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ミナソコ 破

ミナソコ 破


ミナソコ 破


 宿へ戻るころには、夜もかなり更けていた。


 裏口の灯りだけが残っている。


「静かにしてよ」


 メイは桶を抱え、もう片方の手に古い杖を持ったまま、小声で言った。


「どうして?」

「みんな寝てるから」

「寝てる人には聞こえないよ」

「私には聞こえるの」

「メイは寝てないでしょ?」

「そういう問題じゃないの」


 桶の水が、くすくす笑った。


 メイは顔をしかめながら裏口を開けた。


 台所には誰もいなかった。火の落ちた竈の中で、赤い炭だけがかすかに光っている。昼間まで積み上がっていた皿は片づけられ、卓の上には母が残したらしいパンが一切れ置いてあった。


「これがメイの家?」

「そうよ」

「小さいね」

「川に住んでるやつに言われたくない」

「川は大きいよ」

「でしょうね。家よりはね」


 メイは杖を壁際へ立て掛け、桶を床に置いた。


 水面から、メルクの顔がぬっと出てくる。


「ルーシーはどこ?」

「二階」

「二階って?」

「上」

「上?」


 メルクが天井を見上げる。


「川には二階ないもん」

「知ってるわよ」

「面白いね、人間の巣」

「家って言いなさい」

「家」


 メルクは、覚えたばかりの言葉を嬉しそうに繰り返した。


 その声が、少し大きくなる。


「静かに!」

「メイ」


 階段の上から声がした。


 メイは飛び上がりそうになった。


「母さん」


 エレンが階段の途中に立っていた。肩から毛布を掛け、眠そうな顔でこちらを見ている。


「今までどこにいたの?」

「洗濯」

「こんな時間まで?」

「追加があったの」

「だからって――」


 エレンの目が桶へ落ちた。


 メイも反射的に桶を見る。


 水面から顔を出していたメルクが、にこにこと手を振った。


「こんばんは」


 メイの顔が引きつった。


 エレンは黙っている。


「……母さん?」

「何」

「何か見える?」

「何が?」


 メイは桶を指差した。


「これ」

「水」

「それだけ?」

「水桶に、水以外の何が入ってるの?」


 メイはメルクを見る。


 メルクもメイを見る。


「見えてないみたい」

「聞こえてもない?」

「たぶん」


 エレンが眉をひそめた。


「誰と喋ってるの?」

「……自分」

「自分と?」

「うん」

「疲れてるなら寝なさい」

「そうする」

「洗濯は?」

「明日の朝やる」

「そうしな」


 エレンはそれだけ言うと、階段を上がっていった。


 足音が消えるのを待って、メイは桶の中を睨んだ。


「先に言いなさいよ!」

「何を?」

「他の人には見えないって!」

「聞かれなかったから」

「普通は言うの!」

「普通って何?」

「……もういい」


 メイは頭を抱えた。


 これから毎日、こんな調子なのだろうか。


 契約したことを、ほんの少しだけ後悔した。


「ルーシーのところへ行こう」


 メルクが言った。


 その声だけは、さっきまでと違っていた。


 ふざけていない。


 メイは頷いた。


 桶を持ち上げる。


 そして壁際の杖も、何となく手に取った。


     *


 ルーシーは眠っていた。


 いや、眠っているというより、熱に沈んでいるように見えた。


 頬は赤く、額には髪が張りついている。布団から出た小さな手は力なく開き、呼吸のたびに胸が浅く上下していた。


 ベッド脇の椅子では、父が眠っている。


 腕を組み、壁にもたれたままだった。


 メイは杖を扉の脇へ立て掛け、音を立てないように桶を床へ置いた。


「ルーシー」


 返事はない。


 メイは妹の額に手を当てた。


 熱い。


 昼間より、さらに熱くなっているような気がした。


「メルク」

「うん」


 桶の水が静かに揺れた。


 メルクが姿を現す。


 今度は笑っていなかった。


 ベッドの横まで来ると、ルーシーの顔を覗き込む。


「これが熱?」

「そう」

「痛いの?」

「たぶん」

「熱いだけなのに?」

「熱いのも苦しいの」


 メルクは不思議そうにルーシーを見る。


「身体の中に水がある」

「人間だからね」

「いっぱいあるよ」

「そうなの?」

「うん。思ったよりずっと」

「数えたの?」

「数えなくても分かるよ」

「便利ね」

「メイも水がいっぱいある」

「今はそこ、どうでもいいの」


 メルクがルーシーの額へ手を伸ばす。


 メイは思わず、その腕を掴もうとした。


「待って」

「どうして?」

「本当に大丈夫なの?」

「約束したよ」

「でも……」


 言葉が続かない。


 自分から連れてきたくせに、いざ触れさせるとなると怖かった。


 メルクがもし嘘をついていたら。


 もし、人間の身体のことを何も知らずに、もっと悪くしてしまったら。


「メイ」


 メルクが言った。


「信じてない?」


 メイは答えられなかった。


「……分からない」

「分からない?」

「あなたが何なのかも、本当にルーシーを助けられるのかも分からない」

「じゃあ、やめる?」


 メイは妹を見た。


 荒い呼吸。


 赤い頬。


 ベル医師の言葉。


 治る子もいる。


 治らない子もいる。


 メイは目を閉じた。


「やって」


 メルクが首を傾げる。


「分からないのに?」

「分からないからって、何もしないわけにはいかないの」


 口にしてから、どこかで同じことを言った気がした。


 何もしなかったことは、あとで長く残る。


 ベル医師の言葉だった。


「人間って大変だね」


 メルクが小さく言った。


「そうみたい」


 メイは妹の手を握った。


「お願い」


 メルクは頷いた。


 水でできた小さな掌を、ルーシーの額へ置いた。


     *


 青い光が灯った。


 ほんの小さな光だった。


 けれど、それはすぐに額から頬へ、首へ、胸へと細い線になって広がっていく。


 ルーシーの身体の中を、青い川が流れているようだった。


「メルク?」

「静かに」


 初めて、メルクにそう言われた。


 メイは黙った。


 部屋の空気が冷えていく。


 窓ガラスが白く曇った。


 水差しの表面に細かな水滴が浮かび、床板の隙間から薄い霧が這い出す。


 そして。


 ルーシーの身体から、赤い光がゆっくり浮かび上がった。


 熱。


 そう思った。


 炎ではない。


 煙でもない。


 ただ、夏の日差しを閉じ込めたような揺らぎが、胸から喉へ上がってくる。


 メルクはそれを両手で包んだ。


「熱い」

「大丈夫?」

「うん」


 メルクの腕が震えている。


 それでも離さない。


 赤い揺らぎは、少しずつ青い身体の中へ吸い込まれていった。


 メルクの透明な頬に、赤みが差した。


「メルク」

「水はね」


 苦しそうなのに、メルクは笑った。


「熱を運ぶんだよ」


 最後の赤い光が消えた。


 部屋が静かになった。


 青い光も消える。


 メルクはふらりと後ろへ倒れ、そのまま床に水となって崩れた。


