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31 ゾクゾクの流れ



「大量発生だよ! 今すぐこの街を出た方がいいよ」



 豚小屋から外に出てしばらくダッシュした後、一息ついているとニーリスが声を張り上げる。

 ちなみに俺は疲れていないので、地面に下ろされている。



「逃げよう!」



「ナイフでぐちゅぐちゅするんじゃないの?」



「やったよ! でもほら」



 ニーリスが差し出したナイフはぐにゃりと変形し、刃部分はでろんと垂れ下がっていた。



「武器もデロデロすんのか!」



「どうもそうみたい。だから早く逃げよう」



「静かに!」



 その時、ユフィーが警戒の声を上げた。


 全員が口を噤み逃げて来た道に目を凝らす。



「ングーッ」



「アバーッ」



「ンググググッッ!」



 すると、嗚咽のような奇妙な声を上げ、変な踊りを踊るデロデロたちが追いかけてきていた。

 地面を這い蹲ったり、小刻みに振動したりと、集団で踊るとより気持ち悪い。



「不浄なる者よ、天に召されなさい! ターンアンデッド!」



 アナスタシアが、言葉からして浄化の魔法を唱える。


 眩い光がキモ卵たちを包み込んでいく。



「おお、すげー」



 しかし、



「ダメ、ですわ」



 アナスタシアの言うとおり、光が消え去ってもデロデロたちは何事もなかったようにこちらへ進軍を続けている。



「ウィンドカッター!」



 今度はニーリスが風魔法を唱えた。


 突風が刃となりデロデロたちに襲いかかる。



 だが、



「ああ、やっぱ無理かあ……」



 風の刃はデロデロたちに触れた瞬間、ふわりとやわらかな風となり通り過ぎていく。

 


 あれは魔法もデロデロしたってことか?

 ある意味最強じゃね?



「見た目はあんなに弱そうなのに」



「仕方ないわ。それがデロデロなのよ。一匹ならともかく、あの数では見学なんて論外よ。さあ、逃げましょう」



 ニーリスが口惜しそうに言葉をこぼすと、今度はユフィーが退却の指示を出す。



 が、



「ンンンンバーーッ!」



 いつの間にそこにいたのか。逃げようとした反対側の路地からもデロデロが現れていた。



「うそ!」



「まずいわ!」



 俺たちは相手をすぐに発見しやすい道幅の広い目抜き通りで休んでいた。

 しかし、迂闊にもそこは脇道もない場所だった。左右に並ぶ商店やそれ以外の建物も厳重に戸締まりされていてこれでは逃げ場がない。

 

 ゆっくりと為す術なくデロデロたちに囲まれていく。



「どうしよう。デロデロになっちゃう!」



「武器も魔法も効かない相手に、どうすれば……。ノゾミだけでも逃がさないと……」



「……ウ」



 全員めっちゃ悲観的だ。アナスタシアなんかガクブルしだしたぞ。

 何度も言うがゴリラ顔でそれはやめろ。怖いぞ……。



 だけど、俺は今回に限りそうでもない。結構冷静だし、実はビビってないのだ。

 

 なぜなら、触られると浸食されるというデロデロ攻撃が俺には効かなかったからだ。

 そして、それ以外の外見とか触られた感じは……めっちゃ弱そう。

 


「おらああああっ!」



「ンギーッ!」 



 おおっ! 試しに先行してたヤツぶん殴ったら吹っ飛んで消滅したぞ!

 

 一応手を確認してみてもなんともない。

 毛並み良好。意識もはっきりしてる。



 これはっ、やっぱりだ!!



「フフフフフ、フハハハハハ! ついに来たか俺の時代!」



「ノゾミ?」



「ノ、ノゾミン! いま殴った?」



「……やっぱり、ノゾミはデロデロしませんの?」



「どう言うこと?」



「よくは分かんない。けど、俺にはあいつらの攻撃は通用しないみたい」



「聖獣には精霊の攻撃が効かないってこと?」



 そうなのかな。わからん。第一、俺はまだ聖獣だと決まった訳ではない。


 けど、そんなことよりこれはチャンスなのだ。

 俺の意志はガン無視で、変な姿で異世界に飛ばされた上に超最弱。

 そんな俺が、異世界でヒャッハー出来る最大のチャンスなのだ。


 先に攻撃してきたのはお前らだデロデロくん。悪く思うなよ。

 これまでのストレス発散だ!



「みんな、ここは俺に任せろ!」



 ついでに、一度は言ってみたいセリフナンバー9も消化しておく。ちなみにナンバー15まである。



 という訳で。



「オラーッ! 初めての無双おつかいだ! オラオラオラオラララッ!」



「「「ングーーーッ!」」」





 殴ったね。ああ、殴ったさ。そして蹴ったね。蹴りまくったね。

 短い手足でガンガンいったね。


 駄々っ子パンチで面白いぐらい沈めてやったね。



「ノゾミン、すごいっ!」



「戦ってるノゾミ……かわいい」



 生まれて初めて受ける女子の声援も最高!



「ですが必死で戦っていると、お腹を壊して悶えるゴブリンみたいですわね。それにあれは振り上げているのかしら? 足、すごく短いですわね」





 ……アナスタシア、覚えてろよ。





 まあ何はともあれ、こうして俺の初めての無双おつかいは明け方まで続くのだった。



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