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竜体魔導士の転生録 ―我が魔導の極致をこの時代に綴る―  作者: 加茂正路
エピソードⅡ ダンジョン&モンスター
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02-21. 怪しい集団

肉体が魔力でのみ構成されている迷宮獣(めいきゅうじゅう)は、通常の生き物とは生死の概念が異なる。

彼らは「死」を認識しない限り、周囲の魔素(まそ)を取り込んでいくらでも肉体を再生してくるのだ。


死を認識させる一番手っ取り早い方法は、核となっている魔石を砕くこと。

だがそれでは貴重な魔石を回収できなくなるため、余程の事態でもない限りは避けられる。


二つ目は、肉体……とりわけ頭部を大きく損傷させること。

一般的に冒険者が迷宮獣を倒し、魔石を回収する際はこの方法をとる。


そして三つ目が、首と胴体を完全に切り離すこと。

一説によれば、魔物に混ざり込んだ生物としての残滓(ざんし)が、それを「死」と認識するからだと言われている。


「終わったわね」


首を断ち切られた竜種の迷宮獣は、私の一撃によってその命を終えた。

残された巨大な肉体は、ゆっくりと魔力の粒子となって空気中へと散り散りに消えていく。


「ミリー様、本当に、お疲れ様でした」

「まじで……一人で倒すなんて信じられん……」


久しぶり……というか、今世では初めての、心から満足できる戦いであった。

礼を言うぞ、名もなき竜よ。


滾(たぎ)った心身がまだ落ち着かない。

ゆっくりと勝利の余韻と満足感に浸(ひた)りたいところではあるのだが……目の前に転がる「これ」をどうするか、まずは考える必要がありそうだ。


「途轍(とてつ)もなく大きいですね」

「まあ、竜種だからな」


私たち三人の視線の先にあるのは、巨大な『魔石(ませき)』である。

迷宮獣が消滅する際に残す魔素の結晶だ。

竜種となればその大きさも相当なもので、青白く輝きながら威圧感を放つ魔石は、私の頭よりも大きかった。


「これって売ったら幾らくらいになるのかしら?」

「いや、これはもう市場で取引できるような代物じゃないな」


え、そうなの?


「オークションとか、専門の業者とかはないの?」

「どこの国でも、竜種クラスの魔石になれば個人での所有は禁止されている。例外なく国家へ納める規則があるんだよ」


ふーむ、ロマンのない話だな。

もうちょっと、こう、億万長者!とか、離島で別荘暮らし!とかにならないのか。


「その代わり、国から何でも要望を叶えてもらえる権利がもらえるぞ」


マジか!?

いいねいいね、それだよそれ。

竜種の魔石、それほど貴重な物なのか!