「メルク!」


 メイは声を上げかけて、慌てて口を押さえた。


 床に広がった水が、しばらくして小さく盛り上がる。


 メルクの顔だけが出てきた。


「疲れた」

「死んだかと思ったじゃない!」

「水は死なないよ」

「知らないわよ! 水が死ぬかどうかなんて!」

「死なないなら、安心だね」

「そういう問題じゃないの!」


 その時。


「……メイ姉ちゃん」


 小さな声がした。


 メイは振り返った。


 ルーシーが目を開けている。


「ルーシー?」

「喉、乾いた」

「そこから?」

「だって乾いたんだもん」


 メイは妹の額へ手を当てた。


 息が止まった。


 まだ温かい。


 けれど、さっきまでの、手を引っ込めたくなるような熱さではなかった。


「ルーシー」

「なに?」

「私が誰か分かる?」

「メイ姉ちゃん」

「何歳?」

「九歳」

「父さんの髪、何色?」

「変な色」


 横の椅子で、パトリックが目を覚ました。


「誰の髪が変だ」

「父さん」

「起きて早々、それか」

「だって変だもん」

「元気そうだな」


 そう言いながら、父は娘の額へ手を置いた。


 表情が変わった。


「エレン」


 すぐに立ち上がる。


「エレン!」


「父さん、うるさい」

「すまん」


 謝りながらも、父の顔は笑っていた。


 階段を駆け上がってくる足音がした。


 母が入ってきた。


 その後ろから、トーマスも顔を出す。


「どうした?」

「熱が」


 父が言う。


「下がってる」


 母がルーシーの額へ手を当てる。


 次に首。


 頬。


「本当だ……」


 エレンの声が震えた。


「母さん?」


 ルーシーが言った。


「お腹空いた」


 母は口元を押さえた。


 泣いた。


 トーマスが笑った。


「それなら大丈夫だ」

「何か食べたい」

「何がいい?」

「パン」

「他には?」

「スープ」

「他には?」

「金」

「それは食べ物じゃない」

「でも欲しい」

「欲張りだな」

「病人だから」

「病人は金を食べない」

「食べられるなら食べたい」


 ルーシーが笑った。


 家族も笑った。


 メイも笑った。


 笑いながら、床を見る。


 メルクが水溜まりの中から顔だけ出していた。


「人間、変だね」


 小さな声で言う。


「何が?」

「さっきまで怖い顔してたのに、今はみんな笑ってる」

「嬉しいからよ」

「嬉しいって?」


 メイは少し考えた。


 ルーシーを見る。


 笑っている。


 母が泣いている。


 父は何度も妹の額を触っている。


 トーマスはパンを取りに階段を下りていった。


「……こういうの」


 メイは言った。


「これが嬉しい?」

「たぶん」

「分からないのに?」

「分からなくても、嬉しいことはあるの」


 メルクはしばらく家族を見ていた。


「人間って、やっぱり変」

「悪かったわね」

「でも」


 メルクが笑った。


「ちょっと好き」


     *


 翌朝、ベル医師はいつもの時間にやって来た。


 ルーシーの脈を取り、胸の音を聞き、腹を押す。


 何度か首を傾げた。


「先生?」


 メイが聞く。


「どうなの?」


 ベルは答えず、もう一度ルーシーの額へ手を置いた。


「熱は下がっている」

「治った?」


 ルーシーが聞いた。


「まだだ」

「えー」

「残念だったな」


 ベルは、いつもの無愛想な顔で言った。


「先生、治ったら何かくれる?」

「薬ならやる」

「甘いものは?」

「薬より高い」

「先生なのに?」

「医者だからだ」

「関係ある?」

「ない」


 ベルは咳払いをした。


「熱が下がったことと、病気が治ったことは同じじゃない。今日は寝ていろ。水を飲め。食べられるなら食べろ」

「明日は?」

「明日になったら考える」

「明後日は?」

「明日聞け」

「先生は明日になったら忘れる?」

「忘れない」

「じゃあ、明後日のことも教えて」

「明日聞け」


 ルーシーは頬を膨らませた。


「先生、同じことしか言わない」

「覚えやすくていいだろう」


 ベルは立ち上がった。


「ただ」


 家族が彼を見る。


「昨日より、ずっといい」


 それだけだった。


 母が小さく息を吐いた。


 父は窓の方を向いた。


 トーマスは笑った。


 メイは床を見る。


 水差しの中から、青い目がこちらを見ている。


「メイ」


 メルクが小声で言った。


「人間は、嬉しいと笑うんだね」

「だいたいね」

「じゃあ、悲しいと?」


 メイは少しだけ考えた。


「泣く」

「どうして?」

「またそれ?」

「教えてくれるんでしょ?」


 メイはため息をついた。


「今度は長くなるわよ」


 水差しの中で、メルクが楽しそうに笑っている。


「うん!」


 その返事だけは、やけに嬉しそうだった。


     *


 ルーシーの熱が下がってから、メルクはますます人間に興味を持つようになった。


 問題は、その興味の向け方だった。


「ねえ、メイ」

「何」

「あの人、マーサ嫌いなの?」

「誰?」


 メイは洗濯板を動かしながら顔を上げた。


 少し離れたところで、マーサが男から洗濯物の束を受け取っている。河岸で働いている男だった。汚れた帽子を被り、朝から酒の匂いをさせている。


「マーサ、この前あの人のこと『ろくでなし』って言ってた」

「よく覚えてるわね」

「嫌いなの?」

「たぶんね」

「なのに服洗うの?」

「仕事だから」

「またそれ」


 メルクは桶の中で頬を膨らませた。


 もちろん、マーサには見えていない。


「嫌いなら洗わなきゃいいのに」

「お金払ってくれるなら洗うの」

「お金って、嫌いより強いの?」

「時と場合による」

「じゃあ、お金がいっぱいあったら、好きになる?」

「ならない」

「変なの」


 メイはシャツを絞った。


「人間を知りたいんでしょう?」

「うん」

「だったら、そのうち慣れるわよ」

「何に?」

「変なのに」


 その時、例の男がマーサへ硬貨を差し出した。


 マーサは数え、眉をひそめる。


「足りないよ」

「次で払う」

「前も聞いた」

「今週きついんだ」

「こっちもだよ」


 男が困ったように帽子を取った。


「女房がまた腹壊しててよ。医者代が――」

「知らないよ」


 マーサは硬貨を取り上げた。


「残りは次だ」

「いいのか?」

「次は倍取る」

「助かる」

「さっさと行きな」


 男が去る。


 メルクがメイを見た。


「足りなかったよ」

「そうね」

「マーサ、お金が大事なんでしょ?」

「そうね」

「なのに洗うの?」

「そうね」

「嫌いなのに?」

「たぶんね」


 メルクはしばらく考えた。


「分からない」

「私も」


「何をぶつぶつ言ってんだい」


 マーサが振り返った。


「何でもない」

「手が止まってるよ」

「はいはい」


 メイが洗濯板へ向き直る。


 桶の中からメルクが囁いた。


「マーサ、優しいの?」

「それ本人に言ってみなさい」

「どうなる?」

「たぶん殺される」

「優しくないね」

「だから人間は面倒なの」


