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01-08. 王都での編入試験

(おお、なんとも絶景じゃないか!)


窓の外には、どこまでも澄んだ碧い湖が広がっていた。

風とともに流れていく景色に、私は釘付けになる。


「ミリーったら、そんなに車窓からの景色が楽しいの?」

「無理もない。列車に乗るのは初めてだからな」


ガタゴトとリズミカルな音を立て、個室を心地よい揺れが満たしていく。

私は今、列車という「鉄の乗り物」に身を任せる乗客の一人だった。

真っすぐに敷かれた線路という鉄の道を、連結された細長い箱が高速で突き進んでいく。


大陸横断鉄道。

ウィンスフェルド王国の王都を中心として、西大陸の主要都市を結ぶ交通網だ。

列車――正式には「魔導列車」といい、魔導車と同じく魔力によって駆動する。

だが、その規模は魔導車の比ではない。

一度に大勢の人間と、さらに多くの貨物を運ぶことができるという。

魔導車にも驚いたが、この乗り物はさらに上を行く。

現代の魔導技術には、実に目を見張るものがあるな。


「ミリー、危ないから窓は開けちゃダメだよ」

「こちらの窓は開かない構造になっているようですね」


私が窓枠を観察しながら答えると、姉は「あ、そうなんだ」と意外そうに目を丸くした。


「俺たちが初めて乗ったときは、フェリがどうにか窓を開けようとして、外に向かって手を振ろうと奮闘していたな」

「もう、なんでリヒドはそういうことばかり覚えているの……」


私は休暇に入った兄と姉、数人の使用人とともに、列車に揺られて王都へと向かっていた。

目的は、学校の編入試験を受けることだ。

ジルハイム領から王都までは、およそ二時間の道程。

「駅舎」と呼ばれる巨大な建物を出発してからは、こうして雄大な景色を眺めながら穏やかなひとときを過ごしている。

(それにしても速いな。この質量とこの速度で竜に衝突したら……いや、さすがに竜が勝つか?)

そんな益体もない思考を巡らせているうちに 、列車はあっという間に王都へたどり着いた。


『三番線に到着いたします列車は……』

『五番線より発車いたします列車、アクティー発……』

王都の中心、アクティー駅は、ジルハイム領のそれよりもさらに広大だった。

列車を降りると、駅舎の外で待っていた現地の使用人と合流し、魔導車へと乗り込んだ。

目移りしそうな街並みに思わず立ち止まりたくなる。

だが、私は遊びに来たわけではない。

今日は王都にあるジルハイム家の別邸に泊まり、明日の本番に備えるのだ。


試験の内容は、事前に通達されていた。

午前中に学力試験、午後は「品位」と称される礼儀作法の実技、そして最後に本人と保護者を交えた三者面談だ。

(本当にマナーの試験があったのか……)

結果はその日のうちに通知されるという。

合否を待つじれったい時間が最小限で済むのは、何よりの救いだった。

少しだけ緊張はしているが、決して悪い感覚ではない。

私は屋敷から連れてきた「デステマ」とともに早めにベッドに入り、静かに目を閉じた。


翌朝、試験の会場となる学校へと魔導車で移動する。


「ミリーなら、絶対大丈夫だからね」

「何があっても慌てず、平常心を心掛けるんだぞ」

「はい、頑張ってきます」


兄妹に見送られながら、私は付き添いの使用人とともに荘厳な鉄の門をくぐった。

王立レオノーラ女学院。

その昔、ウィンスフェルド王国の歴代君主の一人、二代目の女王が設立し、百年以上の歴史を有する由緒ある名門校だという(ここ試験で出るな)。

余談だが、兄と姉はジルハイム領内の学校に通っている。

両親はなぜ私だけをわざわざ王都にある学校へ通わせようとしているのか、その理由を以前尋ねたことがあった。


「ミリーに一番ふさわしい場所なのよ」


そう答える母の微笑みは、はぐらかしているというより、今の私に説明しても理解するのは難しいだろうと考えているようだった。

(……単に、男を近づけさせたくないとか? それとも、将来のために箔をつけたいとか?)

