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第7話 機関戦闘車

 盗賊団のボスを探しながら廊下を駆けるカリビア達。

 そこに立ち塞がるように下っ端の盗賊達が銃を構えて現れる。


「邪魔だっつーの――!!」


 カリビアのKraken(クラーケン)から放たれたグレネード弾の爆発が盗賊達を蹴散らした。


「先程の男性に話を聞いた所、ジョンは玉座の部屋に居た様です。

上の階に向かいましょう、僕が案内します!」


 ワットが前に立ち、左手の曲がり道に進む。カリビア達もそれに続いて左に曲がりしばらく走ると上へと続く階段が見えた。


「あそこから上の階に上れます! でも……」


 階段の前には不自然な数の銃火器を手にした盗賊が集結しており、上には行かせまいと立ち塞がっていた。


「はっ、そのくらい上には行かせたくないってワケ?

わざわざ答え合わせしてくれるなんて親切じゃない。


……リンラン!」


「一擲当千(いってきとうせん)……、『鼓響掌(こきょうしょう)』!」


 階段の前で固まる盗賊達からまだ10m程離れた間合いで、前に飛び出したリンランは拳を開いた右の掌(てのひら)をリンランと盗賊達の間の虚空に突き出した。


 何も無い空間に突き出された掌(てのひら)は、いや、唯一その空間に充満する空気を打ち鳴らし、大太鼓の様な大きく力強い音を生み出す。


 破壊力を乗せた音は空気を伝ってまるで巨大な砲丸のように盗賊達に迫る。

 その音速の砲丸は盗賊達の反応を許さず、直ぐに暴風のような衝撃が盗賊達を飲み込んだ。


 盗賊達の悲鳴と、王城の壁が崩れ瓦礫が倒れる音。

 砂埃が階段の前に立ち込め、それを払って立ち上がることのできる盗賊は居なかった。


「あれ、階段まで木端微塵にしてないですよね。リンラン?」

「俺がそんなヘマすると思うか?」

「か、階段は……無事です。皆さん早く! 後ろからも追手が!」


 ワットが先導し、一同は階段を駆け上がった。


 階段を踏み鳴らす無数の足音。カリビア達一同だけでなく、彼女達を追いかける盗賊達もまた、階段を駆け上っていた。


「はぁ、はぁ……。一介のエンジニアには……、だいぶ堪える追いかけっこですよこれは……」


 階段を上りきったポールは、肩で息をしながらそう絞り出した。


「まだ追いかけてくるな。止まったら死ぬぞ」

「そうは言いますが……!」


 息も乱れぬリンランに急かされるが、ポールは息切れしながら膝に手を当てた。


「一旦足止めしましょう。ここは僕が!」


 そう言って光線銃を構えたワットは階段の真上の天井にレーザーを連続で放ち、無数の線を引いた。


 しかし電磁パルスの壁は、線の引かれた天井から伸びるのではなく、その反対、天井に食い込む方向に作動した。

 結果、パルスの刃となったその壁が天井を引き裂き、瓦礫となった天井がカリビア達の上ってきたその階段を沈めた。


「ぐわぁ! くそ、瓦礫で進めねぇ!」


 瓦礫越しに、盗賊達の慌てふためく様な怒鳴り声が聞こえてくる。


「ふぅ、これで時間稼ぎにはなるはずです」

「申し訳ない、助かりました……」

「で、階段はここまでなの? 2階分しか上ってないけど」


「玉座のある謁見室はもう少し上の階なので、ここから更に別の階段で上がります。簡単に占拠されないように城内は複雑な構造になっているんです。

まぁ、今は裏目に出てしまってますが……。でも大丈夫です! 昔何回か王城設備の点検作業を引き受けていたので、僕が案内できます」


 ワットの提案にカリビアは頷き、自身の汗を手で拭いながら彼女達がこれから進む先、瓦礫の向こうの盗賊達のくぐもった叫び声以外聞こえない静かなそのフロアを見回した。


「なんか、嫌に静かになったわね……」

「ふむ、この階には盗賊が居ないのでしょうか?」


 カリビアとポールの2人はそう言いつつリンランの方を見やるが、ジッとその猫耳をそばだたせていたリンランもやがてつまらなそうに肩を竦めた。


「……ま、追っても来ないなら歩いて行きましょうか。念のため警戒は怠らずにね」

「――当然」


 ワットの案内でそのフロアをしばらく歩いたカリビア達は、やがて広い空間に出た。

 本来広々としていたであろうその空間は今では倉庫代わりのようになっており、城で研究されていたと思われる兵器の数々が所狭しと並べられていた。


「見たことないような兵器がいっぱいね……。油圧制動ランス、量子分解刃のついた銃剣、こっちは……エーテル砲かしら?」


「王城で研究開発されていたものでしょう。ん、これは……。戦車のパーツの様なものまでありますよ。

レーダー装置にエンジンユニット……。へぇ、なかなかにエッチな部品を使う。

――おや? これ、見てください」


 元研究者の性なのだろうか、興味深そうにそれらの発明品を調べていたポールは何かに気付き皆に指で指し示した。


「なになに……。このロゴは、『フォークリアル・コーポレーション』。……《技術屋》?」


 ポールが見つけたのは、発明品の裏に刻印された『FR(フォークリアル)』の二文字からなるマーク。


 魔法と見紛うような超テクノロジーを幾つも商品化し、特異すぎる力学法則を持った全く新しいエネルギー資源『マニアエーテル』を西部中に流通させた巨大企業『フォークリアル・コーポレーション』。

