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アレクサンドリアの悪夢

前日譚~本編の間の物語。

新規キャラは公爵家の侍女ディーナ&ナディア&ダリアとか、孤児院でお世話になる修道女アメリアとか、ハリス殿下の取り巻きその一とか。

それは、アレクサンドリアがミリーとして生きていく決意をして、少ししてからのことであった。







「ミリー嬢、いい加減私に付きまとうのは止めて頂きたい。私にはアレクサンドリアという婚約者がいるのだから」


それはハリス殿下からの、突然の通告でした。

私は思わず固まってしまい、しかし、


「婚約者がいらっしゃることは重々承知しております・・・、それでも、友人として一緒に居ることすら許されないのでしょうか!?」


「くどいぞ。もう私に近づくのは止めて貰いたい」


「そんな・・・、ハリス殿下、せめて、せめて理由を教えて頂いても!?」


「正直、君の顔を見るのはもはや苦痛でしか無いのだ。はっきり言おう、君は私では無く他の人と友になるべきだ」


「ああぁ・・・」


泣き崩れる私をよそに、ハリス殿下はきびすを返して校舎へと戻っていくのでした。


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・







「きゃあああぁぁぁあああ!!!」


大きな叫び声をあげながら、私は目を覚ましました。

あれは、夢・・・だったの?

それにしてはリアリティが凄かった。

胸の動悸が収まらない。

嫌な汗が次から次へと流れ落ちてくる。

呼吸は荒いまま落ち着かない。

落ち着け、落ち着け、落ち着け、・・・・・・


「アレクサンドリアお嬢様、大丈夫でございますか!?」


突然部屋の扉が開けられ、侍女のディーナが入ってきて私の傍まで駆けてきました。


「ご無礼をお許しください、急に悲鳴が聞こえたもので、大丈夫でございますか!?」


「え、ええ、大丈夫よディーナ。少し夢見が悪かったみたい・・・」


私の落ち着いた声に安堵したのか、ディーナは私の周りを整えてから姿勢を正し、一歩下がりました。

それから少し心配そうな表情で、


「お嬢様、お加減いかがでしょうか? 宜しければ湯浴みの準備をいたしましょうか?」


「ありがとう、大丈夫よ。ただ、少し汗をかいたみたいだから湯浴みの準備をお願いできるかしら?」


ディーナは軽く頷くと廊下の方を見て、廊下に控えている侍女に指示を出しました。


「ナディア、湯浴みの準備をお願いします」


「かしこまりました」


返事と共に、ナディアの小さな足音が遠ざかっていきました。

ふと、今が何時なのか気になり周りを見渡してみると、まだ外は薄明るいままでした。

どうやら夢のせいでいつもより早く起きてしまったようです。

準備途中だったディーナやナディアに余計な仕事を作ってしまったみたいですね・・・


「ありがとう、ディーナ。もう落ち着いたから大丈夫よ。あなたも元の仕事に戻ってね」


「かしこまりました。ただ、私の担当分は一区切り付いておりますので、宜しければこのまま湯浴みの準備が整うまで傍に控えさせて頂いても宜しいでしょうか?」


「そう、ありがとう・・・」


ディーナとの遣り取りで、心はようやく落ち着いてきました。

動悸や汗ももう大丈夫です。

そうして少しずつ頭が冷えてくると、今度は夢の内容が気になりました。

もしかしてあの夢は予知夢というもので、将来起こることなのでは?

