第十三話、勇者の決断。
「勇者よ、今回の働き真に見事であった」
「有難きお言葉……」
勇者は形式ばった言葉で、ドロンパ王と言葉を交わしていた。
王様と話を色々した後、側近から今回の栄誉を称えお金の入った子袋を渡された。
すぐにその場で仲間と円陣を組んで、中身を確かめ合う。
「うぉ〜すごい、金貨じゃ!」
「うわ〜一杯美味しいもの食べれるね!」
「ふ……」
王様の前で喜びのあまり、小躍り乱舞しだした僧侶と魔法使い。
これで暫く生活に不自由しなさそうだ――と勇者は安堵の息を漏らすも、恥ずかしかった。
王の間で見境無く下品な笑顔で踊る僧侶と魔法使いに落胆していた。
勇者は比較的、常識のある人間で、場をわきまえない人間が嫌いだった。
なんでこんなのしか俺のパーティには……とは思ったが、敢てそれを押さえ込んで、王様にしゃがんだまま向き直った。
「勇者よ、ご馳走も用意してある――誰ぞ、勇者一向を案内しなさい」
「はい……」
「ささ、勇者様こちらへ」
濃紺のローブを身に纏った家来が、手を差し出し勇者一向を食事の場へと促した。
「お、飯か、行こう!」
「わーい、お腹減ってたんだ!」
僧侶と魔法使いは家来の後を満面の笑顔で付いていく。
(何食えるんじゃろ? わかんないけど、いい物よ! 見た事ないような! そうかそうかアハハハ! )
大きな声で街中でいるのと全く変わらないような会話をする二人。
「…………」
その浮かれた二人を横目に勇者は、辟易してため息を付いた。
――もうちょっと慎み深くなれよ……
だが、自分もここ3日間まともなものを食べていなかったせいもあり、内心王宮での食事に期待していて足取りは軽い。
「ささ、この白い光の先に用意してあります」
「何これ〜」
「テレポーターの魔法ですよ、一瞬で食事の場へ行けます」
「おぉ、素晴らしい、じゃワシが先に〜」
僧侶は腹も減ってたし好奇心も重なって、勢い良くそれに飛び込む。
「あぁ、ずるい〜私も〜、勇者様一緒に行こう」
勇者は何かその白い光を見てると、心に引っかかるものを感じていた。
だが――魔法使いが右手を無理矢理引張ってきたので、結局は成行きで自分も中へと踏み込んでしまう。
こうして、三人はあっさり異界へと飛ばされてしまった。
ドロンパは魔王のときと違い、あっさりその罠にひっかかる勇者一向に拍子抜けしたとか――
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「わーい、あれ?」
「ここは一体……どこじゃ?」
「… …」
白い長方形のテレポーターを潜った先で、最初に三人の目に映ったものは豪華な部屋でもなく、テーブルに並べられたご馳走でもなかった。
「ここは……海?」
足元の砂浜に寄せては返す小波、海の向こうから潮風も吹き付けてくる。
しばらく、呆然と三人はその場で立ち尽くしていた。
「う、海のようじゃが、どういう事じゃ?」
「ここは……」
――……見覚えがあるぞ……
勇者は何か思い当たって辺りを見渡しながら、砂浜を右往左往し始めた。
「こ、この看板は!」
『○×市○×海水浴場、花火禁止』
――○×市……やっぱりここは日本!……まさかそんな事が……
勇者が半分思考が宙に浮いた状態で、体を小刻みに震わせていると、それを不審に思って魔法使いが駆け寄ってきた。
「どうしたの? 勇者様」
「そんな馬鹿な……」
「おーい! それより飯はどこじゃ!」
勇者がめったにみせない動揺した姿に、魔法使いはどうしてもいいか分からず、寄り添う事しか出来なかった。
その二人の様子を意に介せず、飯にありつけない怒りで砂浜を闇雲に走る僧侶。
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勇者は呆然としながらも頭の中で整理していた。
――あの白いテレポーターに何か仕掛けられてたようだ、あれはたぶん、時空魔法の一種、あれに触れたものを一瞬でどこかへ飛ばす魔法だったんだ。だが、なんで俺の住んでいた世界、しかも日本に繋がってるんだ?――
勇者は実際は押し黙っているが、心の中では様々な言葉が交錯していた。
――訳わからないが、あの魔法で日本に飛ばされた事は事実のようだ。さて、どうしよう? 俺も2年もこの世界離れていて……困ったな……――
