02-16. 最下層へ
「ワイバーンってどれくらいの強さなの?」
「迷宮獣の場合はかなり個体差があるが……おおよそ『Bランク』相当だな」
ふむふむ、なるほど。
「で、そのBランクってどの程度よ?」
魔物の強さの基準が分からない。
ヒューゴ自身もBなわけだし、つまりは同等の強さという意味なのだろうか?
「Bランクの魔物なら、同ランクの冒険者パーティ――だいたい四、五人程度で討伐できる想定になる」
つまり、ヒューゴくらいの強さのパーティで倒せる程度ということか。
……あまり手応えはなさそうだな。
それでも、上層や中層で出てきた連中よりは楽しませてくれそうだ。
ふふ、久々に血が滾るというものよ。
――そして、夜。
「というわけで、行くわよティアナ」
「はい? どちらへ行かれるのですか?」
ワイバーンの件で急遽立ち入り禁止となったダンジョンを後にし、私たちはアリサの屋敷へ戻っていた。
シャワーを浴び、夕食に舌鼓を打ち、今日の感想を語り合い――あとは寝るだけとなった夜更けの寝室で、私は即答する。
「もちろんダンジョンよ!」
明日は帰宅日だからな。チャンスは今夜しかない。
「しかし……いえ、行く方法については問いません。ですが、不測の事態が起きた場合、私だけでは対処しきれない恐れがあります」
「なるほど?」
「それに、万が一のことがあれば、アリサさんにご迷惑がかかってしまいます」
「なるほど……」
ティアナの指摘に、一旦冷静になる。
確かに、それだけは絶対に避けなければならない。
下手をしたら後日、両親に話がいって一生ダンジョンを出禁にされる可能性すらある。
となると、選択肢はひとつしか……いや、ひとつもあるじゃないか。
「要するに、頼れる同行者がもう一人いればいいってことよね?」
「ええ、はい……まさか?」
いるじゃないか、うってつけの人物が。
案が決まれば話は早い。ついでに足も用意してもらおうか。
* * *
昼間の賑わいが嘘のように静まり返った、夜の安全区画。
魔導灯の明かりを頼りに、音を立てないようエレベーターの扉を開ける。
「よっと……誰もいないわね?」
念のため周囲を確認するが、人影はない。そのまま順番に扉をくぐる。
最後にくぐった人物は扉をゆっくり閉めると、ため息交じりに零した。
「ワイバーンの出現で中層以降は封鎖されたからな。それに、このダンジョンは一般冒険者の宿泊が禁止されている」
うってつけの人物――私の事情と願望をある程度知っており、説明要らずの便利な男ヒューゴを加え、私たちは再びダンジョンへの侵入を果たしていた。
「ターゲットは最下層にいるのかしら?」
「安全区画周辺の魔素は薄くなっているからな。よほどのことがない限り、下層の魔物が上がってくることはない」
「探す手間が省けて助かりますね」
すべては私に都合よく進んでいる。
疲労のせいか、アリサは「ごめんね二人とも」と申し訳なさそうに早々と就寝。
全然疲れているように見えなかったアンリエッタも、「ミリーちゃんたちも早く寝なさいよ」と早々に床に就いてくれた。
(はははっ、絶好の機会だな!)
一杯引っ掛けようとしていたヒューゴを捕まえ、「夜の街に出たい」と口実を作らせて屋敷の魔導車を借りさせる。あとは私とティアナがそこに潜り込み、屋敷を脱出。
ダンジョン管理施設への侵入?
敷地が広大なおかげで、身体強化魔法や竜体術を使えば侵入なんて造作もない。
ただし、問題は時間である。
私の就寝時間までに何事もなかったかのように帰らなければならない。
そこで利用したのがエレベーターだ。
さすがに稼働させて音を立てるわけにはいかないので、シャフトを伝って一気に下へと降りてみせた。
ちなみに私は余裕だったのだが――。
「あの深さを一気に降りるとは……底が見えず怖か――いえ、いい経験になりました」
「いくらなんでも、無茶苦茶すぎるだろ……」
屋敷を出てから、下層手前の安全区画までわずか三十分足らず。
さて、準備運動は終わった。ここからが本番だぞ。
「確認するが、約束は忘れるなよ」
「ん? はいはい、心配しなくていいわよ」
ヒューゴを巻き込むにあたって一つ約束をさせられたが、まあ大したことではない。
しっかりと頭の隅に放り込んでおく。
「じゃあ、一気に飛ばすわよ」
「はい!」
「はぁ、毒を食らわば皿まで、か……」
――竜体術、五パーセント!
竜体術を発動し、身体能力を魔法によって上書きする。
時間も限られている。道中で無駄遣いをする気は一切ない。
安全区画を出て、最下層への最短ルートを一気に駆け抜けていると――
「おっ、さっそく出たわね」
中層で出現した中でも一番倒すのが厄介だった迷宮獣、ロック・ライノスが進路上に姿を現した。
「昼間は散々手こずらせてくれたじゃない」
すれ違いざま――ガンッ!と、その岩のように硬い皮膚へ思い切り拳を叩き込んでやる。
次の瞬間、岩のサイは跡形もなく爆散した。
いやー、爽快!
これだよ、これこれ!
魔物を粉砕するこの感覚! 前世の血が騒ぐぜ!
「相変わらず、えげつない破壊力だな……」
「さすがです、ミリー様」
その後も昼間に遭遇した連中や、下層で初めて出くわす迷宮獣もいたが、進行の邪魔になるやつらはことごとく無に帰してやった。
倒した後に残るはずの魔石? 悪い、それすら残さず完全消滅だ。
「おい……お前の主、マジで大丈夫か?」
「ええ、まあ……たまには羽目を外されるのも良いのではないでしょうか……」
背後で二人が引き気味に何か言っている気もするが、気にしない。
今日は散々お上品に我慢させられたのだ。ここで吐き出さずにいつやるっていうんだ!
おい魔物ども! 挑むならかかってこい! 消滅させられたくなかったらそこをどけっ!
メインディッシュはこれからなんだぞ。
せめて前菜くらいにはなってくれよな!