まあ、受かる前からそんなこと考えても仕方がないか。


本日は休校中とのことだが、寮生が活動しているのか校内には人の気配があった。

正門から校舎棟にかけては、宮殿を彷彿とさせる瀟洒な建築様式で、歴史の重みを感じさせる。

厳かで静かな庭園には噴水が配され、季節折々の花が彩りを添えていた。

その一方で他の校舎は近代的なスクエア型の構造になっている。

古き良き伝統を残しつつも、最新の様式も取り入れているのだろう。

係りの者に案内され、教室と呼ばれる部屋へと入る。

試験を受けるのは私一人だけのようだ。

まずは午前中の学力試験。

文学、数理、地理・歴史の三つの科目の筆記が、それぞれ一時間ずつ行われる。

(事前に家庭教師から聞いていたが、これはなかなかの難問だな……)

現代の教育水準を詳しく知る由もないが、九歳児に課すにはかなりのレベルだろう。

おまけに問題の量が多く、頭から律儀に解いていては確実に時間が枯渇する。

いかにリソースを有効に使い、効率よく攻略できるかを試す試験というわけだ。

(ふん――数十匹の翼竜に包囲されることに比べれば、これしき造作もない!)

――終わった。

頑張った、とにかく頑張った、前世も含めて一番頑張ったんじゃないかぁ?

数理科目は期待通り楽勝だった。

残り二科目も制限時間ギリギリまで使い、気合ですべての解答欄を埋めてやった。

これは確かに、一年以上にわたってみっちりと勉強させられたことだけはある。

(私をここまで疲弊させるとはな……。なかなかやるじゃないか、レオノーラ女学院)


「お疲れ気味だね。ミリー、大丈夫?」

「どうにか……」


昼食は再び兄妹と合流して、近くの飲食店で軽い食事を摂った。

確かに手応えはあったが、少しペース配分を間違えたかもしれない。

全力を出しすぎて、午後の分まで体力を削ってしまった。


「午後は実技と面談だったな。心配しなくても、いつも通りで十分だぞ」

「そうだね。あくまで確認程度だって案内に書いてあったし」


二人の励ましを背に、十分な休息をとってから再び学院へ向かう。

一時間ほどの礼儀作法の試験は、それほど厳密なものではなかった。

あくまで基礎が身についているかの確認といった様子だ。

とはいえ、私は気を抜くことも手を抜くこともしなかった。

(いかなる時も、油断は「死」に直結するからな)

難なく乗り越え、残るは三者面談だ。

予定の時間の少し前に、公務で王都を訪れていた両親と合流した。

面談官の様子を見る限り、私本人よりも、二人の立ち振る舞いや「親として子の将来をどう考えているか」を重視しているような印象を受けた。

父も母もそつなく対応し、面談は和やかに終了した。

さすがは一領地を任されていることだけはある。

しばらく別室で待たされた後、私たちは応接室へと通された。

そこで告げられたのは、「合格」の二文字。

(よし、まずは一段落だな……!)

心の重荷がようやく下りた気がした。

いや、まったく……精神的には、竜と殴り合う方がよっぽど楽だな。


「ミリー、おめでとう!」


その日の夕食は、王都のレストランでの祝勝会となった。

運ばれてくる料理はどれも豪華で、まるで最初から合格が決まっていたかのような準備の良さだ。

(もし落ちていたら、この空気はどうなっていたんだ……?)

そんな恐ろしい想像が頭をよぎったが、すぐに打ち消した。

今は、目の前の高級料理に舌鼓を打ち、家族との幸せな時間を満喫することにしよう。


「ミリーが王都で寮暮らしか……寂しくなるな」


ふいに呟かれた姉の一言。

気持ちはわからなくもない。

とはいえ、歳を重ねるということは、つまりそういうことだ。

(私としては、今度こそ夜更かしができる楽しみで一杯なのだがな)


「俺たちだって寮生活だろ。普段だって週末にしか会う時間はないじゃないか」

「そういうことじゃないの。リヒドはわかってないなぁ」


私にもよくわからない。


「はは、フェリシアは本当にミリーのことが好きだな」

「良い機会かしら。フェリシアもそろそろ妹離れしなくてはね」

「それは嫌! ミリー、週末は絶対に帰ってきてね!」


屋敷と王都を毎週行き来するのか。

物理的に不可能ではないが、ここは母の言葉を全面的に支持したいところだ。


「……善処します」


皆が姉の駄々に呆れる中、私はデザートのアイスクリームを口に運んだ。


翌日は、王都の観光と制服の仕立てに向かった。


「うわぁ、ミリー、可愛い! すっごく可愛いよ!!」

「お姉さま、抱きつかないでください。試着用の服にしわが寄ってしまいます……」


どうやら一部の学校では皆が同じ服装をする慣習があるとのこと。

レオノーラ女学院の制服は、深紫色のワンピース。

おしとやかで気品あふれるデザインだ。

首元には赤いリボン、胸元から腹部にかけて金色のボタンが整然と並ぶ。

(……これは、派手な動きは制限されるな)

それが私の率直な感想だった。

採寸を終えた後は、許される時間いっぱいまで王都観光を楽しみ、私たちは満足感とともに帰路についた。

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