第19話:初めての冬休み。お泊まり勉強会の誘惑
終業式が終わり、校内は冬休みの解放感に包まれていた。
けれど、私の心は北風よりも冷たく、荒んでいた。あの転校生、神崎エリカが悠真に見せる、私には踏み込めない「過去」の距離感。それが、どうしても私の胸をかき乱す。
(……このまま冬休みに入ったら、私の目が届かないところで、二人が……)
そんな私の焦燥を見透かしたように、あおばとみもりが「デリデリ」のいつもの席で、とんでもない提案を投げかけてきた。
「ほむら姉さま。エリカさんの出現で、お兄ちゃんとの絆が揺らいでる今、やるべきことは一つだよ。……『お泊まり勉強会』。これしかないね」
「お泊まり……!? そんなの、悠真のご両親が……」
私が狼狽えると、みもりがニヤリと笑って、スマホの画面を見せてきた。
「大丈夫。佳代子(悠真の母)さんには、あおばが『ほむらちゃんの家がリフォームで数日使えないから、預かってあげて』って根回し済み。親御さんは明日から一泊で親戚の家に行くから、家には悠真と、監視役のあおばだけよ」
「……ということで、今日から二日間、お世話になるわ」
夕暮れの藤原家。私は、あおばに指定された『勝負のパジャマ』(清楚だが、鎖骨が綺麗に見えるシルク製)をカバンに忍ばせ、悠真の前に立った。
「お、おう。……あおばから聞いたよ。大変だな、家」
悠真は、私の顔をまともに見られない様子で、落ち着きなく視線を泳がせている。
そんな彼の不器用な反応を見るだけで、エリカへの嫉妬で冷え切っていた私の心が、じわりと熱を帯びていく。
(……ああ。やっぱり、悠真を独占できるのは、私だけがいい)
「ねえ、悠真。……勉強の前に、少しだけ、甘えてもいいかしら?」
私は玄関で、彼のTシャツの裾をそっと掴んだ。
その頃、リビング。
「……よし、お兄ちゃんの部屋にカメラ……じゃなくて、センサー設置完了」
あおばがタブレットを片手に、みもりと通話を繋いでいる。
「あおば、やりすぎないでよ。ほむらの『執念』が暴走して、一線越えちゃうかもしれないんだから」
「いいんだよ、みもりさん。エリカさんが動く前に、既成事実……とまではいかなくても、お兄ちゃんの心に『ほむら姉さま以外は無理』っていう刻印を焼かなきゃいけないんだから」
二人の策士は、監視モニター代わりのLINE通知を睨みながら、ポテトチップスを齧る。
「作戦名:『ウィンター・ナイト・ホールド』。……さあ、密室、深夜、二人きり。ほむら姉さま、本気を見せてよね」
夜、11時。
あおばが「先に寝るね」と宣言し、家の中が静まり返る。
悠真の部屋。勉強机の上には、開かれたままの参考書。
けれど、私たちの視線は、一文字も紙の上を滑っていなかった。
「……悠真」
私は椅子を近づけ、肩が触れ合う距離で彼を見つめた。
冬の夜の静寂が、私たちの吐息を強調する。
「……エリカさんのこと、私に隠している『秘密』があるんでしょ? ……それを、今夜は全部、教えてもらえるかしら」
私の指先が、彼の掌に重なる。
誘惑という名の、甘い尋問。
冬休みの最初の夜、完璧な彼女の仮面を脱ぎ捨てた私は、彼を逃がさないように、じっくりと、その心の奥を暴こうとしていた。
(次回予告)
次は第20話、「過去の秘密。悠真とエリカが交わした約束」




