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12 理不尽な聖女

 

剣を抜きはなったユフィーは全速力で掛けだす。



「えっ! ちょっ、ユフィー──わっ!」



 止めようと思ったけど、もう遅かった。

すぐに両手放されて胸にしがみつくので精一杯です。やわらけえ、とか浸ってる暇もない。この速度で落ちたら軽く死ねる。

 

 首だけ回して見ると、颯爽と走るユフィーは、早くも一番近くにいた男に狙いを定めて飛び上がっていた。

 

 ザシュッ!

 

 男の手から鮮血が飛び散った。

 

 うわあ、痛そう……。

 

 男は、呻きながら剣を落とす。

 

 そこへすかさず鳩尾に蹴り。

 

 わおっ、すごい!

 


 とか言ってる場合じゃない。

 

 

 ユフィーは騎士を取り囲んでいた集団に突入すると、何人かを切り倒しながらさっき倒れた騎士へと駆け寄る。

 鎧の隙間になっている腰部分から血を流している。



「大丈夫?」



「……」



 返事がない。ただの屍だ。



 いや、



「……ウッ、グッ」



 唸っているから生きてはいるようだ。


 そこへ、



「助っ人かたじけない」



 別の元気な騎士がやってきた。

 緑髪のなかなかのイケメンで、身長も高い。

 いまの俺とは月とスッポンだ。



「私はラミス神聖王国の騎士アルバート。盗賊に急襲を受けてこの様だ。あなたは?」



「私は、……ただの旅の者よ。それより気を抜かないで」



 敵はユフィーの出現に驚き、全員動きが止まっていたが、彼女の言う通り、気を取り直した大柄な盗賊が一人、一歩前へ出ると、



「貴様等、何をしている! 敵の援軍は一人、しかも女だ!」



 活を入れるように大声を張り上げた。



 すると、



「あなたが指揮官?」



 なんでだろう……ユフィーも一歩前へ出た。



 必然的に防御力ゼロの胸当てと化した俺も出る。


 う、……こわい。



 俺は、間近で見る熊みたいなその盗賊にビビリまくっていたが、



「フン、それを知ってどうする?」



 男が答えると、



「倒すのよ」



 ユフィーはそう言って、ズカズカと男の目前まで行き剣を構えた。




 え!? なにこのタイマン勝負! 聞いてないよ!

 

 俺は胸にぎゅっとくっついたままユフィーを仰ぎ見たが、彼女の意識は熊男に集中している。 

 

 まあ、俺の心情とかはお構いなしに話は進むのだよ……。



「ガッハッハッハ! 女のクセにいい度胸だ。おい、お前ら、手え出すなよ」



 熊男は盗賊たちに言い聞かせると、持っていた両手持ちの斧を振りかざした。



 ビュオッ!

 風を切って大斧が俺の鼻先を掠める。



 うっわ! アブね! 



「おらおら! どうした女!」



 熊男は楽しそうに斧をびゅんびゅん振り回す。 


 

 どうしたじゃねえよコノヤロー! やめなさいよコノヤロー!


 

 当たっただけで脳みそ飛び出しそうな、俺の二倍近い大斧が、唸りを上げて左右から迫る。



「ちょっ!? うひっ!」



 だが、俺の悲鳴をよそにすべてを軽々と躱したユフィーは、



「そっちこそ、どうしたの? もしかして、それでおしまい?」



 挑発するような、それでいてちょっと残念そうな顔で、動きを止める。



 それを見た熊男は、プライドを傷つけられたのか、



「な、なんだとコラッ! ──なめやがって!!」



 真っ赤な顔で、腕に力を込めて再度大斧を振り回し始めた。

 

 さっきまでより速い。

 風圧で俺の毛が暴れ出す。

 ……マジで当たったら痛いじゃ済まない。 




 けど、それだけだった。

 

 ユフィーは、同じように軽々とすべての斬撃を避けると、──俺は、必死にしがみついたね──



「はあっ!」



 気合いのかけ声と共に剣を突き出す。



「グアッ!」



 それは男の右腕にあっさりと突き刺さった。

 まあ、見事な大振りだったからな。

 

