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旅支度と約束

――出発の数時間前。


運び屋の旅支度を整えた部屋に、

軽いノックの音が響いた。


「すみません、日向さん。

動きやすい服装を見繕ってきました」


扉が開く。


「…どうでしょう?」


振り向いた運び屋は――一瞬、言葉を失った。


そこに立っていたのは、

先ほどまで見慣れていた

“白の聖女”ではなかった。


肩までの金色の髪。


青い瞳。


それは確かにセレストなのだが、

纏っている雰囲気がまるで違う。


白いローブの代わりに、短い茶色の外套。

中は動きやすそうな白いシャツ。


腰には革のベルトと小さな道具袋。

黒い短パンに厚手のタイツ、革のブーツ。


今まで見ていた、

静かな聖女の姿はそこにはない。


どちらかといえば――


街道を歩く旅人。


あるいは、活発な少年のような

雰囲気すらあった。


「……」


運び屋は思わず数秒、黙り込んだ。


(これは……)


聖女というより――

やたら整った顔立ちの、少年旅人だ。


「……あぁ」


ようやく口を開く。


「大変お似合いですよ。

いい選び方だと思います」


なんとか表情に出さないように答える。


「ほんとですか!」


セレストの顔がぱっと明るくなる。


「よかったです。少し不安だったので……」


運び屋は軽く咳払いをして気を取り直した。


「さて、セレストさん。

仕事に出る前に、

いくつか約束事を決めておきましょう」


「はい!なんでしょう?」


「まず一つ目。今後、

僕はセレストのことを“セレ”と呼びますね」


「えっ……?」


少し驚いたように目を瞬かせる。


「二つ目。会話はもう少しラフに行こう。

急には難しいかもしれないけど、

徐々にでいいよ」


運び屋は肩をすくめて笑う。


「とはいえ、セレは年下だし

……そのまま敬語でも別に構わないよ」


「う……が、頑張ります」


「三つ目。法力は緊急時以外、

基本使わないこと」


セレストは真剣な表情で頷く。


「法力を使う運び屋は、

そういないからね。もし必要な時は」


「――セレの判断に任せるよ」


「……わかりました」


「あと服装は、言うまでもないか」


運び屋は改めてセレストの姿を見て頷いた。


「聖女様のローブじゃ、さすがに目立つからね」


ローブはバルグリム王が預かってくれている。

護衛隊長たちが王国を出る際に

受け取る手はずになっている。


「とりあえず……こんなところかな。

何か質問はある?」


「はい!」


セレストは元気よく手を挙げる。


「日向さんのお仕事は、どこへ行くんですか?」


「いい質問だね」


運び屋は少し考えるように視線を上げた。


「向かう先は――“機械都市”だよ」


セレストの目が、わずかに見開かれる。


「最初にセレと会った時のこと、覚えてる?」


「はい」


「実はあの時、王国のギルド支部から

荷物の依頼を受けててね」


「機械都市へ向かう予定だったんだ」


「でも、あの“瘴気”のせいで道が使えなくなった」


運び屋は苦笑した。


「だから一度地上に出て、

別のルートから行こうと思っていたんだよ」


「で、その道中でセレたちと会った

――というわけ」


セレストの表情が、ふっと曇る。


「……」


運び屋はすぐに気づいた。


「セレ、そんな顔をしないで」


柔らかく言う。


「ほら、この通り。僕はなんともない」


脇腹を軽く叩いてみせる。


「今後この話で後ろめたさを感じるのは禁止」


「これは僕との約束だ」


セレストは少しだけ唇を尖らせる。


「……それも、約束事の一つですか?」


運び屋は小さく笑った。


「強情だね。

いや、そうじゃない」


肩をすくめる。


「セレがくよくよすることじゃない、ってこと」


そして軽く言った。


「これから一緒に旅をするんだ。

どうせなら、楽しくいきましょう」


セレストはしばらく黙っていたが――

やがて、ほんの少しだけ笑った。


「それと、もう一つ依頼の、

荷物を共有しておこう」


そして運び屋は手のひらくらいの箱を取り出す。


それをセレストに渡す。


「軽いですね、でもすごく硬い気がします」


「そう、ギルドが言うにはこの依頼が

50年以上前に出されて」


「ここ数日の間にこの荷物を

届けてくれという依頼さ」


「?変わっていますね」


「変わってはいるけど、

届けるのが僕の仕事だからね」


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