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シトラの恋物語

ミリーとシトラの、本編後の日常での遣り取り。

いつも二人は大概こんな感じ。

本編前も、本編後も。

それは3人での旅が始まってしばらくした頃、ある日の昼食での出来事でした。


「お嬢様・・・、最近、時々胸が苦しくなることがあるのです。今までこのようなことはありませんでしたのに、『聖女の加護』を授かってから偶に起きるようになりまして・・・」


「・・・え。ごめん、もうちょっと詳しく教えてもらえる? 胸が苦しくなるとき、何か共通した事って起きてない?」


「はい、・・・そうですね、言われてみればある方の姿を見かけた時に良く起きている気がします。・・・はっ、まさか呪い!?」


「いや、違うと思うよ・・・。そもそも、『聖女の加護』持ちには呪いや病の類いは効かないし」


「そうなのですか、勉強になります。では何が原因なのでしょう?」


そう言いながら思いを巡らせるミリーとシトラ。

しばらくして、ふとミリーが何かに気づいたかのように頷き、


「・・・例えばね、その方と一緒に居る時を想像したら、どう思う?」


「あの方と、ですか? ・・・んん、少し胸が苦しくなってきて、少し鼓動も早く・・・?」


そう言って、少し頬を赤らめるシトラ。

それを見たミリーは確信し、追撃を放つ。


「ふむふむ、逆に、その方が他の人と一緒に居る所を想像すると、どう思う?」


「・・・少し、胸が苦しいというか、ムカムカしてくるというか・・・」


そう言ったシトラは、少しムカッとした表情。

そんなシトラを見たミリーは満面を笑顔を浮かべ、


「なるほど・・・、分かったわ。それはズバリ、恋よ!!!」


「恋・・・ですか?」


「そうよ、恋、恋よ! そうね、ついにシトラにも恋する乙女の季節が来たのね! お祝いしなくちゃ!」


「恋・・・これが恋、と言うものなのですね。なんだか恥ずかしくなってきます・・・」


「いい、いいわよ、シトラ。そんなあなたを見ていると私も嬉しくなっちゃうわ! で、お相手とは何処まで行っているの? 声はかけた? 手はつないでみた? どう、どう!?」


「わわわ、お嬢様近い、近いです! え、っと、その、恥ずかしながら未だ声をかけたことはございません・・・」


照れるシトラに益々興奮するミリー。

ミリーのテンションはどんどん上がっていき、


「そうなの・・・、でもいいわ、これからどんどん声をかけていけば良いのよ! そしてこちらに注意を引くの。あとはどんどんアピールして好感度を稼ぐのよ!!!」


「なるほど、シトラ、頑張ります! では、次の機会には抱きつくだけで無く声もかけるようにしてみます!」


「えっ!? 既に抱きついているの??? 声もかけずに!?!? ま、まさかシトラがそこまで積極的だったなんて・・・意外だわ」


「そ、そうでしたか、アレは少し恥ずかしい行動だったのですね・・・、次からは控えるようにいたします」


ガッツポーズからしゅんとするシトラ、そんな彼女を益々可愛いらしいと思うミリーはどんどん暴走していく。


「んーん、そんなこと無いわ! むしろもっとぎゅっと抱きしめていくべきよ!!!」


「もっと、ぎゅっと、ですね。承知しました、頑張ります!」


「そうそう、その調子よ! あ、そう言えばその方はどんなお姿なの?」


「そうですね、強いて言うなら一見すらっとしているけれど実際はしっかりとしております。また、抱きついた際にはとても良い香りがしてきます」


「おおー、しっかりとした体格で、更に良い香りですか・・・、なんたる掘り出し物・・・」


「ええ。私が抱きついたときも、抱きついた瞬間は軟らかく受け止めてくださり、その後はしっかりと力強くなるのです」


「何という、理想の体格ですか!!!」


益々暴走するミリーと、顔を真っ赤にしてもじもじし始めるシトラ。

いじらしいシトラを見てミリーの暴走は最高潮に達した!

そんなミリーに気づいているのか居ないのか、照れたシトラの告白は続いていき、


「はい、そのせいで出会う度に自然と抱きついてしまうように・・・」


「出会う度!? 何それ、毎回!?!? それってもう立派な恋人関係じゃ無い!」


「そう・・・なのですか? 申し訳ありません、その辺りのことは不勉強でして・・・」


「良いのよ、良いのよ。今気づいたんだから。あ、私としたことがうっかりしていたわ」


「何か?」


「名前よ、名前。何処の誰かによって対応が変わるでしょ? で、何処の誰なの?」


「はい、その方の名前は『クロワッサン』様と申します」


「なるほど、『クロワッサン』様ね・・・くろわっさん?」


くろわっさん???

思わず真顔で聞き返すミリーと、頬を赤らめうっとりしているシトラ。

二人のテンションが逆転する!


「はい、『クロワッサン』様です」


「・・・何処かの貴族? 富豪? それとも冒険者? 一市民?」


「いえ、パン屋に並んでいる商品です」


「・・・・・・」


「偶にしか販売されない上に直ぐに売り切れてしまうため、滅多にお目にかかれないのです。偶の出会いがあると、こう、胸が苦しくなり、気がつくとあるだけ購入していて、家で包みごと抱きしめてだき心地を堪能してから頂いております!!!」


「そ、そう・・・」


テンションだだ下がりで氷点下に入った困惑ミリーと、どんどん熱がこもり始める暴走シトラ。

真顔になったミリーに気づくことなく、その姿を思い出したのか目線を少し上げたシトラの独演は加速していく!


「その珍しさ故、また食べたときの満足感故、私たち『クロワッサン愛好会』はクロワッサンのことを『クロワッサン』様とお呼びしているのです!」


「くろわっさんあいこうかい・・・」


「ですがこの『クロワッサン』様に対する胸の苦しみは恋だったのですね! では私は確かに『クロワッサン』様に恋をしております」


「・・・・・・」


「『クロワッサン』様は抱き心地や香りが良いだけで無く、ゆっくり歯に力を入れていったときの弾力も素晴らしく、それが臨界を越えてサクッとなったときの高揚感ときたら! その先には柔らかな生地が待ち受けており、さらなる香りや甘みが顔を出してきて、パンの一部を噛みちぎる頃には・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・


その後、暴走したシトラの『クロワッサン』愛は一晩中続いたという。

そして一晩中真顔で聞く羽目になったミリーは、二度とシトラの恋相談に乗るまいと決意した。





・・・だから、三日後にまた恋バナがあったのは気のせいであろう。

お読み頂きありがとうございます。


シトラ「愛好会って、同じ物を求めて闘い競い合う人達の集まりですよね?」

ミリー「この場合、間違っているとは言いがたいわ・・・」

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