そんな考えが頭をよぎると、どんどんと気になってきました。

せっかく落ち着いた動悸や呼吸はまた少し荒くなってしまい、落ち着こうと言い聞かせても不安がどんどんと大きくなってしまいます。

このままではまたディーナ達に心配をかけてしまう、そう思った私は、ディーナに夢のことを相談することに決めました。


「・・・ディーナ、少し相談したのだけれど、いいかしら?」


「もちろんでございます。どのような内容でしょうか?」


「さっきの夢のことよ。・・・夢の中でね、私、ハリス殿下にこっぴどく振られたの・・・」


「振られ・・・!?」


「ええ、そうなの・・・」


「それは・・・夢とはいえ、お辛いことでございましたね」


「ええ・・・」


思い切って相談してみたら、ほんの少しだけど心が軽くなりました。

代わりにディーナがものすごく悲しそうな顔をすることになってしまい、やはり相談すべきでは無かったかな、と思い始めました。

申し訳なさから少し顔を下向けていると、ディーナが


「ちなみに、ですが、心当たりとかございますでしょうか? 夢の中でこのような事を行っていた、とかですが・・・」


と尋ねてきましたので、私は少し考えました。

そう、夢の最後は振られた事でしたが、その前のことも夢で見ていたのです。

私は覚えている限りのことをディーナに話し始めました。


「そうね・・・、夢の中の私は毎日校門の前でハリス殿下をお待ちしていましたわ。それから教室までずっと一緒に居て、クラスは別だったから教室では分かれて過ごしていたのだけど、選択科目は全て同じものを選んでいたわ。それからお昼になったら手作りのお弁当をもってハリス殿下の教室に突撃して、ハリス殿下と一緒に食堂へ行ってハリス殿下の隣の席で食べていたわ。そして放課後になったらハリス殿下と一緒に図書館に行ったりサークル活動を行って、最後は校門までハリス殿下を見送っていたわね」


「・・・やたらと具体的で細かい内容でございますね」


「ええ、何故かはっきりと思い出せるの。そうそう、それから合間合間にだけど、小物を作っては会う度に渡していたと思うわ。あとは世間話として、今日のハリス殿下は素敵ね、とか、今日の髪型は30分くらい時間をかけられたのかしら?とか、今日の服は3番目の引き出しの服ね、とか、今日の朝食はパンと鶏のシチューでしたね、とか、そんな感じの会話だったと思うわ」


「・・・・・・」


「あとはね、昨日はお風呂に45分も入られたのですね、とか、今朝久しぶりにダントン様とお会いになって会話が盛り上がっていましたね、とか、早朝の秘密の鍛錬とても感動いたします、とか、そんな当たり障りの無い会話でしたわ」


「・・・・・・・・・」


私が滔々と夢の内容を語っていますと、何故かディーナが複雑な顔をしながら黙ってしまいました。

何か問題があったのかしら?

そう思ってディーナに尋ねてみると、


「お嬢様、『お慕いする』という事と『ストーカー』の違いはご存じでしょうか?」


と、変なことを聞いてきました。

わたしは「もちろん」と答えた上で、


「『お慕いする』のは、相手のことを思い、相手のことを知ろう、相手と仲良くなりたい、と思うことですわ。それに対して『ストーカー』は相手の気持ちを考えずに付きまとうことですわ」


「その通りでございます。そして、夢の中のお嬢様の行動は間違いなく『ストーカー』と呼ばれる類いの行動になります」


「何ですって!?」


私がハリス殿下を思い、少しでもハリス殿下のことを知ってお近づきになろうとしていた行為が『ストーカー』と呼ばれる行為だったなんて!

まさか、この私が、まさかそんな・・・


「お伝えしようかどうか一瞬迷いましたが、お嬢様の様子を見る限り、きちんとお伝えすべきと判断いたしました。お嬢様、いくら相手のことを知りたいと思っても、プライベートな所まで詮索してはいけません」


「ええ!? でも、私たち貴族や王族には、そもそもプライベートな部分は殆どありませんわよ?」


「もちろんそうでございますが、限度というものがございます。お嬢様としては、ご自身が食された朝食や夕食を知ってもらえると話が盛り上がる、とお考えでしょうが、世間一般の人は逆に「この人、どうしてそこまで知っているの!?」と怯えてしまうのでございます」


「何ですって!!!」


そんな!

