第3話 浪漫を愛でるエンジニア
カリビア達の乗る『マリアンヌ』。そしてそれを追う何台ものトラックが同時にエンジンを吹かす。
「アイツら、マーティンの兄貴をやりやがった! 絶対逃がすなよ! ボロ切れになるまで撃ちまくれ!」
その号令と共にトラックの荷台から身を乗り出した男達が一斉にライフルの引き金を引いた。
「――っ! 防弾シールド、展開します! 耐えて下さい、マリアンヌ!」
ポールがシフトレバーの側にあるトグルスイッチのひとつを切り替える。マリアンヌのバックドアが開くと、パラソル型のシールドが展開され銃弾を防いだ。
「あぁ、もう! しつ…っこい!」
カリビアが腰のホルスターに下げていた銃を構える。
銃の名前は『Kraken40』、40mm口径のピストル型グレネードランチャーだ。
そして、腰に巻いたベルト型のシェルホルダーからグレネード弾をひとつ取りだして装填すると、窓から身を乗り出し、後ろに向かって撃ち放った。
その弾は先頭を走っていたトラックの1台を沈めるが、続くトラック達はそれをものともせず、爆風を掻き分けて迫り続けた。
「これじゃ何発あっても足りないじゃない! ポール、今度からマリアンヌにガトリング砲でも乗っけない?」
「愛しのマリアンヌにそんな物騒な物乗せられませんよ!」
「……やっぱり、俺がやるか。八艘飛び。……面白そうだ。」
「向こうに飛び移る前に穴だらけになるでしょ!」
「ふむ……。しかし、そうですね。僕も愛しのマリアンヌちゃんを傷付けることは許せませんよ……!」
ポールはそう言い、今度はハンドル横のパネルを操作した。
すると、パラソル型のシールドが回転しながらエネルギーを集め始める。
エネルギーはパラソルの中心へと集まり、尖ったその中心が青く光り輝いた。
「愛……注入です!」
ポールはサイドミラーを一瞬だけ覗きながら、足下のレバーを思い切り引っ張った。
パラソルシールドの先端から放たれたのは、指先程のサイズに濃縮されたエネルギー弾。それは勢いよく撃ち放たれ、ポール達の乗るマリアンヌが反動で小さく跳ね上がるほどだった。
雫のようなその弾が背後の盗賊達に触れ、弾けた。
「ぐっ、ぐわぁぁああ!!」
「ぎゃあああああ!!」
爆発。凝縮されたエネルギーの解放は後方に連なるトラックを幾つも巻き込む程の衝撃だった。
「やったわ! ……でも、物騒な物は乗っけれないって言ってなかったかしら?」
「何を言いますか! エンジニアの浪漫はいくらでも乗せられるのですよ」
「……いや、違いがわからないわ」
呆れた様にそう呟いたカリビアは、ふとサイドミラーを覗き、青ざめる。ミラーには砂煙を掻き分けて尚もカリビア達を追い続ける無数の盗賊達が映っていた。
「ちょっと! まだ追いかけて来る訳!? どんだけ居たのよあのトラック!」
「これは想定外ですね……。再装填には時間がかかりますよ……!」
「……八艘飛びの時間だな」
「だからダメだって! でも、不味いわ。地の利は向こうにあるはず。このままじゃ回り込まれて――」
その時、カリビア達と盗賊達を分断するように、道路に一筋の光の線が引かれた。直ぐに光の線が強く輝き、それは揺らめく光の障壁となった。
「……っ! なんだ!?」
カリビア達を追うように光の線へと全速力で接近していたトラックは一斉にブレーキをかける。しかし間に合わず、カリビア達を追っていたトラック達は余すことなくその壁に追突し動きを止めた。
「今のは……?」
マリアンヌを停め、カリビア達も車を降りる。
光の壁は既に消え去り、煙を吹き上げたトラック達と、衝撃で車体にぶつかったり荷台から放り出されたりして気絶した盗賊達だけがそこに横たわっていた。
「皆さん! お怪我はありませんか?」
声を発したのは道路脇の建物の屋上に立っていた青年。
彼は、道路へと飛び降り、カリビア達へと駆け寄った。
「えぇ、助かったわ。ありがとう。
えっと、貴方は……」
彼は、自身の身長と同じくらいのレーザー銃を手に抱え、両目を覆っていたゴーグルを頭にあげながらはにかむ。
その胸には2つの星が描かれたバッチが輝いていた。
「二ツ星シェリフの『ワット』といいます!
