第6話 予期せぬ再開
大広間に集まり、整然と立ち並ぶ兵士達。
彼等は武器を手に持ち、その目には揺るがぬ決意が宿っている。
「一味同心、ってか。はっ、役に立てばいいがな」
「あんまり意地悪言うもんじゃないですよ。リンラン」
カリビア達とワットの4人はその隊列の前に立ってその光景を見ていた。そして、皮肉めいたことを呟くリンランをポールが宥めていた。
兵士達の目線が集まる先、彼らの先頭に立っているのはオスカーだ。
彼はいつも通りの綺麗な姿勢で、しかし今まで見たどの時よりも胸を張って前に立ち、同士達の覚悟に応えていた。
「諸君! 先ずは、君達が再び立ち上がってくれたことに礼を言いたい。
一度は絶望の鎖に君達全員を縛り付け、私自身もその鎖に囚われながら傍観することしかできなかった。
部下の魂が瓦解していくのを目の前にして何もしなかった私は最早、上官の器ではないのだろう。
しかし、今この国は確かに、我々の勇気を必要としている。彼女が私達に教えてくれた事だ。
我々が立ち上がらずして誰が、この国の民を護れよう!?
今一度思い出そう。我々は国賊を散らす剣であり、またこの国を護る盾である!」
オスカーは手に持っていたライフル銃を掲げる。兵士達もまた、各々の武器を掲げ雄叫びを上げた。
カリビアが旗を持ち一歩、前に出た。
「家族達よ!
貴方達の勝利は、この旗の下に約束された!
さぁ、出航よ! この旗に続き、眼前の賊を蹴散らしなさい!」
カリビアの呼ぶ家族達が再び雄叫びを上げ、熱気が部屋中に広がった。
「僕も戦います! 王国軍の皆さんに比べれば戦闘は素人ですけど……。2つの星を持つシェリフとして、僕の育った国の役に立たなければ!」
「わかったわ。私達と一緒に行きましょう。いいでしょ? ポール、リンラン」
ワットの真っ直ぐな訴えにポールとリンランも応えた。
「えぇ、……僕は構いませんよ」
「自分の身は自分で守れ。俺はお前の用心棒じゃないからな」
「……っ、はい!」
カリビアは旗を大きく振り、シェルターの出口へと歩き出す。
ワット、ポール、リンラン、そしてオスカーの率いる王国軍の兵士達もまた、カリビアの背に、そしてはためく髑髏に続いて歩き出した。
◆
盗賊達の占拠する王城は、鉄筋コンクリート製の複合ビルのような出で立ちをしている。
そしてその1階、城門を潜ってすぐのエントランスは行政処理の受付等を行う役所として開かれていた。
しかし今は、銃を持った盗賊達が蔓延っていた。
酒を飲んで騒ぐ者、賭博をする者、椅子に横になって寝ている者。各々の喧騒が下卑た無法地帯を形作っている。
開けた食べ物の袋や空き缶、読み捨てられた雑誌や煙草の吸殻が部屋中に散らばり、綺麗に磨かれていたであろう椅子やカウンター、大理石の床を汚していた。
閉ざされた王城の入口、重厚な両開きの扉にふと、一本の光の線が浮かんだ。
刹那、線に沿って飛び出した電磁パルスの壁が刃のように扉を貫いた。
電磁パルスに沿って切断された扉は、おおきな鐘の音と共に吹き飛ばされ、大理石の床に転がった。
「なんだ!? 何事だ!」
部屋中の盗賊達が、扉の破壊された出入口の方を向く。
傾き始めた太陽が逆光となり、彼女の小さな体躯を写した。
動く耳、揺れる尻尾。
重々しいその扉を容易に蹴り飛ばしただろう片脚を構えたままの姿勢で、リンランが不敵に笑った。
慌てて武器を構えようとする盗賊達だったが、それより素早くリンランは地を蹴り、後方に飛び退く。
そして――
「射てぇ!!」
号令を掛けたのはオスカーだった。
既に銃を構えてリンランの直ぐ後方に待機していた兵士達が掃射を始め、エントランスは瞬く間に砂煙に包まれた。
「射ち方待て!」
オスカーが片手を挙げると掃射がピタリと止む。煙が晴れ、そこに居たのは床に倒れる盗賊達。
しかし、その一部は咄嗟にテーブルや椅子、カウンターの裏に身を隠していた。
兵士達の攻撃を逃れた盗賊達は今度はこちらの番だと言わんばかりに身を乗り出し、銃を向けた。
彼らの目に映ったのは、Kraken40の銃口を向けた金髪の麗人カリビア。
引き金を引き飛び出したフラッシュグレネードは、盗賊達の視線の中心で破裂し強烈な閃光が彼等の視界を奪った。
「ぐわぁっ! 眩しッ!」
「目が! クソっ!」
目をおさえた盗賊達の隙をつき、カリビアは海賊旗を手に、単身で城内に飛び込んだ。
「ほら踊りなさい! 寝坊助さん!」
旗を大きく振り、盗賊達を薙ぐカリビア。彼女の手に持っている海賊旗は、ポールの両端が鋭く尖った刃が付いている。
つまり、その旗は双頭の槍に旗を結んだ槍旗であった。
旋風のように旗を振り回し、次々と盗賊を薙ぎ倒すカリビア。
かと思えば、床に突き刺した旗を支柱にしてポールダンスの要領で自身の身を旋回させ、回転のモーメントを乗せたキックで自分よりも遥かに大柄な男を蹴り飛ばした。
倒れた大男の背に片脚を乗せ、再び地面に旗を突き刺したカリビアは空気が裂ける程の大声で叫ぶ。
「家族達! この旗に続け!!」
「――ッ! 突撃!」
オスカーの号令と共に、王国軍が一斉に城内に雪崩込んだ。
「おい! 司令塔は旗を持ったあの女だ!
