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第20話 コラボ配信の打ち合わせは、どうしてこうなった

 白銀ユナと御剣朱音が俺を挟んで睨み合い始めてから、応接室の気温は体感で数度ほど下がっていた。


 魔力を操っているわけでも、《黒天》が異常反応を起こしたわけでもない。それなのに肌を刺すような緊張が漂っているのだから、人間の感情というものは下手な攻撃魔法よりも恐ろしい。異世界では敵対する二国の王女を同じ交渉の席へ着かせた経験もあるが、今の二人を前にすると、あの時の方がまだ話をまとめやすかったように思える。


 朱音は俺の専属鍛冶師であることを示すように、鞘へ納めた《黒天》を自分の膝の上へ置き、ユナは対抗するように俺とのコラボ企画書をテーブル中央へ広げていた。どちらも表面上は冷静さを保っているものの、相手が話すたびに視線が鋭くなり、言葉の端には明らかな棘が混ざっている。


「つまり、白銀さんは湊を自分の配信へ呼び、二人だけでダンジョンへ潜りたいのね」


「二人だけとは言っていません。ただ、最初にお誘いしたのは私ですので、天城さんの意思を無視して同行を決めるのは違うと思います」


「《黒天》を使う以上、製作者が状態を確認するのは当然よ。遊びの配信とは違うの」


「私も命を懸けて配信しています。御剣さんに遊びと言われる筋合いはありません」


 柔らかな口調を崩していないユナの瞳には、渋谷第三ダンジョンで見せたものとは異なる強さが宿っていた。あの時の彼女は魔力を失い、仲間の安否に怯え、俺の背中へ縋ることしかできなかった。しかし今は、自分が探索者として積み上げてきたものを否定されまいと、朱音の視線を真っ向から受け止めている。


 一方の朱音も、単なる嫉妬だけで口を挟んでいるわけではなかった。《黒天》は俺の膨大な魔力を受け止められる唯一の武器であると同時に、これまで誰も扱えなかった未知の剣でもある。俺が戦闘中に力を注ぎすぎれば、刀身や内部の魔力経路へどのような影響が出るか分からず、朱音が同行したいと考えること自体には十分な理由があった。


 問題があるとすれば、二人とも正しいはずなのに、なぜか会話が進むほど険悪になっていることだろう。


「三人で行けばいいのでは?」


 俺が最も単純な解決策を提示すると、二人の視線が同時にこちらへ向けられた。


「湊は少し黙っていて」


「天城さんは、もう少し女心を学んだ方がいいと思います」


「……すみません」


 なぜ謝らされたのか分からなかったが、今は反論しない方がよさそうだった。


 その時、応接室の扉が開き、分厚い資料を抱えた黒瀬さんが入ってきた。室内へ足を踏み入れた彼女は、俺たち三人の位置関係と張り詰めた空気を確認すると、事情を尋ねることもなく疲れたようなため息を漏らした。


「コラボ配信についてですが、協会として条件付きで許可します」


「本当ですか?」


 ユナの表情が明るくなったものの、黒瀬さんは喜びを制するように資料をテーブルへ置いた。


「目的地は協会管理下のD級ダンジョン。白銀さん、御剣さんの同行も認めます。ただし、天城さんには今回、可能な限り戦闘へ介入しないでいただきます」


「俺が戦わないんですか?」


「あなたが戦えば、配信開始から数分で攻略が終わります。それでは白銀さんとのコラボになりませんし、《黒天》の通常戦闘時におけるデータも取れません」


 確かに、魔物を見つけるたびに俺がすべて倒してしまえば、ユナが俺の役に立ちたいと願った意味もなくなる。朱音にとっても、災害級魔物を斬るような極端な状況ではなく、普段の探索で《黒天》がどのような反応を示すか知る機会になるらしい。


「ただし、危険が迫った場合は俺が二人を守ります」


「言われなくても分かっているわ」


「……また、守ってくれるんですね」


 ユナは安堵するように微笑んだが、その表情はすぐに僅かな寂しさを帯びた。渋谷第三ダンジョンで自分だけが助けられたことを特別な出来事として抱えていた彼女にとって、俺が朱音にも同じ言葉を向ける光景は、胸の奥へ小さな棘を残したらしい。


 俺には、その変化の理由がすぐには分からなかった。


「白銀さん?」


「何でもありません。ただ……今度こそ、私が天城さんを守れるくらい頑張ります」


 ユナは微笑んでいた。しかし、膝の上で重ねられた指には白くなるほど力が入り、青い瞳の奥には置いていかれることへの恐怖が沈んでいる。命を救われた瞬間から、俺という存在が彼女の中で急速に大きくなりすぎていることを、当人だけがまだ認められずにいるのだろう。


 朱音もその感情に気づいたのか、《黒天》を抱く腕へ僅かに力を込めた。自分だけが俺の剣を理解し、自分だけが隣に立つ資格を持っている。そう信じていた彼女にとって、ユナが俺へ向ける熱は無視できるものではなかった。


「守る必要なんてないわ。湊の背中は、私が造った剣が守るもの」


「剣だけでは、心までは守れません」


「あなたなら守れるとでも?」


「少なくとも、助けられたままで終わるつもりはありません」


 再び二人の視線が衝突し、俺は誰にも気づかれないよう小さく息を吐いた。


 結局、次の配信は俺、朱音、ユナの三人で行うことに決まった。


 協会が用意した安全なD級ダンジョン。


 異常発生の報告もなく、危険度も低い。


 少なくとも魔物との戦闘に関しては、何も心配する必要はないだろう。


 ただし、俺の両隣で互いを意識し続ける二人を見ていると、今回最も警戒すべきものは、ダンジョンの中には存在しないような気がしてならなかった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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