愛しい人のことをあれもこれも知って、そのことを話題にするのは怯えてしまうことだなんて!

貴族の令嬢同士だと、それくらいのことが出来なければ「そんなことも知らないなんて・・・何処の田舎出身なのでしょうか?」と罵られてしまうと言うのに!

※多くの令嬢はそんなこと出来ません。ごく一部だけです。風評被害反対! by貴族令嬢連盟


「また、朝校門の前で待ち続けるとか、帰りも校門まで送っていく、というのは貴族令嬢としてあまり好ましくありません」


「でも、私は貴族令嬢では無く平民になるのですよ?」


「平民同士なら積極的で良いかもしれませんが、お忘れでしょうか、ハリス殿下は王族ですよ? 王族貴族としての考え方が基本になっております」


「あ、そうでしたわね・・・」


私が平民だとしても、そんな私を見るハリス殿下は王族。

相手が平民だと思っていてもつい王族としての価値観が出てしまうのは当然ですわね・・・


「また、学園に居る間、四六時中付きまとうという状況もあまり好ましくありません」


「で、でも、少しでもハリス殿下と一緒に居たいし・・・」


「お気持ちは十分に存じております。しかしながら、世間一般の男性というものは女性に常に付きまとわれておりますと、最初は好意的に感じていても、途中から鬱陶しく思いがちになると伺っております。更に、婚約者がいる身で他の女性に寄ってこられると、中には優越感を感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、少なくともハリス殿下は困惑なさるかと」


「そ、そんな・・・」


婚約者がいるのに他の令嬢に付きまとわれていた令息達は、とてもとても嬉しそうにデレデレしていたので、てっきりそれが当然だと思っておりましたわ!

あ、でもよく考えたら私とシトラ以外の人がハリス殿下の傍に居ると想像すると・・・消したくなりますわね。

なるほど、人によって受け方が違ったのですね・・・


「侍女という立場で差し出がましい事になりますが、お嬢様はもっと世間一般の恋愛感情をお知りになるのが良いかと。幸い、ナディアは中規模の商家出身ですし、ダリアは孤児院出身ですので、様々な話を聞くことが出来るかと」


「そ、そうね・・・」


そう、まだまだ平民ミリーとしてデビューするまでには時間がある。

ナディアやダリアから話を聞くだけで無く、前にシトラから紹介された修道女のアメリア様とかからもお話を聞いて、平民として生きていく為の知識だけで無く、『世間一般の価値観』と言うものも身につけないと!



こうしてアレクサンドリアは決意を新たにし、様々な方面の知識を吸収していくのであった。

このときの遣り取りのおかげで、さりげなくハリス殿下に近づくことに成功したとかしなかったとか。


お読み頂きありがとうございます。


ディーナ「ところで、平民のはずのミリー様がどうやってハリス殿下のプライベートをお知りに?」

アレクサンドリア「え? 王城に忍び込んだだけですわ」

ディーナ「・・・どのように?」

アレクサンドリア「こう、目立たないよう音が出ないよう黒いピッチリとした服を着て、城壁から中に?」

ディーナ「・・・夢で、ですよね?」

アレクサンドリア「え? 今も夜中に偶に・・・、もしかして、駄目・・・?」

ディーナ「皆の心の平穏のためにも、以後お控えくださいませ」

アレクサンドリア「でも、ハリス殿下の寝顔・・・」

ディーナ「駄目です」


ハリス「ちょっと待って欲しい。そもそも弟の取り巻きはあれほど沢山本編に出ていたのに、私の取り巻きは番外編で初めて、しかも一人だけ? その上、名前だけで説明も台詞も無し?」

アレクサンドリア「・・・な、名前はレオンハルト様の時も出ていませんでしたから、そこは勝ってますよ!」

ハリス「一人だけ・・・、弟沢山、私一人・・・、ふ、これが人望の差というものか」

アレクサンドリア&ディーナ「・・・・・・」

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