 

「どう? まだやる?」

 


斧を取り落とした熊男の眼前にユフィーが剣を突き立てる。



「な……き、貴様何者だ!」



「何者でもないわよ。それよりどうするの? まだやる? それとも黙って逃げるなら負傷者も連れて行っていいわよ」 



「……く、そ」



 男は悪態をつきながらも、周りを見渡しじりじりと後退っていく。



 そして、



「退くぞ」



 そう言って元気な者に負傷者を背負わせ、林の中へと消えていくのだった。



 盗賊のクセに部下思いなのか、あのまま戦っても先に自分が殺されると思ったのかは分からんが、兎に角逃げてくれた。



 俺はやっと剣をしまったユフィーの腕に支えられ力を抜くことができた。



「大丈夫だった?」



「まあ、なんとか。けど、これから全力で戦う時は下ろしてもらえると助かる」



「そうね。全力の時はそうするわ」



 ん? なにそれ。いまの全力じゃないの? 

 シュバババってものすごい速さで剣振ったり、ぴょんぴょん飛び跳ねたりしてたけど、まだ底があるのか。



 うーん。もしかしてユフィーって想像以上に強いのかもしれん。





「ありがとうございました」



 二人で話してると、アルバートが礼を言いにやってくる。



「お見事な剣技、感服致しました。騎士としてお恥ずかしいですが、あなたがいなければ護衛の任務を全うできそうもありませんでした」



「どなたの護衛を?」



「ああ、それは」



 そう言ってアルバートが豚車を振り返ると、ちょうど扉が開き中から一人の人物が降り立った。


 長いゆるふわの赤髪に顔は隠れているが、ゲームに出てくるようなミニスカートの神官着ぽいものを着ている華奢な少女だ。

 

 少女は他の騎士に付き添われ、倒れた騎士の元へ駆け寄ると、出血していた部分へ手を翳す。

 

 すると、細い手が眩い光に包まれていく。

 

 数十秒そうしていただろうか、



「う……あ……」



 倒れていた騎士が上半身を起こした。傷口が塞がったらしい。



 どうやら魔法で傷を癒したようだ。

 魔術があるとは聞いてたけど、生で見るとなんか感慨深い。

 回復魔法だからか神々しい感じだ。


 治癒を終えた彼女がこちらへ近づいてくると、



「ラミス教団の聖女様です」



 アルバートがそう言って少女を紹介する。



「アナスタシアと申します。この度は危ないところを助けて頂きありがとうございます」



 そう言って顔を上げた可愛らしい声の主は、俺とユフィーに衝撃をもたらした。




 いろいろな意味で……。




 まずユフィーは。



「アナ様……」



「……ユフィーさん、やっぱりそうでしたのね。豚車の中からの遠目でしたが、あの剣舞のような見事な剣さばき。あなたではないかと思っていたのです」

 


 知り合いだったらしい。



「お久しぶりです。お元気そうですね」



「あなたも」



 フフフフ、とか貴族っぽく笑い合ってるけど、これ、いきなり消息不明計画失敗じゃね?

 



 それから俺の方ね。俺の方の衝撃はすごいよ。びっくりするよ。

 

 だってね。ここは異世界でしょ。そいで【聖女様】【赤いゆるふわ髪】【華奢な少女】【穏やかな物腰】【可愛いミニスカ神官着】【乙女な声】こう聞いてどう思います?

 


 間違いなく美少女連想するよね。

 なんか守ってやらなきゃ的な薄倖の美少女を。

 



 けどさ……。



「あら、ユフィーさん。このぶさいくな生物はなんですの?」



 そう言っておれを覗き込んだその顔……。



「なんか、気持ち悪い顔してますわね」



「それはお前だーーーーーっ!」



「きゃあっ!」 



「ノゾミ?」



「アナ様!?」




 思わず叫んじまったぜ、こんちくしょう!

 

 みんな驚いてるけど、それどころではない。






 だってこの聖女様……。





 スターウォーズのチューバッカにそっくりなんだもん。



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