第二十二話、順風満帆。
「マランガさん、今日朝飯何食べたん?」
「今日か? 今日は……樹液を少々、ミミズ3匹だな……」
ログハウスの中にあるテーブルを囲んで話す魔王、リーシャ、マランガの三人。
一目惚れしたリーシャの隣に満足げに座るマランガだったが、食べ物の話になると細い目の下に横皺を刻み、話す口調もどこか元気がなかった。
「これからここで生きて行くために、飯の調達をなんとかせんといけないと思って、こうしてみんなに集まってもろたんやけど……」
「魔王、ほんとやで、マジでなんとかせんとヤバイわ」
「ですよね〜……」
マランガが魔王の意見に共感を見せる。それを聞いて、大分、魔王は話しやすくなった。
万が一、土食うから飯いらんわとか言われて、マランガの協力が得られなければ食物調達に重大な支障をきたす所だった。それが杞憂に終わり、魔王はほっとしていた。
なんと言っても、この世界にいる魔王の僕? の中でも唯一の生産タイプの魔物である。
マランガに対する期待度は大きかった。
「ワシな〜、あのな〜、畑耕して芋くらいなら作れるぞ。けどな、植物はなんとかなるけど、肉類とかも食いたいし」
クワガタのような姿をしているが、マランガは雑食だった。
まだお腹が空いているのか、マランガの下腹付近の轟きが一定のリズムを刻む。
魔王も芋や植物よりは、動物性タンパク質が欲しいのが本音だ。
そして、リーシャも……
三人は浮かない顔でテーブルに視線を落としていた。
「やっぱりさ、俺達魔族だし、人間どもから奪うのが一番いいんじゃねーか?」
魔王は唐突に、本能からくる率直な意見を述べた。
マランガも同意見らしく、上部の二本の足を組んで重々しく一度頷く。
だが――
「それはどうでしょうか……」
リーシャがそれに物申す。
「ん? 何でも言ってくれ」
魔王がリーシャに優しくそう促すと、リーシャは小さく頷いて独自の見解を話し出した。
「あのーさっき魔王様から吸引した時、引き出した記憶によりますと、魔王様の……」
リーシャは少し言葉に詰まるが、マランガがいるのを考慮して言葉を慎重に選ぶ。
「お友達の姫様は、余りこの世をかき回して欲しくないと思っておられます」
「うむ……」
魔王はさすがはリーシャだと感心していた。
実は魔王もさっきああは言ったが、大っぴらにこの世界で暴れたら、絶対姫の機嫌を損ねる事になると薄々感じていた。
それだけは避けたい。姫に嫌われる事だけはしたくなかった。
マランガは姫とはまだ面識が無いので、取りあえず黙って話しを聞いている。
「しかし、そうするとだな、肉はどうやって調達しようか?」
「そうですね〜、お肉……」
「肉いるよな〜……」
議論の中心は肉調達法一点に絞られていた。
「人間達の調達法を吸引情報から引き出すと、やっぱりお金ですね、これを得る事によって肉類との交換を得る事が早道かと思います」
「金か……」
金の話題になると、魔王とリーシャは口を閉ざして下を向いた。
双方とも吸引である程度、人間社会でのお金の調達方法は分かっていた。
しかし――色々ある中から自分たちにあった方法を選ぶには、至難を極める。
――一番楽なのは強盗だよな、次にスリ、恐喝、詐欺、麻薬売買、etc……
魔王は吸引の情報から探るも、よい方法が浮ばない。
どれもドス黒い犯罪が絡むものばかりだった。
とはいえ、そのセコイ犯罪を自分がするのかと思うと嫌気が差してくる。
重々しい空気が漂う中、不意にリーシャが何かを決意したかのように頭を上げた。
「決めました、私、姫様のいるコンビニでアルバイトします!」
「えぇ、お前……アルバイトって……」
「私は人間に変身できますし、問題ないです。魔法も使えますので、身分詐称も簡単です。いざとなれば、魅了も使えます。それに――」
魔王の耳元に顔を寄せると、リーシャはボソボソ呟く。
『それに……魔王様……姫様のコンビニでの様子が気になりませんか……? 姫様は若いですし、性格は多少変わっていますが……素直で可愛いですし、変な虫がつくことだってありますよ。だから、私があそこで働く事で常に監視をすることもできますし、邪魔者の排除だってできます。そして、お金も微量ながら入ります、一石二鳥だと思われます』
魔王は甘い吐息を受けて、耳がこそばゆかった。
だが、リーシャの話は魅力的で、聞いているうちに自然と笑みが零れ落ち、途中から快活に頷きながら聞き入っていた。