     *


 ベル医師のところでは、もっと分からないことが起きた。


 薬を受け取りに行った時だった。


 診療所の前に、一人の老婆が座っていた。痩せた身体を丸め、古い布で包んだ左手を抱えている。


 ベルはその手を診ていた。


「いつからだ」

「三日前」

「何で三日前に来なかった」

「金がなくて」


 ベルが布を外す。


 メイは思わず目を逸らした。


 手の甲が大きく腫れ、赤黒く変色している。


「ひどいな」

「切らなきゃ駄目かい?」

「今ならまだ分からん」


 ベルは消毒の準備を始めた。


「先生、お金は……」


 老婆が恐る恐る聞く。


「持ってるのか」

「少しだけ」

「なら帰りにパンでも買え」

「でも」

「邪魔だ。黙って手を出せ」


 老婆は泣きそうな顔で手を差し出した。


 診療所を出た後、道端の水溜まりからメルクが顔を出した。


「ベルはお金が欲しいんじゃないの?」

「欲しいでしょうね」

「なのに取らなかった」

「そうね」

「薬は高いって言ってた」

「言ってたね」

「ベルがお金ない人から取らなかったら、ベルがお金なくなるよ」

「たぶんね」

「じゃあ、どうして?」


 メイは歩きながら考えた。


「医者だからじゃない?」

「仕事だから?」

「それだけじゃないと思う」

「じゃあ何?」


 答えられなかった。


 少し先を歩いていたベルが、急に振り返った。


「ホロウェイ」

「はい?」

「薬を忘れてる」


 メイは自分の手を見る。


 本当に何も持っていない。


「あ」

「何をしに来たんだ」


 ベルが呆れた顔で小瓶を差し出した。


「すみません」

「妹よりお前の頭を診た方がいいかもしれんな」


 メイが睨む。


 足元の水溜まりで、メルクは大笑いしていた。


「ベル、嫌な人だね」

「でしょう?」

「でも、いい人?」

「……たぶん」

「どっち?」

「両方でいいのよ」


 メルクが笑うのをやめた。


「両方?」

「嫌な人だからって、悪い人とは限らないでしょ」


 メルクの顔が真剣になる。


 どうやら、新しい難問が一つ増えたらしい。


     *


 アビーは、もっと理解できないらしかった。


「これと、これ。どっちがいいと思う?」


 アビーは二枚の布をメイの前に広げた。


「同じじゃない」

「違うよ!」

「どこが?」

「こっちは青。こっちは少し薄い青」

「青でいいじゃない」

「メイは駄目だ」


 アビーが頭を抱える。


「何に使うの?」

「ドレス」

「また?」

「またじゃない。今度は日曜日用」

「この前作ってたでしょ」

「あれは春用」

「今も春じゃない」

「もうすぐ夏でしょ」


 メイは呆れた。


 テーブルの上に置かれた水差しから、メルクが興味津々で布を覗き込んでいる。


「どっちも水みたい」


 当然、アビーには聞こえない。


「アビーは何で服が欲しいの?」


 メルクが聞いた。


 メイは小声で答える。


「可愛くなりたいんじゃない?」

「何で?」

「知らない」

「また?」

「本人に聞けばいいでしょ」


「アビー」


 メイが言った。


「何でそんなに可愛い服が欲しいの?」


 アビーが目を丸くした。


「何、急に」

「いいから」

「可愛いから」

「だから、何で可愛くなりたいの?」

「……可愛い方が嬉しいじゃない」


 メイはメルクを見る。


 メルクも首を傾げている。


「何で嬉しいの?」

「メイ、今日どうしたの?」

「ちょっと人間について調べてる」

「怖いんだけど」


 アビーは少し考えた。


「好きな人に可愛いと思われたら、嬉しいし」

「好きな人いるの?」

「そこ食いつく?」


 アビーの顔が赤くなった。


 メイはにやりとする。


「いるんだ」

「いない!」

「今、いる顔した」

「いないってば!」


 水差しの中でメルクが目を輝かせた。


「嘘ついた!」


「楽しそうね、あんた」


 メイが呟く。


「人間、面白い」


 アビーは怪訝そうにメイを見た。


「さっきから誰と話してるの?」

「自分」

「最近多くない?」

「疲れてるのよ」


 メルクが笑った。


「人間って、好きな人の話すると赤くなるんだね」

「覚えなくていい」

「メイもなる?」

「ならない」

「嘘?」

「ならない!」


 今度はメイの顔が赤くなった。


     *


 一番メルクが気に入ったのは、サイラスだった。


 理由は単純だった。


「面白いから」


 らしい。


「坊主! そこじゃねえ! 頭使え!」


 河岸でサイラスが怒鳴っている。


「使ってるよ!」


 トーマスが樽を転がしながら言い返す。


「使ってそれなら、なお悪い!」


「サイラス、怒ってる」


 メイの足元、岸辺の水からメルクが小声で言った。


「いつもよ」

「トーマスのこと嫌い?」

「たぶん気に入ってる」

「怒ってるのに?」

「そう」

「また両方?」

「そう」


 メルクは難しい顔をした。


 その時だった。


 荷車の片輪が泥に沈んだ。


 積んであった木箱が傾く。


「危ねえ!」


 サイラスが叫んだ。


 一人の若い作業員が、荷車と壁の間にいた。


 サイラスは迷わなかった。


 男へ体当たりする。


 二人が泥の中へ転がった直後、木箱が落ちた。


 轟音。


 木が砕ける。


「サイラス!」


 トーマスたちが駆け寄る。


「うるせえ、耳元で叫ぶな!」


 サイラスは泥だらけで起き上がった。


 腕から血が流れている。


「親方、大丈夫か?」

「見りゃ分かるだろ。死んでねえ」


 助けられた青年は青ざめていた。


「す、すみません」

「謝る暇あったら荷物拾え」

「でも腕が」

「俺の腕だ。お前には関係ねえ」


 サイラスはそう言って、青年の頭を一発叩いた。


「次は周り見ろ。馬鹿」


 メルクが黙っていた。


 珍しいことだった。


「どうしたの?」


 メイが聞く。


「あの人、怪我した」

「そうね」

「避けられたのに」

「そうね」

「知らない人を助けた」

「一緒に働いてる人でしょ」

「家族じゃない」


 メイは答えなかった。


「ルーシーじゃないのに」


 メルクは、血の流れるサイラスの腕を見ていた。


「どうして?」

「分からない」

「また?」

「だから言ったでしょう。人間は面倒なの」


 メルクは少し考えてから言った。


「でも、メルクなら助けるかも」


 メイが振り返る。


「どうして?」

「……分からない」


 今度はメイが笑った。


「人間みたいね」

「え?」

「何でもない」


     *


 その日の帰り道。


 トーマスがメイの隣を歩いていた。


 手には包帯が巻かれている。


「兄さんも怪我したの?」

「ちょっと擦っただけ」


 メイが包帯を引っ張る。


「痛っ!」

「嘘。けっこう怪我してるじゃない」

「大げさだって」

「サイラスもそう言ってた」

「あの親父と一緒にするな」


 道端の水溜まりから、メルクが細い水の身体を伸ばした。


「似てるよ」

「私もそう思う」

「何が?」


 トーマスが聞く。


「独り言」

