11 アイコンタクトは仲良しになってからにしてください
冒険者ギルドで依頼を受けた後、俺たちはこの間ユフィーが泊まっていた宿屋に来ていた。
泊まるためではなく、一階が食堂になっているのだ。
少し早いが昼飯を食いながら今後の計画を話し合うことにしたのだ。
ちなみにメニューは、ほうれん草みたいな葉っぱのサラダと、何肉かは分からんが赤みのステーキでなかなかにうまい。
家の手伝いなのか、料理を運んできた小さな女の子が、俺を見て「うわっ! 変な顔っ!」とか驚いていた気がしないでもないけどスルーだ。
ブサコアラであるかぎり、きっとこういうことは今後もあるだろうからな。慣れねば。
人の姿に戻るまでの辛抱だ。
俺は一人でイスに座ると、顔どころか頭のテッペンも見えなくなるのでテーブルの上でもぐもぐしながら、ユフィーに切り出した。
「黒竜山脈ってとこに行きたい」
「黒竜山脈?」
「バカ親父……、じゃなくてスレイヴに聞いたんだ。そこにいる賢者は物知りだって」
「ああ、賢者ローウェスね」
言うと納得したようにユフィーも首肯する。
「確かに博識な賢者なら、もしかしたら人に戻る方法も知ってるかもしれないけど、ここからだとかなり距離があるわね」
「遠いの?」
ここで俺は自分が結構適当男であることを痛感した。
スレイヴのこと言えんぞ、これ。
この世界に来て三日目なのに、ほぼなんも知らんのだった。
ここが、ドミニオン大陸の東に浮かぶハロウズ島だということは聞いていた。けど島って言っても結構広いらしいのだ。
そこで詳しく聞いてみると。
ハロウズ島は、創世の女神が世界を創った後眠りについたとされる地で、その地形は人の姿に似ている。
胸の下で手を合わせた人が横たわっているイメージだ。
女神そのものが、この下に眠っているという言い伝えらしい。
その人型マップで、現在地であるガーネット王国は上半身の左側部分に位置している。その中の二の腕あたりに今いるリムリスの街がある。
上半身の右側部分に、ユフィーの婚姻話にあったアスケドニアがあり、腹部分に位置するのは剣聖ガディウスっていうなんか強そうな人の治めるローバル帝国。
その三つの国が取り囲む形で黒竜山脈がある。女神が手を合わせている島の中央部分だ。賢者が住むのは帝国側の麓だそうだ。
ちなみに島の一番東が頭部で、そこにはラミス神聖帝国だとかがあり、西には左足部分に都市国家群だとか右足部分には半分海賊のような国なんかもあるらしい。
うむ、広い。日本の本州ぐらいはあるのかも。
リムリスの街から目的地である賢者の住む地へは、幾つかの街や村経由で二十日ぐらいの行程。
確かに遠いな。
まあ、他に手がかりないから行くけどね。
計画としては、ユフィーはここから消息を経つことになるので、まずはギルドで受けた依頼の地へ徒歩で向かうフリをする。
途中街道を逸れて迂回する形で目的地方向の街へ進む。そこから街同士を結ぶ乗り合い豚車というお金払えば誰でも乗れる大型の豚車を使う予定。この世界のバスみたいなものだ。それを乗り継いで帝国領へ入り黒竜山麓の街まで行く。そこから最後は賢者宅まで徒歩。
お金に関しては、スレイヴがユフィーにかなり渡したから心配ないということだ。
貴族、やっぱ金持ちだな。
一通り話した後、旅道具はユフィーが持参しているので、食料なんかを買ってすぐに出発することにした。
荷物は見た目の数十倍入る便利リュック(魔導具)に入れているからそれ一つで事足りてしまう。値は張るが、重量もリュックのそれのみなので、この世界の冒険者や商人には必需品らしい。
まずは徒歩旅。
俺は抱っこされてるから抱っこ旅のスタートだ。
「楽しい旅になるといいわね」
「ああ」
そうね。楽しみね。主に二人っきりの夜とか。
門を出て、街道を二時間程歩き人気がなくなった頃、草原へと入って行く。
初日にデカイカエルの魔物がいた草原だ。
そういえば、ユフィーはどれぐらい強いのだろうか。
ソロで冒険者していたし、ゴドスたちより強いらしいことは知っているが、今後危険な世界で一緒に旅をするのであればどの程度かは把握しておくべきだろう。
なんせ俺は戦力外だし。
そこで単刀直入に聞いてみることにした。
「ユフィーって冒険者してたみたいだけど、どのぐらい強いの?」
「私の強さ?」
「ギルドでも、オーガからは逃げるって言ってたよね。それって一人旅するのに危険じゃないの?」
「そうね……」
ユフィーは顎に手を当てると、「ふーむ」とやや考えて、おもむろに剣を抜きはなった。
技でも見せるのかと思ったが、そうではなかった。
行く手に、何かいた。
大型の犬のように見える四足歩行で口が異様にデカイのが3、4、5匹。
……狼の魔物か?