「あくまで現実的な範囲でだから……って聞いてないか」


国から貰える権利。

何がいいだろう? やはり魔獣が生息する島への渡航許可がほしいところだな。


「これ、持って帰ってもいいかしら?」


私が動かずとも、ヒューゴに捌(さば)いてもらえばいいのだからな。

しかし、世の中はそれほど甘くはないようだ。


「ダメに決まってるだろ……。冒険者ギルド経由で国へ譲渡するときに、詳細な入手経路の説明が必要なんだぞ。嘘や誤魔化しがバレたら、下手をしなくても禁固刑だ」


なるほど。貴重になればなるほど、逆に扱いにくくなるわけか。

ということは、この魔石はここに放置して帰還するしかないわけだ。


「――誰か来るわ」


そんな雑談の最中、ふと人の気配を感じ取った。


「調査隊の派遣は明日のはずですが……」

「おい、二人は……それを持って、岩の後ろに隠れろ!」


ダンジョンは現在、立ち入り禁止となっている。もし管理施設の関係者に見られたら非常にまずい。

ヒューゴが囮(おとり)を申し出てくれたため、私とティアナは魔石を抱え、気配のする方向から遠ざかった。

先ほどの戦闘によって、見通しの良かった広場には大小さまざまな岩が散乱している。隠れる場所には困らない。


しばらくすると、最下層へ続く通路の出口から数人の人影が現れた。

その集団はすぐにヒューゴの存在に気づいたようで、まっすぐこちらへと近寄ってくる。


「おいおい兄ちゃん、えらく酷い有様だな……」


全員で六人。

赤のラインが入った揃いの黒いローブを羽織っており、深く被ったフードのせいで顔はよく見えない。

そのうちの一人、やや軽薄な印象のある男が、何の躊躇(ためら)いも警戒もなくヒューゴへと話しかけてきた。


「誰だ、お前らは。ここは立ち入り禁止のはずだが」

「それはお互い様だろ。まあなんだ、ワイバーンが出たって話を聞いてちょっと倒しに来てみたんだが……倒したのか?」

「いや、そういうわけでは……」

「そうなのか? 随分と周囲が荒れているから、てっきりそうだと思ったんだが。確かに、兄ちゃんには目立った怪我もないようだしな」


ほほう、何やらあの怪しい集団はワイバーンを倒しに来たようだ。

どう見ても冒険者や調査隊とは思えないが……もしかして、いわゆる密猟者というやつか?


「ワイバーンなら明日、調査隊が派遣される予定だ。勝手に討伐すると罪に問われるぞ」

「ん? お堅いこと言うなよ。せっかくの獲物なんだ、ちょっとぐらいいいだろ」

「ちょっとも何もあるか。明確な違法行為ならギルドに連絡……? お前……」

「おっ?」


ヒューゴの言葉が途中で止まる。相手の顔に見覚えがあり、何かを思い出した様子だ。

その反応を察した男は――体内の魔力を急速に増幅させた。


「おらよっ!」


男は突然、腰から素早く短剣を引き抜き、襲いかかってきた。

ヒューゴはそれを間一髪、長棍(ちょうこん)で防ぎ止める。


「いきなり何を……!」

「はっ、いい身のこなしじゃないか! それだけ動けるなら、お前がワイバーンを倒したって言われても不思議じゃねぇな」

「ふざけるなっ!」


ヒューゴの長棍が空を切る。

男は素早く後ろへ跳んで回避していた。その拍子にフードが捲(めく)れ、顔が露わになる。


「やはり、お前は……!」

「へぇ、俺の顔を知っているようだな。同業者か?」

「一緒にするな」


嫌悪感を隠さず、ヒューゴが吐き捨てる。

ヒューゴに比べると細身の男は、飄々(ひょうひょう)とした様子で短剣をくるくると指先で回していた。

人相の悪さは一目瞭然だな。


「ミリー様、あの男はおそらく指名手配中の元冒険者です。手配書で見た記憶があります」


ティアナが耳元で小さく教えてくれた。

よく覚えているものだ。それほど有名な犯罪者なのか?


