第17話:冬の足音と、お揃いのキーホルダー ――初めてのペアアイテム
初デートから一週間。季節は足早に冬へと向かい、登校時の空気はピリリと冷たさを増していた。
私は文芸部室の窓から、グラウンドで泥にまみれてボールを追う悠真を眺めていた。
(……ああ、かっこいい。でも、あの姿を他の女子生徒たちも見てるのよね。全員の視線をペンキで塗りつぶしてしまいたいわ)
私の独占欲は、付き合い始めたことで沈静化するどころか、ますますその熱を帯びていた。
「幼馴染」という免罪符を失った今、私は彼を「私のもの」だと証明する、物理的な何かが欲しくてたまらなくなっていたのだ。
「……で、ほむら。さっきから何をそんなに睨んでるわけ?」
背後から、いつの間にか部室に侵入していたみもりが声をかけてきた。その横には、当然のようにあおばもいる。
彼女たちの手には、いつもの『デリデリ(Deli-Deli)』のテイクアウトカップ。
「睨んでなんていないわ。……ただ、少し考えていただけよ。悠真が、誰の目から見ても『私の所有物』だと分かる方法を」
「……所有物って。ほむら姉さま、言葉のチョイスが怖すぎるよ」
あおばが苦笑しながら、カバンから一つの包みを取り出した。
「そんな姉さまに、プロデューサーから提案。はい、これ」
包みを開けると、中には二つの、少し武骨なデザインの革製キーホルダーが入っていた。
「……何、これ」
「ペアアイテムの入門編。いきなり指輪とか渡したら、お兄ちゃんビビって逃げちゃうでしょ? だから、まずはカバンにつける『お揃い』から。これ、一点物だから、知ってる人が見ればすぐに『あ、二人は繋がってるんだ』って分かる仕組みだよ」
みもりがニヤリと笑う。
「作戦名:『マーキング・バイ・アクセサリー』。ほむら、これを悠真に渡して、自分の手で付けさせるのよ。それが『服従』の儀式なんだから」
放課後、部活終わりの悠真を校門で捕まえた。
「……悠真、これ。……プレゼントよ」
私はぶっきらぼうに、あおばから受け取った包みを差し出した。
「えっ、プレゼント? なんで? 今日、誕生日とかじゃないだろ」
「いいのよ。……ただ、あなたが私の彼氏だってことを、形にしておきたかっただけ」
悠真は不思議そうな顔をしながらも、包みを開け、革のキーホルダーを手に取った。
「へぇ、かっこいいじゃん。……おっ、お前のも同じやつか?」
「ええ。……だから、今すぐつけて。あなたの通学バッグの、一番目立つところに」
私は逃がさないように、彼の目を真っ直ぐに見つめた。
悠真は少し照れ臭そうに鼻を擦りながら、「わかったよ」と笑い、私の目の前でキーホルダーをカバンに装着した。
その瞬間、私の胸の奥が、言葉にできない多幸感で満たされた。
これで、悠真の持ち物の中に、私の存在が刻まれた。
彼が歩くたびに、そのキーホルダーが揺れ、私との繋がりを周囲に誇示するのだ。
「……似合ってるわ、悠真。……絶対に、外さないでね」
「おう、もちろんだよ。……ありがとな、ほむら」
夕暮れの校門。お揃いのキーホルダーが、西日に反射して鈍く光る。
完璧な美少女としての余裕。そんなものはもう、とっくに捨て去っていた。
私は、彼のカバンに揺れる小さな「証拠」を見つめながら、冬の冷たい風の中で、熱い独占欲を一人、噛み締めていた。




