第15話:暗闇の映画館。ポップコーンが触れ合う指先
いつも応援ありがとうございます!めびうすワークス代表のまりもちゃんです。
初デートも中盤戦。第15話の舞台は、恋人たちの定番スポット「映画館」です。
暗闇、密閉された空間、そして一つのポップコーンバケット……。
これほど「完璧な彼女」の自制心を試すシチュエーションもありません。
裏で糸を引く妹たちの指令を受けつつ、ほむらがどのように悠真との「聖域」を侵略(?)していくのか。
二人の指先が触れ合う瞬間の、静かな熱量を感じていただければ幸いです。
ショッピングモールの喧騒を抜け、私たちは映画館の薄暗いロビーにいた。
「……何、見る?」
悠真が券売機の前で尋ねる。
「そうね、悠真の好きなものでいいわよ」
そう答えつつ、私はカバンの中でスマホを握りしめていた。
数分前、みもりから届いたLINE。
『ほむら、映画は「ホラー」か「泣ける恋愛もの」にしろ。自然に密着できるから。チケットは一番後ろの端の席を死守せよ』
私は悠真が選ぼうとしたアクション映画を、巧みな誘導――という名の重圧で、いま話題の泣けるラブストーリーへと変更させた。もちろん、座席は指示通り。
館内が暗転し、巨大なスクリーンが光を放ち始める。
一番後ろの、二人だけの空間。
「……悠真、ポップコーン、食べる?」
私はあえて一つの大きなバケットを、二人の間に置いた。
これも策士たちの入れ知恵だ。一つの器を共有することで、無意識にパーソナルスペースを共有させる。
スクリーンの中で感動的なシーンが流れる中、私は内容なんてちっとも頭に入っていなかった。
(……いま。いまポップコーンを取れば、絶対に悠真の手と触れ合う……!)
私は震える指先をバケットの中に伸ばした。
カサリ、と乾いた音がして、私の指先に、悠真の節くれだった温かい掌が触れる。
「……あ、ごめん」
悠真が慌てて手を引こうとした。
けれど、私は逃がさなかった。暗闇を味方につけて、彼の指をそっと絡めとる。
「……そのままにして。……映画に、集中したいから」
私の心臓の鼓動は、映画のBGMよりも大きく、激しく鳴り響いていた。
*
その頃、映画館の入り口付近のベンチ。
「……よし、入場確認。あおば、あのアイスのカップ、もっとゆっくり食べて。上映終了まであと九十分はあるんだから」
みもりがポップコーン(自分たちの分)を頬張りながら、上映スケジュールの電光掲示板を睨む。
「みもりさん、あの席なら絶対手、繋いでますよね。お兄ちゃん、手が汗ばんでパニックになってなきゃいいけど」
あおばはストローを噛みながら、スマホのメモ帳に『初デート進捗:ミッション・シネマ』の項目を書き込む。
「作戦名:『ダークネス・コンタクト・シアター』。……次は、映画が終わって涙目になったほむら姉さまを、お兄ちゃんがどうフォローするかだね。そこでハンカチを貸せなかったら、お兄ちゃんの評価はマイナス百点だよ」
二人のプロデューサーは、暗闇の中で繰り広げられているであろう「甘くて重い攻防」を想像し、不敵な笑みを浮かべていた。
*
エンドロールが流れ始め、場内に薄明るい光が戻ってくる。
私はわざと、潤んだ瞳で悠真を見上げた。
「……悠真。……すごく、切なかったわね」
「……ああ。……でも、俺は……」
悠真は、最後まで繋いだままだった私の手を、より一層強く握り締めた。
「……俺は、映画の主人公みたいに、お前を一人で泣かせたりしないから」
その不器用な言葉は、どんな映画のセリフよりも私の心に突き刺さった。
完璧な私を見せる必要なんて、もうどこにもない。
暗闇が終わっても、私たちの手は離れることはなかった。
(第15話・完)
第15話をお読みいただきありがとうございました!
映画の内容よりも、隣に座る悠真の手の動きに全神経を集中させていたほむら。
暗闇をいいことに、自分から指を絡めとるあたりに彼女の「重い愛」が隠しきれずに漏れ出していますね。
一方の悠真も、不器用ながらに最高の「正解」を口にしてくれました。
そして、映画館の外でポップコーンを食べながら「ミッション・シネマ」の結果を待つあおばとみもり。
彼女たちの徹底した時間管理とプロデュースが、二人の甘い時間を支えている(あるいは支配している)という対比も、この作品らしいエッセンスです。
次回、第16話は「夕暮れの展望台。初めての名前呼びと、消えない熱」。
デートの締めくくりは、さらにロマンチックで、さらに逃げ場のない場所へ……。
引き続き、二人の恋路(と妹たちの暗躍)を見守ってください!