 他の追随を許さないような技術力から《技術屋》の異名を持つその組織が扱う商品を示すマークだった。


「……デフォイ王国は昔、国内の技術者に手厚い支援をしていたんです。優秀な技術者が多く、小国としては高い文明水準なのもそれが要因でした。

しかし数年前から王が技術者への支援を打ち切り、外部の研究者を雇って独自の研究を進めるようになったんです。

まさか、それが《技術屋》の研究者だったとは」


 彼も支援を打ち切られた技術者の一人だったのだろう、ワットが少し落ち込んだ暗い表情でそう言った。

 そして、合点がいったかのように頷きながらポールが補足した。


「研究費を提供して軍事技術開発を依頼していたのでしょう。マークを見るに商用の権利は《技術屋》に引き渡す契約だったようですね。

確かに、盗賊共が王城を占拠してこれだけの発明品を奪えればかなりの金になるでしょう。他の組織に売りつけても、直接《技術屋》への交渉材料にしてもいい。

なるほど、下っ端の盗賊を近づけさせないのも頷ける。下手に触れればどんな危険があるかわかりませんから」


 話しながらも、他の研究品を見回していたポールは今度は別のダンボールに目をつけた。


「これは、注射器? 幾つかは空になっていますね……一体なんでしょう」

「あ、これ《技術屋》のロゴがありません。別の組織の物でしょうか?」


「ん……。ま、わかんないものについて考えててもしょうがないわ。

先へ進みましょう。私達の目的はボスの打倒なのだから」


「ふむ、もっと時間をかけて見てみたい欲もありますがそちらが優先ですね。

行きましょう船長(キャプテン)」


 そんな話をしながら、カリビアは広場を後にする。



 やがて更に上に上がる階段へとたどり着き、一同は上の階へと進んだ。


「皆さん! もうすぐです! この大広間の向こうが――」


 階段を上り、謁見室の前の大広間が見えた時、何かに気付いたワットが言葉を詰まらせた。


 日が傾き始め、暗がりになった大広間に佇む何か。それは平屋ほどの大きさをした合金の塊。

 カリビア達は一度それを見たことがあった、デフォイ王国まで車を走らせたその道中で、凄惨に破壊されたそ(・)れ(・)の(・)残(・)|骸(・)を。


「《白》の討伐のために開発された機関戦闘車ですか……。どうやら城内に予備があったようですね」

「ちょっと! あれを城内で乗り回すつもり!?」


 冷静に分析するポールの横でカリビアが叫ぶ。

 一同に気付いたのか、機関戦闘車は地面を揺らしながら動き出し、その主砲をカリビア達に向けた。


「――ッ! 避けろ!」


 リンランが叫び、一同はそれぞれの方向に散る。

 主砲から放たれたエーテル弾は一同の立っていた床に命中し、瓦礫一つ残さずその床を抉り飛ばした。


『なんだ、大勢で乗り込んで来たと聞いてやしたが、ここまで来たのはたったの4人ですかい』


 戦車から部屋中に響くような男の声がした。

 備え付けられたスピーカーを通して、戦車を運転する盗賊の話す声だった。


『ま、何人だろうと関係無い、ここでくたばって行きなさいや!』


 今度は主砲だけでなく、戦車の側面にあった4つの機関砲がカリビア達4人を個々に捉えた。


 自動操縦によってカリビア達を狙う機関砲から身を隠すように、各々は大広間の柱の裏へと逃げ込んだ。


「『ときめき☆スパークル』!」

「っ! 援護を!」


 機関砲の射撃が止んだ隙を狙い、柱の影から身を乗り出してマグナムを放つポール。