「最近多いな」

「流行ってるの」

「変なやつ」


 トーマスは笑った。


 少し歩いてから、メイが聞いた。


「兄さん」

「ん?」

「ルーシーにお金使ったこと、後悔してない?」


 トーマスの足が止まった。


「何で?」

「別に」

「急だな」

「いいから」


 トーマスは少し考えた。


 それから歩き出す。


「してないよ」

「本当に?」

「ああ」

「三年分だったんでしょ」

「そうだな」

「西へ行くの、遅くなったじゃない」

「遅くなっただけだ」


 トーマスは前を見た。


 西だった。


「行けなくなったわけじゃない」

「もし、また三年かかったら?」

「三年貯める」

「六年になったら?」

「六年」

「十年?」

「しつこいな」


 トーマスが笑う。


「ルーシーが生きてるだろ」


 それだけだった。


 メイは何も言えなかった。


「金はまた稼げる。西も逃げない。でも、あいつは違った」

「……うん」

「だから、これでいい」


 トーマスは迷わず言った。


「俺は、これでよかった」


 道端の水の中で、メルクがじっと兄を見ていた。


 しばらくして、小さな声で聞く。


「メイ」

「何?」

「トーマスは、なくしたのに嬉しいの?」


 メイは兄の背中を見た。


「そうみたい」

「どうして?」

「ルーシーが生きてるから」

「自分の欲しいものより?」

「うん」

「人間は、みんなそうなの?」


 メイは答えようとして、やめた。


 マーサを思い出す。


 ベル先生を思い出す。


 サイラスを思い出す。


 アビーを思い出す。


 同じ人間なのに、みんな違う。


「分からない」


 メイは言った。


「でも、兄さんはそうなの」


 メルクはしばらく黙った。


 やがて、ぽつりと言った。


「トーマス、好き」


 メイは吹き出した。


「見る目あるじゃない」

「メイも好き?」

「兄さんだからね」

「それ、答えになってないよ」


 メイは足を止めた。


「……覚えたわね」

「うん!」


 メルクが嬉しそうに笑った。


 少し前を歩いていたトーマスが振り返る。


「何してんだ。置いてくぞ」

「今行く!」


 メイは走り出した。


 道端を流れる細い水の筋を、メルクが跳ねるようについていく。


 トーマスには見えない。


 声も聞こえない。


 それでもメルクは、その背中に向かって何度も名前を呼んでいた。


「トーマス」


 覚えたばかりの、大切な言葉のように。


「トーマス」


     *


 それから三日後。


 ルーシーは、ようやくベッドを出た。


「駄目」


 メイは即座に言った。


「まだ何もしてないよ」

「立った」

「立つくらいいいでしょ」

「昨日まで寝てた人が言う台詞じゃない」

「もう元気だもん」


 ルーシーは両腕を広げ、その場で一回転した。


 途中でふらついた。


「ほら!」


 メイが慌てて支える。


「今のは床が動いた」

「床は動かない」

「船みたいに」

「ここ家だから」


 窓辺では、ベル医師が腕を組んでいた。


「五分だ」


 ルーシーが振り返る。


「何が?」

「起きていていい時間」

「短い!」

「なら三分にする」

「増やしてよ!」

「交渉の仕方を覚えろ」


 ベルは無表情のまま言った。


 メイは笑いを堪えた。


「先生、本当にもう大丈夫なの?」

「大丈夫とは言ってない」

「またそれ」

「だが、山は越えただろう」


 ベルはルーシーの顔を見る。


「熱は戻っていない。食欲もある。腹の痛みも減った」


「じゃあ治った?」


 ルーシーが聞く。


「人の話を聞け」

「山を越えたんでしょ?」

「山を越えたら、次は下りだ」

「楽じゃない」

「転ぶ」

「先生って嫌なことしか言わないね」

「長生きするには便利だ」


 そう言って、ベルは革鞄を閉じた。


 メイのそばの水差しから、メルクが顔を出す。


「山ってどこ?」

「今は黙ってて」

「ルーシー、山にいたの?」

「いない」

「でも越えたって」

「あとで説明する」

「人間、すぐ変な言い方するね」


 メイは水差しに蓋をした。


「暗い」

「我慢して」


 ベルが怪訝そうにこちらを見る。


「何をしてる」

「水がうるさくて」

「……お前も診た方がいいな」


     *


 その日の午後、メイはマーサのところへ行った。


「今日で終わり」


 マーサは、洗濯物を畳みながら言った。


「何が?」

「お前の夜働き」

「まだ稼げるよ」

「妹は?」

「だいぶ良くなった」

「なら帰りな」

「でも薬代が」

「足りたんだろ」

「少し残ってる」

「親が払う」

「私も家族なんだけど」


 マーサは手を止めた。


「だから帰れって言ってんだよ」

「意味分からない」

「顔」

「また顔?」

「酷い」


 メイは近くにあった桶を覗き込んだ。


 水面には自分の顔が映っている。


 目の下が黒い。


 頬が少し痩せている。


「こんなだった?」

「最初から美人じゃないよ」

「そこ聞いてない!」


 マーサは笑った。


「寝な。飯食いな。妹と喧嘩しな。働くのはそのあとだ」


「マーサって、たまに優しいよね」


 マーサの手が止まった。


「もう一回言ってみな」

「何でもない」


 桶の中でメルクが笑っていた。


「本当に殺されそう」

「でしょう?」

「でも優しい」

「聞こえるように言わないで」


 メイは濡れたシャツを絞った。


 力が入らなかった。


 そこで初めて、自分が思っていた以上に疲れていたことに気づいた。


     *


 宿へ戻ると、裏庭から笑い声が聞こえた。


 ルーシーだった。


 椅子に座り、毛布を肩に掛けたまま、桶へ指を突っ込んでいる。


「何してるの?」

「見て」


 ルーシーが水面を指でつつく。


 波紋が広がった。


 少し待つ。


 今度は、水面の方から波紋が返ってきた。


「……」


 メイは足を止めた。


 もう一度。


 ルーシーが一回つつく。


 水面から、一回返ってくる。


 二回。


 二回。


 三回。


 三回。


「すごいでしょ!」


 ルーシーが目を輝かせた。


「この水、生きてる!」


 桶の中から、メルクが得意そうに胸を張っている。


「やめなさい」

「何で?」

「何でって」

「水の妖精かもしれない」


 メイはメルクを見る。


 メルクは嬉しそうに両手を上げた。


「当たり!」

「違う」


 メイは即答した。


「ただの水」


 メルクの顔が歪む。


「ひどい!」

「でも返事するよ?」

「風よ」

「風ないよ」

「魚」

「桶に?」

「小さい魚」


 ルーシーは疑わしそうに水を覗いた。


「メイ姉ちゃん、嘘ついてる?」

「ついてない」


 水面が二回揺れた。


 ルーシーが目を丸くする。


「今の、嘘って意味じゃない?」

「違う!」


 メルクが桶の中で大笑いしている。


「人間って、泣いてても嘘つくし、普通の時も嘘つくんだね!」

「黙って!」

「誰に?」


 ルーシーが聞く。


「水に!」


 言ってから、メイは頭を抱えた。