「元Aランク冒険者のダラス……なぜこんな低ランクダンジョンにいる」

「ははっ、俺の代わりに自己紹介ありがとよ」


元Aランク冒険者か。

なるほど、先ほどの身のこなしにも合点がいく。

ヒューゴ相手に一切の警戒を見せないのは、己の腕に絶対の自信があるからか。


「まっ、新人の『おもり』ってやつだよ」


ダラスと呼ばれた男は、後ろに控える五人を顎(あご)でしゃくってみせる。


「面倒くせぇと思ってたんだが……そこにワイバーンの話だ。まったく付いてるぜ。個体にもよるが、あいつの魔石なら大きさも申し分ねぇ。クライアントも喜ぶだろうよ」

「クライアント……? 何の話だ」

「ははっ、ここで死ぬ奴には関係ねぇ話さ!」


ダラスは腰からもう一本の短剣を引き抜くと、再びヒューゴへと鋭い斬撃を仕掛けてきた。

元Aランクゆえの技量か、あるいは場数を踏んだ悪党ゆえか。二本の短剣による容赦のない連撃が繰り出される。


まずいな。ヒューゴの冒険者ランクはBだ。

額面通りの実力差なら、かなり危ういかもしれない。


「ははっ! ワイバーンの前の準備運動だ! その装備じゃせいぜいBランク程度だろ? どこまで楽しませてくれる!」

「くっ……!」


息つく暇もない連撃に、ヒューゴは完全に防戦一方だ。

なんとか持ちこたえてはいるが、このままでは――。


「おいおい、どうした? 防ぐので手一杯か? あーあ、俺の顔を知っていたのが運の尽きだったな。気づかなかったフリでもしていれば、一発で殺してやったものを!」

「はっ、その下手くそな殺気を隠せていたとでも思っていたのか!」


ヒューゴはその場から一歩も動けず、ひたすら相手の攻撃を弾き続けている。

どうにか口だけは威勢よく言い返しているが、このままでは……あれ?


「はぁ、はぁ……おい、お前、なかなかやるな。まさかAランクじゃ……」

「隙だらけだぞ!」


ダラスの動きが、急速に鈍る。

その隙を見逃さず、ヒューゴの一撃――竜体術を乗せた長棍が、鋭く敵の胴体へと叩き込まれた。


「む……?」


見事に決まったと思ったが、ダラスはダメージを受けていない様子で体勢を立て直した。


「ははっ! 新型の魔導(まどう)アーマー様々だな、この程度の攻撃で――ん? 何だ、今のでエネルギーが一割も減っただと!?」


どうやらノーリスクで防ぎ切ったわけではないらしい。

今日のダンジョン探索で私とアリサが装備していた魔導具と同じ類か。

どうやら、性能があまりよろしくないようだ。


「元Aランクらしいが、腕が鈍っているんじゃないか!」

「ぐっ、!?」


形勢逆転だ。

長棍による強烈な一撃が幾度となくダラスへ浴びせられる。回避や短剣での受け流しを試みているようだが、すべてを捌き切ることはできず、魔導アーマーを打ち据える甲高い打撃音が小気味よく響き渡る。


「な、なぜこんなに消耗が激しい!? 不良品か!? ああ、くそがっ、こうなったら!」


ダラスは焦った様子で腰から小型のボール状の魔導具を取り出すと、地面へ叩きつけるように投げつけた。

直後、もうもうと激しい煙幕が辺り一面に立ち込める。


「いくぞ、お前ら!」

「「は、はい!」」


視界を奪い、煙に紛れて襲い掛かるつもりか。

そうなったら私とティアナも加勢した方が良さそうだな。


……。

…………?


いや、違う。逃げたな。


気配は急速に遠ざかり、そのまま完全に消えていった。

煙が晴れ、岩の陰から出てヒューゴの元へ向かうと、彼も相手が完全に逃げ去ったと悟ったのか、長棍の構えを解いた。


「ヒューゴ、大丈夫?」

「ああ……だが、逃げられたな」

「追いますか?」

「いや、不用意な深追いはやめておこう。本当にあの人数だけかも分からないからな」

「放っておくしかないみたいね」

「ギルドにそれとなく報告しておくさ。街でそれらしき人物を見かけた、とな」


そんなところか。

それに私たちも、そろそろ屋敷へ戻らねばならない時間だ。


というわけで。

まずは、竜種の魔石の処理である。


「あーあ、もったいないわねぇ」

「諦めろ。手元に置いておくのも危ういし、ここに放置しておくのも論外だ」


魔石は、竜が地下深くから這い出してきた大穴の中へと投げ落とした。


まあ、いい。

あの魔石から、いつかまた新たな竜種が生まれるかもしれない。

再び相まみえる時が来るのなら、その時はまた相手になってやろう。

金や名誉より、竜と戦うことこそが私にとっての本望なのだから。


「さて、と……」


私はすっかり荒れ果ててしまった周囲を見渡した。

私と竜が暴れ回った結果、激しい戦闘の痕跡(こんせき)がどこまでも広がっている。


「ヒューゴ、お願いね」

「はぁー……お前、ほんとなぁ……」


ヒューゴには申し訳ないが、いくら前世の記憶があろうと今の私は十歳だ。すっかり夜も更けて身体の限界らしく、猛烈な睡魔が襲ってきた。


明日調査隊の人たちが来ても怪しまれないよう、後始末よろしく!


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