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第5話 弱き剣士と銀星の少女 初級冒険者

ギルドに戻ったとき、もう日は西に大きく傾いていた。


マリエルはふたりを見るなり、カゲトの肩の包帯に気づいた。

彼女は片眉を上げ、それから、何も言わずに大きく息を吐いた。


「ふたりとも、無事ね」


「はい」


「依頼、達成できた?」


「ゴブリン、四匹のうち二匹を仕留めて、二匹は逃げました。あと、巣のなかにもう一匹いて、それも一匹」


「それで、その肩は」


「最後の一匹を、ステラさんに行かせるわけにいかなかったので」


ステラは、横で唇を結んだ。

マリエルは、それに気づいて、ふっと笑った。


「ね、ステラちゃん。怒ってるわけじゃないわよ。彼の選択は、新人としては合格点」


「はい……」


「あなたの暴発の癖は、これからゆっくり直していけばいい。ふたりで」


そう言ってマリエルは、奥の棚から、小さな金属の札をふたつ取り出した。


鈍い銅色の、薄いタグだった。

表に、ギルドの紋章。裏に、それぞれの名前が刻まれている。


「初級冒険者、第七級。ふたりとも、おめでとう」


札は、ことり、と軽い音をたてて、カウンターに置かれた。


ふたりは、しばらく、それを見ていた。

それから、おずおずと、それぞれの札を手に取った。


カゲトの掌の上で、銅色の札は、思っていたよりずっと冷たくて、ずっと軽かった。

それでも、その小ささが、なぜか、彼の胸の奥のほうを、強く押した。


「……これ、もらっていいんですか」


「もう、もらってる」


マリエルは、軽く笑った。


「ふたりは、今日からはもう新人じゃない。次の依頼は、自分たちで選んでいいわ。受けるも、受けないも」


ステラが、自分の札を、両手で包み込むように握りしめた。

唇が、少しだけ震えていた。


「……ありがとうございます」


声は小さかったが、よく届いた。



ギルドの外に出ると、街は夕焼けの色に染まっていた。


屋根の影が長く伸び、煙突から細い煙が立ち昇っている。

市場の店じまいの声が、遠くで重なっていた。


ふたりは、しばらく、何も言わずに歩いた。

それぞれの掌に、まだ銅色の札の重さが残っていた。


「カゲトさん」


「はい」


「私たち、もう、ちゃんと冒険者なんですね」


「……みたいですね」


「変なかんじです。何も、変わってないのに」


「変わってないのに、変わった気がしますね」


ステラは、こくんと頷いて、それから、空を見上げた。


夕焼けの中に、もう、一番星がうっすらと滲んでいた。


「ねえ、カゲトさん」


「はい」


「これからも、よろしくお願いします」


夕の光のなかで、銀色の髪がほのかに桃色を帯びていた。

差し出されたのは、ふくよかな宣言ではなく、ただ、ささやかな約束のような言葉だった。


カゲトは、自分の口元が、少しだけ緩むのを感じた。

肩の傷は、まだうっすらと熱を持っていたけれど、その熱は、不思議と、悪いものに思えなかった。


「こちらこそ。よろしく、お願いします」


そう答えた。

それだけのやり取りだった。


それでも、見習いの日々が終わったことを、ふたりは、はっきりと感じていた。


夜に向かって、街の灯がひとつ、またひとつと、灯り始めていた。


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