 ルーシーはしばらく黙っていた。


 そして、にやりと笑った。


「やっぱりいるんだ」


     *


 その晩。


 久しぶりに、家族全員で食卓を囲んだ。


 ルーシーはまだ椅子に毛布を掛けてもらっている。けれど、自分でスプーンを持ち、母のスープを二杯も食べた。


「三杯目」

「駄目」


 母が即答する。


「なんで!」

「腹壊す」

「病気の時は食べろって言ったじゃない」

「限度がある」

「大人はすぐ言うこと変える」


 トーマスが笑った。


「それが大人だ」

「兄さんも?」

「俺はまだ若い」

「でも頭悪い」

「誰から聞いた」

「メイ姉ちゃん」

「言ってない!」


 食卓に笑いが起きた。


 メイも笑った。


 隣の水差しでは、メルクが食卓をじっと見ている。


「人間って、食べる時によく喋るね」

「黙って食べるとつまらないから」

「食べるのに、楽しいがいるの?」

「いる時もある」

「水は飲む時、喋らないよ」

「水が喋ったら怖いでしょ」

「メルク喋るよ」

「だからあなたは例外なの」


 ルーシーが水差しを見る。


「また水と喋ってる」

「喋ってない!」

「今、喋った」

「独り言!」

「最近多いね」


 家族全員がメイを見る。


「何よ!」


 また笑いが起きた。


 少しして、ルーシーがパンを齧りながらトーマスへ聞いた。


「兄さん、西に行くんでしょ?」

「ああ」

「いつ?」

「金が貯まったら」

「また最初から?」

「まあな」

「大変だね」

「誰のせいだと思ってる」


 母がトーマスの頭を叩いた。


「冗談だって!」


 ルーシーは少し考えた。


「じゃあ、金の石は遅くなる?」

「覚えてたのか」

「忘れないよ」

「仕方ねえな。見つけたら持って帰ってやる」

「大きいやつね」

「俺が持てるくらいにしろ」

「馬くらい」

「無理だ」

「じゃあ犬」

「金の犬を探す話になってるぞ」


 また笑った。


 メイは兄を見た。


 数日前まで、西の話を聞くたびに腹が立っていた。


 家を出ていく。


 自分たちを置いていく。


 そんなふうに思っていた。


 でも今は、少し違った。


「今度は」


 メイが言った。


 トーマスがこちらを見る。


「ちゃんと行けるといいね」


 一瞬、食卓が静かになった。


 トーマスが眉を上げる。


「何だよ、急に」

「別に」

「お前、俺が行くの嫌なんじゃなかったのか?」

「嫌とは言ってない」

「勝手だって言った」

「勝手なのは今もそう」

「じゃあ何だよ」


 メイは少し考えた。


「……行きたいなら、行けばいいじゃない」


 トーマスはしばらく妹の顔を見ていた。


「気持ち悪いな」

「取り消すよ」

「待て待て」


 トーマスが笑う。


「ありがとな」

「何が」

「別に」

「何よ、それ」

「お前の真似」


 メイはパンを投げた。


 トーマスが受け取る。


 その横で、メルクが二人を交互に見ていた。


     *


 夜。


 食堂の客が全員部屋へ上がったあと、トーマスは一枚の地図を卓の上に広げた。


「見せて」


 ルーシーが椅子によじ登る。


「寝る時間だろ」

「病人だから特別」

「便利だな、それ」


 メイも向かいに座った。


「これ、前に客が置いてったやつ?」

「違う。俺の」

「持ってたの?」

「ずっとな」


 紙は何度も開かれた跡で柔らかくなっていた。端は擦れ、折り目のところは白くなっている。


 トーマスの指が、西へ滑っていく。


「ここがセントルイス」

「うん」

「こっから、ずっと西へ行く」


 ルーシーが指で追いかける。


「どこまで?」

「できれば海まで」

「海?」

「反対側の海だ」

「そんな遠いの?」

「遠い」

「何日?」

「分からん」

「何ヶ月?」

「それも分からん」

「着かなかったら?」

「その時考える」


 卓上の水差しからメルクが身を乗り出した。


「西って何があるの?」


 メイが小声で答える。


「兄さんが見たいもの」

「何?」

「知らない」

「トーマスも知らないの?」

「たぶん」


 メルクが不思議そうにトーマスを見る。


「知らないのに行くの?」

「それが夢なんじゃない?」


 メイは言った。


「夢?」

「まだ見たことないものを、見たいって思うこと」

「それが夢?」

「たぶんね」


 メルクは地図を見下ろした。


 トーマスの指が、まだ見たことのない場所をなぞっている。


 山。


 平原。


 川。


 知らない町。


 知らない人。


「メイも行く?」


 メルクが聞いた。


「私は行かない」

「どうして?」

「ここにいるから」

「でも、見たい?」


 メイは答えなかった。


 トーマスがちょうど地図の一点を指差した。


「まずはここだ」


 ルーシーが身を乗り出す。


「何があるの?」

「さあな」

「何もないかもよ」

「それでもいい」

「何もないのに?」

「何もないって分かるだろ」


 メイは兄を見た。


 メルクも見ていた。


 しばらくして、メルクが水差しから細い指を伸ばし、地図の一点を指した。


 トーマスの指の、すぐ隣。


「メルクも行く」


 メイは思わず笑った。


「あなた、川でしょう?」

「水はどこにでも行けるよ」

「そうだったわね」

「メイも一緒」

「私は行かないって」

「でもメルク、メイと一緒じゃないと行けない」

「契約したから?」

「ううん」


 メルクは首を振った。


「一緒に行きたいから」


 メイは少しだけ黙った。


 地図の向こうでは、トーマスがルーシーに西の話をしている。


 まだ見たことのない土地の話を。


 まだ起きていない未来の話を。


 メイはその声を聞きながら、地図の上に指を置いた。


 トーマスと、メルクの指の近くに。


「……いつかね」

「本当?」

「いつか」


 メルクが笑った。


 その夜、卓の上には三本の指が並んでいた。


 一つは、西へ行くことを夢見る兄のもの。


 一つは、人間を知り始めた水の精霊のもの。


 そしてもう一つは、ずっと見送る側だと思っていた少女のものだった。


     *


 ルーシーが庭を走り回るようになるまで、そう時間はかからなかった。


「走るな!」


 メイが怒鳴る。


「もう治ったもん!」

「ベル先生は走っていいなんて言ってない!」

「走るなとも言ってない!」

「屁理屈!」


 ルーシーは笑いながら逃げた。


 少し前まで、ベッドの上で息をするだけでも苦しそうだったのが嘘のようだった。


 母はまだ心配して、厚着をさせようとした。


 父は何度も額へ手を当てた。


 トーマスは「病人だから」と甘やかしていた分を取り返すように、さっそく馬小屋の掃除を手伝わせた。


「病み上がりなんだけど!」

「元気なら働け」

「兄さん冷たい!」

「生きてる証拠だ」


 それを聞いたルーシーは、一瞬だけ黙った。


 けれどすぐに箒を持ち直した。


「じゃあいっぱい働く」

「ほどほどにな」

「どっち?」


 トーマスが笑った。


 メイも笑った。


 水桶の中では、メルクがそのやり取りを眺めていた。