 続けてワットが光線銃を放ち、戦車に電磁パルスの刃を突き刺した。


 電撃を纏ったマグナム弾、鉄筋の壁をも穿つ電磁カッターを浴びた戦車はしかし、傷一つ無い。


 リンランは柱を跳び出し、機関砲の射撃よりも早く大広間を駆け戦車を翻弄する。

 機関砲の射撃の合間を掻い潜り、疾風のように戦車に近付いたリンランは戦車の側面を殴り鉄琴の様な音を響かせるが、戦車が傷付く様子は無かった。


「そんな、まるで攻撃が通じない……!」


 絶望する様なワットの表情とは反対に、勝ち誇ったような男の声がスピーカーから響き渡る。


『ははは、諦めなせぇ! そんな攻撃じゃこの機体はビクともしやせんよ!』


「《技術屋》の発明品は伊達では無いようですね。なんてグラマラスな戦車だ……。あぁいや、僕の愛車(マリアンヌ)のがナイスバディですが。

……ゴホン。とにかく、正直手も足も出ません。これを紙切れのように吹き飛ばした《白》の恐ろしさがわかりますね」


「うだうだ言っててもしょうがないわ。こんな奥の手まで用意してるんだから本丸は直ぐに違いない。何としてもここを突破するのよ!」


 カリビアが発破をかけるようにそう言うが、具体的な案は誰も浮かばず眉を顰める。


「ッ! カリビア!」


 誰もが柱の影で言葉を詰まらせている中、ずっと戦車の攻撃をいなしながら戦車に肉薄していたリンランがふと、叫んだ。


「ここは俺がやる。お前らは先に行け」

「でもリンラン、貴女は――」


 カリビアの声をかき消す様に放たれた戦車のエーテル弾がリンランに迫る。

 彼女は容易くそれを蹴り上げ、シンバルの様な音とともに天井に方向転換したエーテル弾は、衝撃と共に天井を穿ち再び部屋中を揺らした。


「心配無用。いいから任せろカリビア」

「……わかったわ。絶対死なないで、リンラン!」

「はっ、当然」


『っ! させやせんよ!』


 柱の影から一斉に飛び出し、玉座の間へと続く通路へと走る3人。

 戦車の男は、機関砲でカリビア達を仕留めようと狙いを定めた。



――リンランが静かに口角を上げた。


『っ!? なんだ!?』


 次の瞬間、戦車に付いた4つの機関砲が同時に煙を吹き出し動作を停止した。

 相変わらず戦車の外壁には傷一つ無く、まるで内側から爆発したかのように。


「峰琳の音は髄(ずい)に響く。芯を打ち鳴らし、核を穿つ。上っ面を殴るだけが拳じゃ無いのさ、ど三一(さんぴん)」


『くっ! そんなら、直接轢き潰してやりまさぁ!』


「――させるかよ」


 男はカリビア達をその巨大な戦車で押し潰さんと、操縦桿を前へと倒す。


 しかし、リンランが脚を踏み鳴らすと、拍子木のような音とともに大広間の床に亀裂が入る。

 その亀裂は戦車を呑み込み、直ぐに崩れて巨大な落とし穴となった。


『なぁああああ!?』


 床が崩れ、下の階へと呑み込まれていく機関戦闘車。

 共に落ちていくリンランも、穴の淵に立ったカリビア達を見て頷き、そのまま闇の中に消えた。



 残されたカリビアはやがて、大きく息をついて目の前に広がる大穴に背を向けた。


「……リンランがあぁ言ったなら心配する必要は無いわ。

私達もやるべき事をやりましょう。これが最後の戦いよ。皆、気を引き締めて」


「了解です」

「……わかりました」


 カリビア、ポール、ワットの3人は、ジョン・マキャべーの待つ謁見室へと再び歩み始めた。


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