第1話:鏡の中のパーフェクト・ガール
誰からも愛される「高嶺の花」には、誰にも言えない秘密がある。
近衛ほむら。
容姿端麗、成績優秀、品行方正。
完璧を絵に描いたような彼女が、幼馴染の少年・悠真にだけ向ける、狂気にも似た執着。
これは、一見すると微笑ましい幼馴染のラブコメ――の皮を被った、
1mmの隙間も許さない「美しき監禁」の物語。
完璧な美少女の仮面が剥がれる音を、どうぞお楽しみください。
「……よし。今日も完璧」
午前6時30分。私は洗面所の鏡に向かって、自分に最後の中間報告を済ませる。
1ミリのハネも許さない黒髪ストレート。毛穴一つ見当たらない陶器のような肌。そして、ウエスト58センチのラインを強調する、シワ一つない制服の着こなし。
近衛ほむら、17歳。
学年成績は常にトップ、文芸部部長。母は元モデル。
周囲からは「高嶺の花」「歩く芸術品」なんて呼ばれているけれど、そんなの当たり前だ。私はその「完璧な私」を維持するために、毎朝1時間のメンテナンスを欠かさないのだから。
けれど、そんな私の「鉄の仮面」を、たった一言で溶かしてしまう天敵がいる。
「おーい、ほむら! 先に行くぞー!」
校門へと続く坂道。部活のバッグを肩にかけ、だらしなく制服の第一ボタンを外した少年が振り返る。
藤原悠真。
幼稚園からの付き合いで、私の人生において唯一「計算通りにいかない」存在。
「おはよう、悠真。相変わらず寝癖がついているわよ。みっともないわね」
私は優雅に、あくまで凛とした態度で彼に追いつく。心臓の鼓動が、朝のジョギング後よりも速くなっているのを必死に隠して。
「へへ、悪い。お前こそ、今日も気合入ってんな。なんか……また綺麗になったか?」
悠真が屈託のない笑顔を向ける。
その瞬間、私の脳内では緊急警報が鳴り響く。
(……っ! いま、『綺麗』って言った? 私のこと綺麗って言ったわよね!? 好き! 大好き! いますぐ抱きしめてその短髪に顔を埋めたい!!)
「……あら、お世辞はいいから《いますぐだきしめて》。早く行きましょう、遅刻するわよ」
実際に出た言葉は、氷のように冷ややかなものだった。
ああ、違う。私が言いたいのはそんなことじゃない。どうして私は、彼を前にすると「パーフェクト・ガール」の呪縛から逃れられないんだろう。
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放課後。教室で優雅に読書をしていた私の元に、嵐がやってきた。
「ほーむら! 今日も絶好調にガードが固いねぇ」
親友の佐伯みもりが、私の肩に腕を回してくる。ショートカットの彼女は、私が唯一「素」を見せられる数少ない理解者だ。
その後ろには、1年生の藤原あおばがニヤニヤしながら立っていた。悠真の妹だ。
「ほむら姉さまー、お疲れ様です。……あ、そういえばさっき、お兄ちゃんがサッカー部のマネージャーさんに『部室の裏で話がある』って言われてましたよ。あれ、絶対告白ですよねー」
「…………え?」
私の手の中で、文庫本がミシリと悲鳴を上げた。
視界が真っ白になる。悠真に、告白? あの、あざといと評判のマネージャーが?
「あら……そう。悠真も、ついに春が来たのかしらね。おめでたいことだわ」
私は完璧な微笑みを崩さなかった。
けれど、手に持っていた生徒会資料が上下逆さまであることに、自分でも気づいていなかった。
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その頃、駅前のファミレス**『デリデリ(Deli-Deli)』**。
「……見た? さっきのほむらの顔」
みもりが山盛りのベリーパフェを口に運びながら、楽しそうに笑う。
「見ました見ました。目が笑ってなかったですよねー。あの後、絶対部室でノートに『呪』って書き込んでますよ、うちのお兄ちゃんの名前」
あおばも新作のパンケーキを頬張りながら、スマホのメモ帳を更新する。
そこには**『近衛ほむら・攻略進捗:嫉妬レベル・マックス』**の文字。
「それにしてもさー、あの二人、いつまで『ただの幼馴染み』ごっこ続けるつもりなんだろ。見てるこっちが恥ずかしくなるわ」
「本当ですよね。お兄ちゃんはヘタレだし、ほむら姉さまはプライドが高すぎるし。私たちが少し『演出』してあげないと、一生一線越えられませんよ」
デリデリの奥の席。
パフェの甘い香りに包まれながら、最強の策士二人は、次なる「爆弾」の準備を始める。
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一方、誰もいない文芸部室。
ほむらは一人、ペンを震わせながらノートの端にこう書き連ねていた。
(悠真悠真悠真悠真悠真悠真悠真……告白? させるわけない。させるわけないじゃない。
悠真は、私のなんだから――)
完璧な美少女の瞳に、暗く、熱い執念の火が灯っていた。
(第1話・完)
第1話をお読みいただきありがとうございます。
完璧な美少女、近衛ほむら。
彼女が部室で一人、何を書いていたのか……。あのノートの余白は、彼女の「愛」という名の重圧で埋め尽くされています。
表向きはクールな「鉄仮面」ですが、内側は沸騰寸前の彼女。
次回は、そんな彼女を裏で操る(?)最強の策士二人、みもりとあおばの暗躍が本格化します。
「デリデリ」のパフェは、甘いだけではないようで……。
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イメージソングはこちら:https://suno.com/s/GzDHqeGh5UTApKm6




