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30 いましたっ!!


 夜になった。

 

 静まりかえった街の中は閑散としている。

 人気ひとけはまったくない。

 

 なんでも【デロデロ】なるものは、人々が寝静まった深夜にでろでろっと現れて民家や家畜小屋に進入し、生物をでろでろさせるらしい。

 


 うん。あらためて聞いたけどまったく分からん。

 


 なんとか出来るかはさておき、めちゃくちゃもやもやするのでそいつをひと目拝んでやろうと、夜を待って表へ出たのだ。

 

 ユフィーは俺が行くならと抱っこ係り。

 アナスタシアは珍しく魔法でデロデロの浄化が出来るかを試したいと聖女らしいことを言い、ニーリスは暇だからと結局みんな付いて来た。

 

 出そうなポイントとかは分からないので、ひとまず、星明かりに照らされた街中を適当にぶらつくことにする。



「なあ、アナ。聖女のお前が魔法で浄化出来るかもしれないってことは、デロデロってアンデット系なの?」



「違いますわ」



「じゃあなに?」



「デロデロですわ」



「しつけーな、そのやりとり! ぶん殴るぞこのやろーっ!」



「ノゾミ。アナ様を責めないで」



 コアラナックルをぐるぐる振り回してたら、ユフィーが頭を撫でてくる。

 

 

「デロデロは多くの目撃情報はあるけど、まだ誰も倒したり捕まえたりしたことがない謎の生物なの。一説には精霊って噂もあるけど詳細は不明なの」



 地球で言うところの雪男とかツチノコとかそういう類ってことか。

 けど、目撃情報多数で被害も出てるってことは、確実に存在しているってことだよな。



「もし捕まえられたら、ナイフで臓腑はらわたぐちゅぐちゅしよう! どんな悲鳴を上げるかな」



 真面目に検証しようとしてんのに、今度はサイコが人差し指立てて顔近づけてくる。



「ニーリス。お前いつもそんなことばっかり考えてんの?」



「そうだよ。想像しただけでゾクゾクするでしょ。フフフ」



 うわー、爽やかな笑顔だよ。こわっ。



「ねえ、ノゾミン」



「うん?」



「いつか一緒にどこかの村を焼き払おうね」



「いや、それはやめた方が──」



「プギーーーッ!」

 


 ニーリスにドン引きしてたら、動物の叫びが響いてきた。

 

 全員顔を見合わせてそちらの方向へダッシュ。

 俺は振り落とされないようにユフィーの胸にガッチリしがみつく。こればかりは役得だ。

 

 

 声を頼りに細い路地を走り抜けると、比較的シンプルで大きな平屋の前に出る。



「豚小屋ね」



 ということは豚車の豚の寝床か。


 

 さっと入り口に近づくと、ニーリスが扉をそっと開く。

 


 と、そこには三匹の大豚。

 藁の上に大きな体を横たえている。


 一見すると眠っていて、何事もなかったように見えるが、



「あれ!」



 ユフィーが指さした先、三匹の豚の奥に四匹目の豚、のような……。



「なんだあれ」



 目はとろりと垂れ下がって、鼻水も垂れてる。いつもの必要以上にキリッとしたイケメン顔が、でろんとダラケている豚がいた。

 顔だけじゃなく手足も体も、なんかだらしない。寝ころんだまま涎垂らして草をむしゃむしゃしてる。



「プキュ~~」



 鳴き声もだらしない……。



「デロデロに浸食されてるわ」



「うっわー、マジか。でも確かに公爵家のメイドさんと一緒だな」



「ええ、まるで生きる屍のようね」



 メイドさんもそうだったが、なんというか、超やる気ない生物化だ。

 いつもは元気に車を引く働き者の豚くんがヒキニート化したみたいなそんな感じだ。


 みんながあんな状態になったら確かにやっかいだな。人も豚も誰も働かずに街中の生物がボーッとしてたら最終的には滅ぶしかないもんな。



「で、肝心のデロデロは、どこ?」



「ノゾミ、危ないからここにいて」



 ユフィーが俺を床に下ろしてニーリスとダラケ豚に近づいていく。


 流石に二人とも冒険者と元冒険者だけあって動きに無駄がない。

 左右に一定の間隔を開けて、音を立てずに進んでいく。

 



 ん? ……はい?



 ふと気づくと俺の目の前に、なんかゆで卵に細い手足が生えたような変な生物が立ってる。

 色は薄い紫。体長は俺より少し小さいぐらい。視点の定まらないまん丸の目と半開きの口。

 俺が言うのもなんだがハンパないアホ面だ。



「……なんだ、お前」



「ングウー」



 なんだろう。返事をしたのか、なんか言ってる。



「ングング、ンググググッ」



 うっわ、気持ち悪っ!



 なんか変な踊り始めたよ。

 関節がないのか、ふにゃふにゃしだした。しかも無表情。



「危ない!」



「んあっ!?」



「アウグーッ」 



 急にとなりにいたアナスタシアが警戒の声を上げた、と思ったらキモ卵がふにゃりと俺の顔にタッチした。



「うわっ! なんかネットリした」



「ノゾミ……大丈夫ですの?」 



「なんで? 撫でられただけだぞ」



 俺のへなちょこパンチ以下だぞ。平気に決まってる。


 けどアナスタシアは俺をひっ掴むと後方へ退がりソイツから距離を取る。 



「なんともありませんの?」 



「別に。それより、なんなのあいつ」



「あれが【デロデロ】ですわ! 触られたら終わりですわよ」



「マジッ! ──あれ? でも、俺なんともないぞ」



 触られた鼻のあたりを手で確認するが、なんともない。気分も良好だ。



「えっ!? デロデロしませんの?」



「しませんよ?」



「どうしてですの?」



「……さあ?」



 二人で小首を傾げていると、デロデロが再び踊りながら腕を伸ばしてくる。



「きゃあっ!」



 にゅるんと柔らかい手が俺の腹に触れる。

 悲鳴を上げたのはアナスタシアだが、触られたのは俺。 



「てめえ、盾にしやがったな」 



「ごめんなさい。つい……。でもノゾミ、触れられても大丈夫なのでしょう?」



「まあ、なんともないかな」



 でもそのゴリラ顔で「きゃあ!」って乙女悲鳴は止めてほしいな。

 こっちがビックリするから。至近距離で見ると「フンガーッ!」って脳内変換されて怖いから。



「ノゾミン!」



「アナ様!」



 悲鳴を聞きつけた二人が、慌ててこちらへと戻ってくる。




 あれ、でもなんか様子が変だ。


 顔面蒼白でめっちゃダッシュしてる。




 それもそのはずで、ユフィーたちの後ろでは、



「逃げて!」



「退却だよーっ!」

 


 豚くんたちを覆い隠すほどの無数のキモ卵、【デロデロ】が、ワラワラぬちゃぬちゃと変な動きで踊っていた。




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