勇者は自分の腕に寄り添い心配そうに見上げる魔法使いと、浜辺を慌しく走り回る僧侶に、視線を往復させているうちに、なにか使命感のようなものが心の底で生起し始める。
――俺がしっかりしないと……こいつらが路頭に迷う……
勇者は凛とした目つきに変わると、一度頷いて胸元で拳を握り締めた。
「僧侶! こっちこい!」
「え? ど、どうした、そんな大きな声で……」
僧侶は焦った。普段無口で大人しい勇者が凄い形相で怒鳴ったのだ。
こんな勇者の姿をあまり見た事が無かった。
その迫力に否応が無しに足が止まり、僧侶はゆっくりと勇者の前までやってきた。
「魔法使いルージュ、僧侶ドンゴロ! 俺の話を黙って聞いてくれるか?」
勇者が久し振りに彼等の本名を口にした。
普段は何か気が抜けるので、魔法使い、僧侶と呼ぶ事にしていた。その方が格好良いと三人の意見が一致していたからだ。
本名を呼ばれてしばし、ぼーっとしていた二人だが、勇者の真剣な表情を見て、何か感じ取ったらしくすぐに大きく頷いた。
それを見た勇者は、この世界の事、自分がここの出身だという事、三人がこの世界に王様の謀略で飛ばされてしまったという事実を、惜しげなく二人に話して聞かせた。
「え〜〜ここは異世界なの……?」
「なんと」
話を聞き終えた二人が、目を丸くして動揺を見せる。
ルージュとドンゴロは顔を見合わせて目を白黒させていた。
「しかし、何で王様が私たちを?」
「さぁな」
「む〜……」
勇者は王様の真意は分からなかったが、たぶん邪魔だったんだなっと安易に思った。
別に王様に対して怒りが湧いて来なかった。
それはここが、勇者の故郷であるせいもあった。
「糞〜、王様め〜!」
「ま、いいけど……」
血の毛の多いドンゴロは、悔しい様子で拳を握りこみ憤りを見せていた。ルージュは勇者が近くにさえいれば、それ以外は別にどうでも良かった。
「でさ、どうする?」
勇者は今の地点でこれからの方向性が見出せなかった。
勇者はこの世界に存在するゼームス大陸に繋がる場所を知っていたが、二年も経っている上に山の中にそれがあるため、記憶が曖昧になっていて、実際見つけれるか怪しかった。
それに、偶然とは言え、自分の故郷がある世界に戻ってこれた事が本当は嬉しかった。
山を歩いてて窪地に嵌ったら、ゼームス大陸に飛ばされていた。あれから二年、もう戻れないと思っていた場所に、こうして帰ってこれたのだから。
「勇者様の実家がある世界――と言う事はお母様もいるんですか?」
「うん、いるよ」
ルージュはそれを聞いて、
「私この世界で暮らします!」
即答した。
「え……お前いいのか? ゼームス大陸に残した家族は? 友達は? 知り合いは? それに文化も何もかも違うぞ? 大変なんだぞ? お金稼げよ? 家どうすんだ? 世間の荒波は厳しいぞ?」
ルージュはあまり深く考えて言っていないだろうと思い、勇者は色んな現実を畳み掛けるように突きつけた。
「あうあう……」
ルージュは目が点になって、口を開けたままパクパクさせていた。
しかし、それでも勇者はこの世界の出身である事は違いないし、自分は勇者のファンというよりは寧ろ――なわけでと、しばらく葛藤が続いた後、何か決心をして勇者に真剣な表情を向けた。
「それでも……ここで」
ルージュの意志は柔らかいようで硬かった。
勇者はまぁ、まだ来たばかりだし、そんなに答え急がなくても良いかっと頭を掻いてから、僧侶に目を移した。
「僧侶どうする?」
「ふふふ……」
ドンゴロは低く笑いながら、閉じてた目をかっと見開き、勇者を真直ぐ見つめて言った。
「勇者よ、ワシはあんたがいる所ならどこでもいいんじゃ」
「いいのか? 今から山中探せば、ゼームス大陸帰れるかもしれないぞ? お前を心配する家族とか知り合いとかいないのか?」
「それが全くいないんじゃ……」
ドンゴロは結婚もしていないし、両親もとっくに亡くなっていた。一人っ子なので兄弟すらいなかった。天涯孤独な身の上で寄る辺のないドンゴロは、勇者達と離れるわけにはいかなかった。
「ドンゴロ……」
「じいさん……」
虚ろな瞳で俯くドンゴロに、哀しい視線が二人から浴びせられる。
ドンゴロは俯きながらも、計算高く頭を働かせていた。
――こいつらに捨てられたら、ワシの老後は……絶対離れん! 一蓮托生じゃ!
「まぁ、取りあえず意見も纏まった事だし、俺んちでも行くか、金もないから実家帰んないと何も出来ないしな……」




