第18話:忍び寄る影。――冬の嵐と、謎の転校生
悠真のカバンに揺れる、私とお揃いのキーホルダー。
それを見るたびに、私の心は冬の澄んだ空気のように晴れ渡っていた。……はずだった。
「ねえ、聞いた? 2組に来た転校生、マジでモデル級らしいよ」
「しかも、藤原くんと同じ中学だったって噂だよ」
休み時間の廊下、漏れ聞こえてくる不穏なワード。
私の「独占欲アンテナ」が、最大出力で警報を鳴らし始めた。
(……同じ中学? モデル級? ……そんなの、私のデータベースには存在しないわ。悠真の過去に、私の知らない女がいていいはずがない……!)
私は「パーフェクト・ガール」の仮面を鉄壁に固め、悠真のいる2組の教室へと向かった。
教室の入り口。そこには、人だかりの中心で華やかに笑う一人の少女がいた。
神崎エリカ。
腰まであるプラチナブロンド(染めているのでしょうけど、忌々しいほど似合っている)に、日本人離れしたスタイル。
私をさらに焦燥させたのは、彼女が悠真の隣で、親しげに彼の肩を叩いていたことだった。
「なっつかしー! 悠真、あんた全然変わってないね! あの頃みたいに、また私の練習に付き合ってよ」
「エ、エリカ……。お前、海外に行ったんじゃなかったのかよ」
悠真が、私に見せるのとは違う、どこか「戦友」のような砕けた笑顔を見せている。
その瞬間、私の頭の中で何かがパチンと弾けた。
その頃、いつもの『デリデリ(Deli-Deli)』のランチタイム。
「……出た。ついに来たね。ラスボス級の幼馴染み(海外帰りバージョン)」
あおばが、新作の『デリデリ・スパイシーチキン』を猛然と頬張りながら、モニター(あおばが設置した教室の隠しカメラ映像)を睨みつける。
「あおば、これ、ほむらにとっては最悪のタイミングだよ。ようやく『彼女』の座を手に入れたのに、自分より長い……というか『濃い』過去を持つ女が現れたんだから」
みもりは冷静にポテトをケチャップの海に沈めながら、不敵な笑みを浮かべた。
「作戦名:『ディープ・パスト・パニック』。……ほむらが嫉妬で闇落ちする前に、エリカの正体と目的を暴かないと。……あ、ほむらの目が完全に『始末する』時の目になってるよ。お兄ちゃん、逃げてー!」
「……悠真。その方は、どなたかしら?」
私は、自分でも驚くほど冷徹で、美しい声で割って入った。
教室中の視線が私に集まる。
エリカは私を上から下まで眺めると、面白そうに口角を上げた。
「へぇ……。あんたが、悠真が言ってた『完璧な幼馴染み』さん? 噂通り、お人形さんみたいに綺麗ね」
「……お褒めに預かり光栄だわ。でも、彼は今、私の『彼氏』なの。部外者は控えていただけると助かるわ」
「彼氏? ……あはは! 悠真、あんた結局、この子に捕まったんだ」
エリカは悠真の首に腕を回し、私の目の前で彼を引き寄せた。
「でも残念。私と悠真の間には、あんたの知らない『秘密』があるの。……ね、悠真?」
悠真はタジタジになりながら、助けを求めるように私を見た。
けれど、今の私の瞳には、氷のような怒りと、それを遥かに凌駕する「漆黒の執念」が渦巻いていた。
(……いいわ、神崎エリカ。その『秘密』ごと、あなたを私の世界から消し去ってあげる)
冬の嵐が、今、静かに幕を開けようとしていた。
(次回予告)
次は第19話、「過去の秘密。悠真とエリカが交わした約束」