「ルーシー、もう死なない?」

「人間はいつか死ぬわよ」

「今じゃなくて」

「今は大丈夫」

「よかった」


 メルクはそう言って、桶の中へ沈んだ。


 最近のメルクは、以前より少しだけ静かになった。


 もちろん、本当に少しだけだった。


     *


 メイも、元の暮らしへ戻っていった。


 朝は宿。


 昼はマーサのところ。


 夜は宿。


 ただし、日が沈んだ後まで洗濯を続けることはなくなった。


「今日は終わり」


 マーサが言う。


「あとこれだけ」

「明日」

「でも」

「明日もある」


 メイは手を止めた。


 以前なら、そこで無理をしていた。


 あと一枚。


 あと五枚。


 あと少し。


 そう言いながら、身体が動かなくなるまで働いていた。


 けれど今は、


「分かった」


 と言えるようになった。


 マーサが少しだけ眉を上げた。


「賢くなったね」

「元から賢い」

「そういうところは変わらないね」


 メルクが桶の中で笑った。


「マーサも嬉しそう」

「聞こえたら殺されるわよ」

「聞こえないもん」

「だからって言っていいわけじゃないの」

「難しいね、人間」

「最近それ気に入ってるでしょう」

「うん」


     *


 トーマスは、また河岸で働いていた。


 今度はルーシーの薬代ではない。


 自分のためだった。


 朝早く出て、夕方まで荷を運ぶ。


 帰ると必ず革袋へ硬貨を入れた。


 ちゃり。


 ちゃり。


 以前と同じ音だった。


 けれど、メイには少し違って聞こえた。


「また貯めてるの?」


 ある晩、メイが聞く。


「当たり前だろ」


 トーマスは袋を振った。


「西は逃げないんじゃなかったの?」

「逃げないけど、俺が老ける」

「二十二で何言ってるの」

「三十になったら?」

「まだ若いでしょ」

「四十」

「父さんに聞かせてあげようか?」

「やめろ」


 少し離れたところで、パトリックが帳簿から顔を上げた。


「全部聞こえてるぞ」


 トーマスは黙った。


 メイは笑った。


     *


「前と同じだね」


 翌日、河岸を歩きながらメルクが言った。


「何が?」

「トーマス」


 少し先で、トーマスが木箱を運んでいる。


「前も働いてた。今も働いてる」

「そうね」

「でも違うの?」

「何が?」

「前はルーシーのため。今は西へ行くため」


 メイは歩きながら考えた。


「違うんじゃない?」

「仕事は同じなのに?」

「誰のためにやるかが違うから」

「自分のためでもいいの?」

「何が?」

「頑張るの」


 メルクは真剣な顔をしていた。


「誰かを助けるためじゃなくても?」


 メイは少し驚いた。


 ルーシーを助けるために働いていた時、トーマスは迷わなかった。


 そして今も、迷っていない。


 ただ、向いている先が違う。


「いいんじゃない?」

「どうして?」

「自分だって人間だから」


 メルクが目を瞬いた。


「自分も大切?」

「そりゃそうでしょう」

「じゃあ、ルーシーと自分、どっちが大切?」

「そういう聞き方やめて」

「何で?」

「困るから」

「答えがない?」

「たぶんね」


 メルクは嬉しそうに笑った。


「また分からない」

「何が嬉しいのよ」

「人間っぽいから」


     *


 少しずつ、トーマスの荷物が増えていった。


 新しいものではない。


 使い込んだ革靴。


 小さな水筒。


 古い毛布。


 火打石。


 針と糸。


 そして、例の地図。


「本当に行くんだね」


 メイはベッドの上に並べられた荷物を見た。


「今さら?」

「まだ金足りないんでしょ」

「だから先に揃えられるもの揃えてんだ」


 トーマスは革靴の底を確認している。


「それ、途中で穴開くよ」

「縁起でもないこと言うな」

「本当のこと」

「じゃあ直してくれ」

「何で私が」

「宿屋の娘だろ」

「靴屋じゃない」


 言いながら、メイは靴を受け取った。


 底の縫い目が少し浮いている。


「針ある?」

「そこ」

「糸は?」

「黒」

「太いの」

「贅沢言うな」

「途中で壊れても知らないからね」

「助かる」


 トーマスは笑った。


 メイは靴底へ針を通した。


 硬い。


 二度、指を刺した。


 三度目で腹が立った。


「兄さん」

「ん?」

「旅って、何がいるの?」


 トーマスが顔を上げた。


「珍しいな」

「何が」

「お前が聞くの」

「別に」

「行きたくなった?」

「違う」


 即答した。


 その時、胸元に何かが触れた。


 アビーにもらった、小さな布袋だった。


 赤い糸で、不器用な星が縫ってある。


 旅に出る時に使うの。


 アビーの言葉を思い出した。


 メイは袋を指でつまんだ。


「……必要なものくらい、知っててもいいでしょう」


 トーマスは何も言わなかった。


 ただ少しだけ笑った。


「水」

「水?」

「一番大事だ」


 横の水差しから、メルクが胸を張る。


「メルク!」

「あなたは荷物に入らないでしょう」

「何で?」

「漏れるから」

「漏れないよ!」


 トーマスが怪訝そうに見る。


「また独り言か?」

「気にしないで」

「怖いな、お前」

「兄さんよりまし」


     *


 その数日後。


 サイラスが宿へやって来た。


「飯!」


 厨房から母の声が返る。


「金!」

「今日は持ってる!」

「先に見せな!」

「信用ねえな!」

「積み重ねだよ!」


 メイは笑いながらスープを運んだ。


「今日は払えるの?」

「見ろ」


 サイラスは得意げに硬貨を卓へ置いた。


「珍しい」

「失礼な娘だな」

「パンいる?」

「いる」

「金」

「今置いただろ!」


 そこへトーマスが入ってきた。


「サイラス」

「おう」


 サイラスはスープを一口飲んだ。


「ちょうどよかった」

「何?」

「明日の夜、船が一隻入る」


 トーマスが椅子を引いた。


「荷揚げ?」

「ああ。急ぎだ」

「どこの?」

「下流から来る蒸気船。朝までに全部降ろしたいらしい」


 サイラスはパンをちぎる。


「人手が足りねえ」

「何人?」

「十人は欲しい」

「俺やるよ」

「まだ何も言ってねえ」

「仕事なんだろ?」

「仕事だ」


 サイラスはトーマスを見る。


「ただし、いつもよりきつい」

「どれくらい?」

「夜通し」

「それだけ?」

「積み方も雑だ。船側が急いでる」

「金は?」


 サイラスが金額を言った。


 メイは思わずトーマスを見た。


 普段の一日分より、かなり多い。


 トーマスも少しだけ黙った。


「いいじゃん」

「だからだ」


 サイラスが言った。


「金のいい急ぎ仕事は、だいたいろくなことにならねえ」

「でもサイラスは行くんだろ」

「俺は仕事だからな」

「俺もだよ」

「お前は西へ行きたいだけだろ」

「それも仕事する理由になるだろ」


 サイラスは鼻を鳴らした。


「好きにしろ」

「じゃあ、やる」


「兄さん」


 メイが口を挟んだ。


「何」