お前ら! あのクソアマをぶち抜け!」
盗賊の中の1人がそう叫ぶ。
誰よりも前に立ち、乱闘の中最も目立っていたカリビアはあっという間に囲まれ、無数の銃口を向けられた。
「ハッ、触れさせねぇよ」
大砲の弾のように飛び込んできたリンランの膝蹴りは銃を向けた男の1人を捉え、顔面に膝を食らった男が銅鑼の様な音と共に壁に叩きつけられた。
「ぐぎゃぁああ!!」
「なんだアイツは!? 人間、いや……猫?」
「……遅疑逡巡だ」
普通の人間には、リンランがただ拳を腰に引き、拳法の構えをとっただけのように見えただろう。
刹那の間に、目にも止まらぬ早さで突き出された拳は、その一つ一つがカリビアに銃を向けた不届き者達の急所に、寸分の狂いなく打ち込まれていた。
常人に流れる時の動きからすれば、殆ど同時とも言える拳打は調べを生み、まるで何本ものハンドベルを一度に鳴らしたかのような和音が辺りを包んだ。
「おいカリビア、もう何度も言ってるだろ。
俺より前に立つな」
カリビアを護るように隣に立ったリンランは不満げに眉を顰め、カリビアに向いてそう言った。
「旗が1番先頭にいなきゃ、家族達は何を灯りに進めば良いのよ?
リンラン、私は貴女を信じてる。大丈夫よ!」
カリビアが迷わずそう答えると、リンランは恥ずかしがるように目線をそらした。
「チッ、……勝手にしろ」
その時、盗賊の殺意を感じ取ったリンランははっと振り向いた。
そこにはリンランの拳を受け倒れたものの、未だ意識を保っていた盗賊の1人がカリビアに向け、手に持った銃向け引き金に指をかけていた。
「――ッ、させませんよ!」
引き金を引いたのはポールだった。
彼のリボルバー、Aventureから放たれた特殊なマグナム弾は盗賊の構えた銃を弾き飛ばし、辛うじて銃を構えていたその盗賊はそのまま力尽きた。
「ナイスよ、ポール!」
「……俺が間に合ってた」
「ハイハイ…」
カリビア達の進撃は盗賊を圧倒し、他の盗賊達も王国軍に抑えれる。
エントランスホールにいた盗賊達が壊滅し戦闘に落ち着きが見えた頃、王城の奥に続く廊下から無数の足音が聞こえてきた。
「敵の増援です……!」
「――ッ! 隠れろ!」
オスカーの号令で、カリビア達を含めた全員がテーブルやカウンター、壁の裏に身を隠した。
直後、銃声の嵐と共に別の盗賊達がぞろぞろとエントランスに侵入し、その奥からスキンヘッドの男が姿を現した。
「あの野郎……」
その男に見覚えがあったリンランが低く呟く。
それは彼女が国に入った直後に倒したはずのマーティンと呼ばれる盗賊だった。
そしてもう1人、彼に引き摺られて姿を現した傷だらけの男を見て、カリビア達の顔が強ばった。
「テメェら、こいつが見えるな?
