エロい」演出ができる!? 部屋にある彼の私物をどうやって自然に回収すれば――!)
「……それじゃ、今日の放課後、お邪魔するわね」
私は優雅に背を向け、悠真の視界から消えた瞬間に全力で壁に手をついた。心臓がうるさすぎる。
その様子を、校舎の3階の窓から眺めている二人の影があった。
「よし、【ターゲット確保】完了。お兄ちゃんの部屋への誘導、成功だね」
あおばがスマホのカメラを収める。
「みもりさん、あざといマネージャーへの『偽の呼び出し』、お疲れ様でした。お兄ちゃん、本気で怒られてると思ってビビってましたよ」
「いいってことよ。さあ、デリデリ行こ。あおば、今日はドリンクバー奢りね」
二人は軽やかに踵を返し、夕暮れに染まる街へと消えていく。
その先で、一人の少女の暴走する執念が、静かな部屋で爆発しようとしていることも知らずに。
(第2話・完)
第2話をお読みいただきありがとうございます。
完璧な美少女、ほむらの脳内が今日も忙しいです。「女神」という一言で沸騰してしまうあたり、彼女の「パーフェクト」は悠真の前では砂上の楼閣のよう。
そして暗躍する策士コンビ、あおばとみもり。
(イラストの左側のショートカットの子がみもりで、右側のポニーテールの子があおばです)
彼女たちの友情の根底には「大切な人の本当の笑顔が見たい」という意外と純粋な願いがあったりなかったり……。
次回、第3話はいよいよ密室!
「悠真の部屋でお勉強(でも集中できない)」をお届けします。
1mmの距離が、ほむらの理性を焼き切るのか。
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ファミレス『デリデリ』のイメージソングはこちら:https://suno.com/s/LzHVGRPb6XOfm4V8