「また無茶する気?」

「無茶じゃない」

「夜通しでしょう」

「前もやった」

「前も馬鹿だった」

「今回は金になる」

「そういう問題じゃない」


 トーマスは笑った。


「心配してんの?」

「してない」

「嘘つけ」

「してない!」


 水差しの中でメルクが笑う。


「人間、泣いてなくても嘘つくね」

「黙って」

「何?」


 トーマスが聞く。


「何でもない!」


 サイラスが呆れた顔で二人を見る。


「兄妹揃って面倒くせえな」

「誰のせいよ」

「俺じゃねえ」


 トーマスは立ち上がった。


「大丈夫だって」


 メイを見る。


「一晩だけだよ」


     *


 翌朝。


 トーマスは、いつもより少し早く家を出た。


「兄さん」


 玄関で靴紐を結んでいたトーマスが振り返る。


「何」


 ルーシーが毛布を肩に掛けたまま立っていた。


「金の石」

「まだ言ってんのか」

「忘れないでね」

「今日、西へ行くわけじゃないぞ」

「でも忘れるかもしれない」

「何年先の心配してんだよ」

「大事だから」


 トーマスは笑った。


「覚えてたらな」

「絶対」

「はいはい」


 ルーシーが頬を膨らませる。


 メイは厨房からパンを持ってきた。


「これ」

「何?」

「朝ごはん」

「珍しいな」

「母さんが持ってけって」

「お前じゃないのかよ」

「違う」

「一瞬感動したのに」

「勝手に感動しないで」


 トーマスはパンを上着の内側へ入れた。


「帰りにパン買ってきて」

「今渡しただろ」

「それは兄さんの」

「自分で買えよ」

「夜遅いんでしょ」

「だから?」

「店閉まる」

「じゃあ明日買え」

「兄さんのお金で買ってきて」

「俺、西へ行く金貯めてんだけど」

「パン一個で西が遠くなるの?」

「少しな」

「じゃあ、少し遠くなって」

「嫌だよ」


 メイは笑った。


「けち」

「現実的って言え」


 トーマスは扉を開けた。


 朝の冷たい空気が入ってくる。


「じゃあな」

「うん」

「寝る時、戸締まりしろよ」

「父さんいるから」

「お前に言ってんの」

「分かってる」


 トーマスが外へ出る。


 ルーシーが追いかけて、玄関から顔を出した。


「兄さん!」

「何だよ!」

「金の石!」

「分かったって!」


 トーマスは振り返らず、片手だけ上げた。


 そのまま泥道を歩いていく。


 メイは扉にもたれたまま、その背中を見ていた。


 足元の水桶から、メルクが言った。


「行っちゃった」

「仕事だからね」

「夜まで?」

「朝までかも」

「長いね」

「一晩だけよ」


 メイはそう言って、扉を閉めた。


     *


 昼過ぎ。


 メイはマーサのところで洗濯をしていた。


「ねえ」


 桶の縁からメルクが顔を出す。


「何」

「トーマス、今も働いてる?」

「たぶんね」

「自分のために?」

「そう」

「じゃあ、楽しい?」


 メイは洗濯板を動かす手を止めなかった。


「仕事が?」

「うん」

「楽しくはないんじゃない」

「でも自分のためなんでしょ?」

「自分のためなら何でも楽しいわけじゃないの」

「また変なの」

「はいはい」

「でも、西へ近づいてる?」


 メイは少し考えた。


「近づいてるんじゃない?」

「今日働いたら、昨日より?」

「たぶん」

「じゃあ明日はもっと近い?」

「そうね」


 メルクは満足そうに頷いた。


「じゃあ、いい日だね」


 メイは少しだけ笑った。


「そうかもね」


 風が吹いた。


 干したシーツが一斉に膨らむ。


 白い布の向こうに、蒸気船の煙突が見えた。


 何本もの黒い煙が、春の空へ流れている。


 メイは何となく、それを眺めた。


「兄さん、本当に行くかもね」

「西?」

「うん」

「メイ、寂しい?」


 手が止まった。


「別に」

「嘘?」

「違う」

「顔が違う」

「あなた最近、人の顔見るの上手くなってない?」

「人間を教えてもらってるから」

「余計なことまで覚えてるわね」


 メルクが笑った。


 メイも、もう一度洗濯板を動かした。


「寂しくても、行ってほしい時はあるのよ」

「どうして?」

「本人が行きたいなら」

「メイは行ってほしくない。でも、トーマスは行きたい」

「そう」

「どっちが正しい?」


 メイは手を止めた。


「どっちもじゃない?」

「両方?」

「たぶん」


 メルクは嬉しそうに笑った。


「また両方」

「気に入った?」

「うん」


     *


 日が暮れても、トーマスは帰らなかった。


 もちろん、最初から分かっていたことだった。


 夜通しの仕事だ。


 夕食の席に一人いないだけで、食卓が妙に広く見えた。


「兄さんの分、食べていい?」


 ルーシーが鍋を覗く。


「駄目」


 母が言った。


「帰ったら食べるんだから」

「朝でしょ?」

「朝でも腹は減る」

「冷めるよ」

「温めればいい」


 エレンはスープを別の鍋へ移した。


 蓋をして、竈の端へ置く。


「パンも残しときな」

「兄さん、帰りに買ってくるって」


 メイが言った。


「約束したの?」

「してない」

「なら残しな」

「買ってくるかもしれない」

「なら二つ食べればいい」


 父が言った。


「働いた男は二つくらい食う」

「父さんなら三つでしょ」


 ルーシーが言う。


「俺は働いてる」

「兄さんも働いてるよ」

「なら三つだな」


 メイは笑った。


 メルクは水差しの中から、食卓を眺めていた。


「トーマスの場所、空いてる」

「帰ってくるから」

「帰ったら埋まる?」

「そう」

「じゃあ待ってる場所?」


 メイは空いた椅子を見る。


「そうね」


「人間は、場所も待つんだね」


 メイは返事をしなかった。


 代わりに、トーマスの椅子を卓へ少し寄せた。


     *


 夜が深くなった。


 ルーシーは先に寝た。


 父も帳簿を閉じた。


 母は翌朝の仕込みを始めている。


 メイは食堂の窓際で、アビーにもらった布袋の縫い目を直していた。


 赤い星。


 糸の端が少しほどけていた。


「何してるの?」


 メルクが水差しから覗き込む。


「直してる」

「それ、旅の袋?」

「そう」

「使うの?」

「まだ分からない」

「いつか?」

「たぶん」

「メイも西へ行く?」

「まだその話?」

「だって、いつかって言った」

「いつかは、約束じゃないの」

「違うの?」

「違う」

「人間、難しい」

「知ってる」


 メイは針を布へ通した。


 その時だった。


 メルクの顔から笑みが消えた。


「メイ」

「何」

「川が変」


 メイは手を止めた。


「何が?」


 メルクは答えなかった。


 水差しの中の水が、細かく震えている。


「メルク?」


 次の瞬間。


 轟音が響いた。


 窓ガラスが震えた。


 棚の皿が一斉に鳴る。


 竈の鍋が跳ねた。


「何だ!」


 父が立ち上がる。


 メイも椅子から飛び上がった。


 数秒遅れて、外が赤く染まった。


 窓の向こう。


 河の方角。