詳しい話は後で、彼らが目覚める前に安全な場所に案内しますね」
◆
「ここです! 停まってください」
ワットを乗せ、彼の言う通りに車を走らせたカリビア達はやがて路地の一角に車を停めた。
この国のあらゆる民家は盗賊の被害を受けた跡であり、その路地も例に漏れず廃墟となった住宅が並んでいた。
カリビア達の車が停まったのは、そんな民家と何一つ変わらないように見える、ボロボロの一軒家の前だった。
「ほんとにここで合ってるの?」
「大丈夫です。念の為周囲の安全を――」
「誰もつけてきちゃいねぇよ。音を聞きゃわかる」
「え、あ、ありがとうございます。では……」
そう言うとワットはボロボロの民家の角に手をかけた。そして、カーテンを開くように壁を捲ると、その中から傷一つない本来の一軒家が現れた。
「なるほど、光学迷彩ですか。よくできている……」
「えへへ、元々僕は光学エンジニアでして。
その傍らでシェリフ稼業をやっているんです。
いやぁ、思いついたものは作っておくといざと言う時役に立ちますね。
あ、車はそっちの量子圧縮倉庫にお願いします!」
ポールが感嘆の声をあげると、照れるようにワットが答えた。そして彼の指示通りに車を駐車したカリビア達は、その建物の地下へと足を踏み入れた。
鉄筋とコンクリートで造られた文化的な建物とは裏腹に、その地下には旧時代的な荒い石造りの道が続いていた。
灯りも無く暗い地下道を、ワットは懐中電灯で照らしながら進み、その後ろにカリビア達が続いた。
「しかしその光線銃、自作ですか? なかなかスケb――あぁいや、興味深いですね」
ワットが持っているその銃に興味を持っていたポールは、ワットにそう問いかけた。
落ち着いた様に話しつつも興奮を抑えきれないようで、彼の顔のモニターには目を輝かせるような顔文字が表示されていた。
「そうです! 僕の自慢の発明品のひとつなんですよ。
レーザーで線を引いた場所から電磁パルスの壁を発生させる『シールド光線銃』です。障壁は3秒程で消えてしまいますが、大砲だって防げるんですよ!」
「光電効果の応用ですか……。あれ程綺麗なパルスを生成するとなると、相当強力なエネルギーを持ったレーザーが必要に思えますが」
「その通りです! ですから、『マニアエーテル』の特異性を使ってレーザーに通常の数千倍のエネルギーを与えているんですよ」
「あぁ…、やはり。マニアエーテルの『現象もつれ』で威力を重ね合わせているんですね?」
「え! ご存知なんですか!?」
「えぇ、実は元々マニアエーテルの研究を専門にしていまして……」
「ねぇ〜、盛り上がってるところ悪いんだけど……。これって今私達は何処に向かってるのかしら?」
エンジニア同士気が合うようでワットとポールの会話には終わりが見えず、痺れを切らしたカリビアが横槍を入れた。
「おっと、ごめんなさい! ここの地下道は王宮地下のシェルターへと続いているんです。主に王族関係者や王国軍の兵士、その家族達が避難されています。
……今この国はある盗賊団が支配していて、国中盗賊の一味がのさばっているんです。
けど、ここなら外部から助けが来るまで見つからないはずですよ」
「随分立派なシェルターがあったのね。他の国民達も避難しているのかしら?」
「ある程度はこのシェルターにも避難していますが全員ではありません。シェルター自体の許容人数もありますし。でも、僕の光学迷彩シートでカモフラージュした建物が他にも幾つかあるので皆さんそれぞれで避難していますよ」
「それは……大手柄ですね。《ギルド》がそれを知れば、ランクアップも狙えるかもですよ?」
「あはは、そうですね。でも、こうやって僕の開発した技術で皆を救えている事が僕にとっては何よりの勲章なんです。
僕がシェリフを始めたきっかけも、技術で人の役に立ちたいと言う気持ちが大きかったですし。『技術』ってそういうものじゃないですか?」
ワットはそう言いながら、照れくさそうにはにかむ。
「……あはぁ、その通りですね。本当に」
ポールは天井を仰ぎながら、小さくそう呟いた。
「さぁ、着きましたよ! こちらです!」
地下道の奥にはカーテンが掛かり、その向こうから仄かに光が溢れている。カリビア達を招き入れるように、ワットはそのカーテンを開いた。