俺がそう思った時には、ユフィーは動いていた。
背負っていたリュックをぽすっと地面に下ろすと、白い戦闘服を翻して、右手に長剣左手にコアラ状態で舞うように跳ね、バタバタと狼たちを切り倒していく。
狼たちは、その獰猛な牙で反撃する暇もなかった。
そして、
「このぐらい、かな」
先ほどの答なのか、そう言って剣を鞘に収めた。
うーむ。持たれたままだったので若干気持ち悪いが、俺は考えてみる。
このぐらいって、どのぐらい?
いや、俺のいた世界基準だとすごく強いよね。5匹のデカイ狼を剣で瞬殺出来る人いないだろうからね。
けど、この世界って魔物とかいるし、基準が分からん。
するとユフィーはクスッと笑う。
「そんなに難しい顔しなくても大丈夫よ。強い魔物なんて山奥とか特殊な場所にしか出ないから。それに私、こう見えて結構強いのよ。お兄さまに小さい頃から鍛えてもらってたし、剣士としてなら熟練騎士にも負けないわよ」
うむ。やっぱりよく分からん。まず熟練騎士の強さ知らんし。
だけど、この世界を徒歩旅するぐらいの自信はあるらしいので、まあ大丈夫ということにしておこう。
少なくともユフィーといる限り危険は少ないと思ってよさそうだ。
二度も命救われてるしね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから二日間は順調だった。
たまに現れる魔物は公言通りユフィーが簡単に倒すし、天気も崩れることもなく良好。野宿とか初めてだったけど気温も穏やかだし、なによりユフィーとくっついて眠るのだから「ムフフ」であった。
だが、迂回も終わりようやく街道に出たところで、事件は起こった。
道なりに進んでいくと両側が木々に囲まれだし、道は大きくカーブを描いていた。
そのカーブに差し掛かったところで、喧噪が響いてきた。
先には意匠の凝った豪華な豚車が止まっていて、そこで騎士のような白い鎧姿の数名が、ボロ布を纏った二十人近い男たちと剣を交えていた。
これって豚車が盗賊に襲われてる? 異世界もののテンプレ風景……?
けど、こっちは消息を経ったばかりの訳あり貴族令嬢と最弱生物デフォコアラなのです。
騎士たち劣勢っぽいけど、申し訳ないが助けるとか無理。
身元バレのリスクとかあるし、どっちにしろいくらユフィーが強くても二十人相手とか無理でしょ。行っても無実の死体が増えるだけだ。
あ、騎士くん一人倒れた。
……、騎士たち、がんばっ!
俺はサッとユフィーを振り返り「逃げよう」と目で訴えた。
彼女は「同意した」と即座に頷く。
と。
あれ? いま頷いたよね。
なのになぜなのかしら?
ユフィーさん、リュック地面に下ろしたんですけど……。
うそ! マジ!?
俺の驚いた顔を見て今度はニッコリ笑うユフィー。
……。
ああ、これもしかして、まったくアイコンタクト取れてない?
だってどうみてもこれ、俺の目→逃げる。
だけど、ユフィーの目→助ける、だよね。
「しっかり掴まってて」
とか言ってるし!
「うおっ!」
そして剣を抜きはなったユフィーは、ピンクコアラ片手に、全速力で掛けだすのだった。