「――それはいい! リーシャ頼むぞ! ワシはワシで何か金の調達方法を考えるから!」
魔王は満面の笑顔で浮かれていた。
リーシャの言うとおり、姫に変な虫がつかないか、もしくは、ついていないか心配だったのは事実だった。なので、リーシャが姫と同じ場所で働けば、自然な方法で監視する事ができ、変な虫=男が近付けば排除もしてもらえる。更にお金も入ってくる。
これ以上ない案に、魔王は小躍りしたいくらい喜んでいた。
「マランガさんには芋作りお任せします〜お願いします!」
リーシャはマランガに最高の笑顔を振り向け、丁寧にお辞儀をして頼み込む。
宝石のように煌く青い瞳は優しさを湛え、マランガにそっと向けられていた。
マランガはその瞳に見据えらると、6本の足を力なく垂れ下げ、恍惚とした表情で体が少し左右に揺れていた。
だが、はっと我に返ると、急にキビキビした動きで、
「ま、任せてくれよ! 芋なんてちっちゃい事は言わねぇ。この世界のあらゆるものを育てて見せるよ! 期待してくれよ、リーシャさん!」
見違えるような滑舌、詰まる事のないきびきびした話し方。まるで人……否、魔物が変わったように、流暢にリーシャに力強く答えた。
目を見開き太い眉毛の端が、大きく持ち上がっていた。
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勇者はホテルを出るとき、フロントの支配人にある場所を尋ねた。
すると、支配人は親切にも地図をわざわざ持ってきて、その場所までの最短ルートを勇者に丁寧に教えてくれた。
そのおかげで、勇者一向は順調に目的地へと向かっていた。
「電車ってすごいね〜!」
「うむ……」
電車を降りると、ルージュが勇者に興奮気味に言った。
勇者はそれを聞いているようで、聞いていなかった。
ある問題を抱えていて、頭がその事で一杯だったからだ。
「しかし、勇者よ、この辺りは今までと違って立派な家が多いよな〜」
ドンゴロが周りに軒を連ねる大きな家々を、きょろきょろ見ながら言った。
「うむ……」
全く聞いていない勇者。
「勇者様〜犬のうんこが……」
「うむ……」
グシャ!
「うげ……」
ルージュはあからさまに嫌な顔をした。
「勇者! 前方に石の壁が……」
「うむ……」
ドカ! ガラガラ〜!
勇者はヤ○ザが乗り込むベンツの如く、避ける事をせず突き進む。
その様子を青褪めながら後方で二人は眺めていたが、さすがに人目が集まりだすと、
「ファイアボール!」
ルージュが勇者目がけてファイアボールを放ち――――余計に目立っていた。
ファイアボールは勇者の背中に着弾したが、ほんの少し衣服を燃やすと掻き消える。
何事もなかったようにどんどん歩いていく勇者。
しかし、少し遅れて背中の違和感を感じたのか、
「あれ、ここどこだ〜?」
勇者は辺りを見渡すと、そこが道路の交差点である事に気づく。
車のクラクションと怒号が飛び交う中、頭を下げながらルージュ達がいる歩道に戻る。
しかし――
「君、今の何〜?」
「ね〜君すごいね〜、炎だしてたし、手品かなにか?」
カシャカシャ……カシャカシャ……
ルージュ達の周りには人だかりが出き、携帯のカメラで取られまくっていた。
――げげ!? 目立ってる! まずいな……
「あの、え〜と……」
ルージュが野次馬に囲まれて困っていると、突然、ドンゴロが切れ始めた。
「コラ〜! 道を開けろよ! さもないと……!」
勇者はドンゴロが刀を抜こうしているのに気づいた。
――ヤバイ! やむおえん!
「アースクエイク!」
勇者は咄嗟に地に片手を押し当て呪文を唱えた。
すると、辺りの地表が地響きを立て断続的に揺れ始める。
突然の地震にたかっていた野次馬は驚くと、慌ててその場にしゃがみこんだ。
「ルージュ、ドンゴロ、今だ!」
突発的地震で周りが慌てふためく中、案外平気な顔をして佇んでいる二人に、勇者は大声で叫んだ。
勇者に呼びかけられると、即座に反応して駆け寄る二人。
「よっしゃ、このまま俺んちまで行くぞ!」
「ええ!?」
勇者はもう覚悟を決めていた。
ずっと悩んでいたが、この際、自分の家に行った方が色々楽だと思ったからだ。
勇者一向は走りに走った。十字路の坂を上り、スーパーの手前を横切って大きな家が建ち並ぶ住宅街の一角で足を止めた。
「ここが俺んちだ!」
後から推敲多くなっています、すみません。