 夜空の下に、橙色の光が膨らんでいる。


 メルクが水差しから飛び出した。


「メイ」


 声が震えていた。


「川が、痛い」


 メイの胸が冷えた。


「父さん」


 パトリックがすでに扉へ向かっている。


「河だ」

「何が?」

「分からん」


 外から人の声が聞こえ始めた。


「火事だ!」

「船だ!」

「河岸で爆発した!」


 メイは動けなかった。


 一瞬だけ。


 たった一瞬だけ。


「船」


 口から言葉が漏れた。


 父が振り返る。


 同じことを考えた顔だった。


「トーマス」


 メイは外へ飛び出した。


 裏口の脇に、昨夜持ち帰った杖が立っていた。


 手が勝手にそれを掴んだ。


「メイ!」


 母の声が追いかけてくる。


 止まらなかった。


     *


 河岸へ近づくほど、人が増えた。


 男が走っている。


 女が泣いている。


 誰かが桶を持って河へ向かい、別の誰かが怪我人を背負って反対へ走る。


 煙が低く流れていた。


 喉が痛い。


 焦げた木と油と、何か別の臭いが混じっている。


「どいて!」


 メイは人の間を押し分けた。


「どいてよ!」


 泥道で何度も足を取られた。


 そのたび、手にした杖が身体を支えた。


 河岸が見えた。


 蒸気船が燃えていた。


 船体の中央が大きく裂け、煙突の一本が傾いている。


 炎。


 蒸気。


 黒煙。


 川面にも火が映っている。


 まるでミシシッピそのものが燃えているようだった。


「トーマス!」


 メイは叫んだ。


 当然、返事はない。


「兄さん!」


 足元で誰かが呻いた。


 男が倒れている。


 顔の半分が火傷していた。


 知らない顔だった。


 メイはまた走る。


「トーマス!」

「嬢ちゃん!」


 聞き覚えのある声。


 振り返る。


 サイラスだった。


 河から上がってきたところだった。


 服はびしょ濡れ。


 右腕が赤黒く焼けている。


 それでも両腕で男を抱えていた。


「そこ寝かせろ!」


 誰かが叫ぶ。


 サイラスは男を地面へ下ろした。


「次!」


 そのまま、また河へ向かおうとする。


「サイラス!」


 メイが腕を掴んだ。


「兄さんは?」


 サイラスが止まった。


「トーマス!」

「嬢ちゃん、ここにいるな」

「兄さんどこ!」

「危ねえから下がれ!」

「どこって聞いてるの!」


 サイラスは答えなかった。


 その沈黙が怖かった。


「サイラス」

「……まだ分からねえ」

「何が?」

「爆発の時、荷台側にいた」

「だから?」

「船の中だ」


 メイの耳から、周囲の音が消えた。


「中?」

「何人かは出た」

「兄さんは?」

「見てねえ」

「じゃあ、いるんでしょ」

「メイ」

「まだ中にいるんでしょ!」

「近づくな!」


 再び船の中で何かが弾けた。


 火の粉が夜空へ舞った。


 人々が一斉に下がる。


 メイだけが前へ出ようとした。


 父が後ろから抱き止めた。


「離して!」

「駄目だ!」

「兄さんがいる!」

「分かってる!」

「だったら!」

「お前まで行くな!」


 父の声が震えていた。


 メイは初めて気づいた。


 パトリックも怖がっている。


 父の腕が、震えている。


 メイの足元。


 川から流れ込んだ水の中に、メルクが現れた。


 青い顔で燃える船を見つめている。


「メイ」


 メルクが言った。


「水が熱い」


「だったら消して!」


 メイは叫んだ。


「あなた水なんでしょ!」


 メルクが目を見開く。


「火を消して!」

「メイ……」

「早く!」


 メルクは河へ飛び込んだ。


 一瞬で姿が消える。


 次の瞬間。


 川面が大きく持ち上がった。


 水が船へぶつかる。


 蒸気が爆発するように広がった。


 炎の一部が消える。


 けれど、全部ではない。


 メルクの声が川の中から響いた。


「熱すぎる!」

「もう一回!」

「メイ!」

「お願い!」


 水がまた持ち上がる。


 船へ叩きつけられる。


 白い蒸気。


 悲鳴。


 咳。


 それでも火は残った。


 メイは杖を握りしめた。


「兄さん!」


 叫び続けた。


     *


 どれくらい経ったのか分からない。


 十分だったのか。


 一時間だったのか。


 夜はまだ暗かった。


 何人もの負傷者が運び出された。


 メイは一人ずつ顔を見た。


 違う。


 違う。


 知らない男。


 違う。


 若い男。


 違う。


 血だらけの男。


 違う。


「トーマス?」


 違う。


「兄さん?」


 違う。


 何度も。


 何度も。


 どこにもいない。


 サイラスが河から戻ってきた。


 今度は誰も抱えていなかった。


 ただ、何かを持っていた。


 黒いもの。


 濡れている。


 焦げている。


 メイはそれを見た。


「それ」


 サイラスの手が止まる。


「それ、何?」

「……」

「見せて」

「嬢ちゃん」

「見せて!」


 サイラスがゆっくり手を開いた。


 帽子だった。


 トーマスがいつも被っていた帽子。


 縁の片側が焼け、黒く焦げている。


 水が滴っていた。


 メイは手を伸ばした。


 触れた。


 冷たかった。


「これ」


 声が出なかった。


 一度、息を吸う。


「兄さんの?」


 サイラスは答えない。


「ねえ」


 メイが笑った。


 なぜ笑ったのか、自分でも分からなかった。


「似てるだけでしょ?」


 誰も答えない。


「兄さん、帽子よくなくすから」


 父も何も言わない。


「この前も馬小屋に置いてたし」


 サイラスが顔を伏せた。


「違う人のでしょ?」


「メイ」


 父が名前を呼ぶ。


「違うって言ってよ」


 パトリックは言わなかった。


 メイは帽子を抱えた。


 濡れていた。


 冷たい。


 泥の匂い。


 煙の匂い。


 トーマスの匂いは、もうほとんどしなかった。


「兄さん!」


 メイは川へ向かって叫んだ。


「トーマス!」


 返事はない。


「兄さん!」


 燃える船の音だけが返ってくる。


「帰るんでしょ!」


 喉が痛い。


「パン買ってくるんでしょ!」


 声が掠れた。


「兄さん!」


 メルクが川面から顔を出していた。


 何も言わない。


 いつもなら、すぐに聞く。


 どうして?


 何で?


 人間って何?


 でも今夜のメルクは、一つも質問しなかった。


 ただ、メイを見ていた。


「兄さん……」


 メイの声が小さくなる。


 手から杖が滑りそうになった。


 それでも、なぜか離せなかった。


 ミシシッピは流れていた。


 何事もなかったように。


 燃えた木を運び。


 破れた布を運び。


 人の声を飲み込みながら。


 どこまでも。


 どこまでも。


 川は、何も答えなかった。

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