俺達の言う事に逆らえば、この善良な市民の頭が吹き飛ぶぜ」
傷だらけの男の首に手を回し、そのこめかみに銃を突きつけたマーティンは、下卑た笑いを浮かべてそう言った。
「た、助けて…!」
「人質……不味いわね」
カリビアはカウンターの裏に隠れながらオスカーに目配せをした。
しかし、オスカーは苦い表情で首を横に振るだけだった。
「10秒数える。お前ら全員、武器を置いて両手を挙げるんだ。
変な真似をすればわかってるよな?」
「くっ……」
王国軍の兵士が皆悔しそうに顔を歪める中、リンランだけがレンズ越しの目をギラつかせながら笑った。
「軽率短慮だな。
武器が無ければ無力だとでも?
その引き金を引く前に奏でてやる……!」
「いや、ここは僕がやりましょうリンラン。
ハニービー起動――!」
ポールが、自分の左手に付けたMOVAを弄りながらそう呟く。
彼の顔の液晶に蜜蜂のマークが表示され、直ぐに『connected』の文字列に変わった。
人質の男に銃を突きつけていたマーティンはふと、耳元で鳴る羽音の様な異音に気付いた。
「なんだ……虫?」
マーティンが振り向くと、そこには蜜蜂の様に薄い羽を羽ばたかせて浮く小さな物体。
それはポールが先程撃った特殊なマグナム弾、彼の発明したマグナム弾状の飛行ビット『ハニービー』だった。
「――code『ときめき☆スパークル』」
ポールの落ち着いた声色とは似つかわしくないキャピキャピの合言葉と共に、ハニービーからレーザー弾が放たれる。
「ぎゃあああ!!?」
電流を纏ったレーザー弾を喰らったマーティンは身体から煙を出して倒れ伏した。
「……今です!」
「射てぇ!」
ポールの合図と共にオスカーが号令をかける。
兵士達の射撃はマーティンと共にやって来た盗賊達を一掃し、人質となっていた男だけがその場にへたりこんだ。
「っ! 立てますか?
もう大丈夫です。安心してください!」
ワットが男の方へ駆け寄ると、その肩を支えて立ち上がった。
「すまない、すまない……!
私のせいでシェルターが、妻と娘が……!」
「一体、どういう…?」
力無くワットにもたれかかったその男は嗚咽を混ぜながら言葉を絞り出した。
「私が、情報を漏らしたんだ……。
妻と娘を見逃すと言うヤツの甘言に騙されて……。
シェルターの場所を教えてしまった。今ヤツは部下を向かわせてる。
早く、早くシェルターに向かってくれ!」
ワットを含め、それを聞いた一同に再び緊張が走った。
「馬鹿な、すれ違ったのか!?」
「っ! 各シェルターのシェリフ達に急いで連絡を取ります!」
ワットは自らのMOVAで連絡を取り始め、オスカーはカリビアの下まで駆け寄った。
「オスカー、貴方達はシェルターの救助を優先していいわ。
シェルターに仲間を向かわせた分、本丸は手薄になってるでしょう。
ここは私達に任せなさい!」
「いえ、分隊を作り各シェルターに派遣します。
元々城に攻め込むには数が過剰でしたし、そちらの方が機動力には優れるでしょう。
それより私の懸念は……」
オスカーはワットが支える男に深く頭を下げ問いかけた。
「情報提供感謝します。失礼ですがもう1つ質問を、
この城に貴方以外に捕らえられている方は何名ですか?」
問い掛けられた男は俯き、首を横に振った。
「わからない、ずっと個室に監禁されていたから……」
「ふむ……」
オスカーは、自分の髭に手を当てて考え込み、カリビアに振り向いた。
「カリビア殿。
申し訳ありません、私は残った部下と共に人質の捜索に向かいたいと存じます。
この身は国家の盾であり、また国民の盾であるが故」
「私もそう言ったはずだわ、オスカー。
貴方が世界で最も勇敢な軍人である事に異を唱える者はいないでしょう」
オスカーは敬礼をした後、部下に指示を飛ばし始める。
彼の迅速且つ的確な指揮によって、シェルターに向かう隊と人質の救助に向かう隊が結成され、カリビア達とワットの4人のみがボスの討伐に割り当てられた。
「彼は私達の方で安全な場所まで保護します。新しく救助した人質も同様に。
――それではカリビア殿、ご武運を」
オスカーは再びカリビアに敬礼し、カリビアは別れゆく家族達を鼓舞するように旗を大きく振った。
「家族達! ここから先、私達には別々の戦いが始まるでしょう。
忘れないで、この旗の下に私達は繋がっている。見えなくなっても私はここで旗を掲げ続ける! そしてその限り貴方達に敗北は訪れないわ!
信じて前に進みなさい! 私達の羅針盤の指し示す先は同じ、真なる悪の打倒と栄光ある我らの勝利なのだから!」




